【ピアノ弾き】の冒険者~「戦闘中にうるさいんだよ」と追放された、演奏で《バフ&デバフ》を操る自称『補助最強』の俺は、一緒に追放された笑わない女剣士を英雄にしてやろうと思う~
第19話 ◆先見の明のダンジョン攻略◆ ③
第19話 ◆先見の明のダンジョン攻略◆ ③
【SIDE:アティ】
「……も、申し訳ありませんでした」
絞り出した声は震えていた。
わたくしの謝罪にネロ様、ゴードン様は「ふっ」と鼻で笑い、カリム様は「大丈夫、大丈夫!」と笑顔を見せる。
クレハ様は顔を青くして俯き、唇を噛み締めているが、その意味はわかりかねる。
"壁を破壊して"……?
わたくしはネロ様の言葉を反芻しながら、友の言葉を思い出していた。
ーーふ、2日で50階層? ……絶対に無理でしょ。人間じゃないよ、"先見の明"……。
魔法師団に元同期にして、現在Sランクパーティーの魔術師である"水平線の月"のミリアの言葉。
どれだけ入念に準備して、どれだけ優秀な者を集めたとしても「歩く速さ」に差異はない。
2日間で50階層踏破など、ダンジョン内で《転移魔法》などの高等魔術を展開しなければ不可能だとミリアは言った。
ーー"ネロ・グリムード"。それが事実なら、噂通り正真正銘の化け物だね!
ミリアはそう言って瞳を輝かせ、「ウチらでも2日なら、20階層くらいかな」と苦笑した。
魔法師団の見習いの時からの友人。
「"人間相手"は向いてないや!」と冒険者になってからも親交は途絶える事はなく、嘘を言っているようには見えなかった。
今回の遠征は3日間の準備期間であったが、ネロ様に誘いを受けてからというもの、わたくしは「冒険者」について色々な情報を手に入れたつもりでいた。
でも……、冒険者としての初陣が今。
経験のないわたくしには、「冒険者の常識」を経験したわけではない。
わたくしの知識はミリアやギルドにいた方たちに聞いたものや、ギルドの資料の中でしかない。
ネロ様たちとわたくしの『常識』に違いが合ったのだとしたら、確かにネロ様たちに確認しなかったわたくしの責任でもある。
なので、謝罪をしたのですが……、
「……"壁を破壊しながら"……」
声に出して、"やはり異常行動なのでは?"という考えが頭を掠める。
ミリアはダンジョンは生き物だと言った。
……『ダンジョン』を傷つけないに越した事はないと……。
ダンジョンの「憤怒」を向けられれば生きては帰れない。そうなれば何が起こるかわからないと……。
「本当にありえねぇぜ、お前。どうしてくれんだよ! こんなとこで体力使わせやがってよぉ!」
「……申し訳ございません、ゴードン様」
「どうしてくれんだ? ぁあ!? 随分と生意気な口を叩いてくれたよなぁ!! コラ!!」
「……申し訳ございません」
「謝っても時間は巻き戻んねんだよ!」
「……ど、どのようにして、壁を判別するのでしょうか……?」
「はぁ?」
「《魔力感知(マナ・サーチ)》で、ダンジョンの壁には何重にも魔力層ができている事を確認しております」
「なんだ、そりゃ?」
「壁一面の魔力層は全てが一定で、穴は感知できません。とても破壊できるものだとは思いません」
「そんなもん、テメェが使えねえだけだろ!!」
「……ご教授頂ければ幸いです! どうすれば、この壁を破壊できるのです? ……つ、常に感知魔術を? ですが、そんな魔力量が人間にあるはずがありませんよね?」
「え、あ、ああ……」
ゴードン様は少し後退るが、わたくしは「自分の知らない魔術があるのでは?」と胸を高鳴らせる。
自分の失態など無かったかのように。
そう。わからなくても仕方ない。
それは割り切ればいい。
謝罪はした。
それ以上に出来る事はもうない。
この方たちの力量を今の今まで疑っていた事は本当に申し訳ないと思っている。
「Lv.」の数値。
クレハ様の挙動。
素行の悪さ。
傲慢な態度。
品のない言動。
鍛錬もせずに各々が好きな事に興じている姿。
酒ばかり飲んでいる盾役(タンク)。
女性のお尻を追いかけてばかりの魔術師。リーダーにベッタリの治癒師に、全てを見下して下品な笑顔を浮かべる剣士。
とても高みを目指す者の姿ではなかった。散財し、遊び呆け、パーティーの今後を話し合うことすらしない。
今回の連携の確認。
「"ハズレ"ならば用はない」と新たなパーティーを探すつもりであったが、
「Lv.」など超越するほどの実力が?
鍛錬など必要ないほどの才能が……?
ーーなんで壁を壊さない?
この一言は、わたくしに衝撃を与えるには充分すぎる言葉だった。「冒険者の常識」ではなく、「"先見の明の常識"」を知る必要があると胸が高鳴って仕方がない。
「どのように判別するのです? 皆様にはどう見えているのです? どう感じているのです? "壊せる壁"と"壊せない壁"の違いはっ?!」
わからないのであれば聞けばいいだけの事なのだ。この方たちにしか操れない特殊な技能があるのかもしれない。
もしかしたら、見た事も聞いた事もない魔術なのかもしれない。
わたくしは、そう考えるだけで心が躍るのですが……、
「……え、あ、いや……、も、もういい!! さっさと先に行くぞ! 案内しろよ、無能!!」
ゴードン様は盾と斧を手に取ると歩き始める。
「え、いや、ゴードン様! 本当に申し訳ございませんでした!! 何卒、ご教授頂ければっ!!」
わたくしが引き止めようと声をかけると、
ドガッ!!
壁に何かを打ちつける音が響いた。
ガッ、ガッ、ガッ、ガッ!!
「……な、何をしているのですか? ネロ様……」
視線の先には、自らの剣であらゆる場所の壁を攻撃し始めたネロ様がいる。
わたくしの問いかけにも答えず、鬼の形相で壁を壊し続けるネロ様が……。
「……"アルマ"だ……。アイツが全部の道を……。僕らだけじゃわかんない……」
ポツリと呟いたのはカリム様。
苦虫を噛み潰したようなクレハ様。
……とりあえず、謝罪させた事を謝罪して欲しいものです。
わたくしの胸の高鳴りは一瞬にして鳴りを潜めた。
わたくしは「時間の無駄」が大嫌いだ。
もう、このパーティーには用がない。
もう帰還してもよいのでしょうか……?
壁を破壊するネロ様の剣技は、混乱していたとしてもお粗末なものだった。
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