第15話 "天才鍛治師の力持ち" ①
※※※※※
ーーギルド長室
「つまり、どうゆうこと……?」
「つまり、"僕も連れてけ!"って事さ!」
ニコニコと笑顔を崩さないが、目は全然笑っていない。
ロミリア・チェル・ガルノ。
一見、ただの幼女だが、その中身は124歳のドワーフ族だと言うのだから交渉事もお手のもののようだ。
よりによってこんな条件だとは……。
俺は先程の流れを思い返す。
ーーまず、コレ誰のかな!?
ロミリアは「古代の楽譜」を高々とあげ、みんなに声をかけた。
シィーン……
信じられない事に持ち主は現れず、ニヤリと笑ったのはロミリアだ。
ーー7日間、持ち主が現れなければ「寄付」で処理するよ!
冒険者ギルドには、ギルド発行の依頼の報酬として、冒険者たちの忘れ物などをギルドの所有物にする権限があるらしい。
そんな事は知らなかったが、「子犬」の持ち主はどうやらロミリアという事になりそうだったのだ。
ーーあっ。それ俺のだわ……。
誰かがポツリと呟くと同時に、ギルド内は狂喜乱舞の混沌に成り果てた。
「金でも、なんでも」
おそらく俺の言葉を思い出し、
「もしかして、この美女も"なんでも"に含まれているのか?」
などとリーシャに鼻息を荒くしたのが原因だろう。
ジトォーっとリーシャに視線を向けられたのは言うまでもないだろうが、もううるさくて収拾がつかなくなり、2階のギルド長室に案内されることとなった俺とリーシャだったのだが……、
「ギルドからの依頼は"この曲を僕に聞かせる事"。依頼発行の条件は、僕を君のパーティーに加入させる事さ……」
ロミリアはニヤァと口角を吊り上げる。
どっかで見た顔だと思ったが、リーシャをダシに使っている時の俺の顔だと気づいた。
ポンッ……
謝罪もこめてリーシャの肩を叩いたが、リーシャは「ん?」と小首を傾げるだけだったから笑えた。
さてさて……。どうしたものか。
よくわからないが、ロミリアはどうしても俺たちのパーティーに加入したいみたいだ。
いや、答えは一つなんだけど……、
「俺たちは2人でもやっていけると思っているんだが?」
とりあえず「お前は必要ない」と伝え、うまいこと雑用を引き受けてもらえるようにカマをかける。
S級冒険者にして"天才鍛治師"。
ぶっちゃけ、鍛治に関しては無知……というよりも興味がないから知らないが、こっそりと《調律(チューニング)》した時、"使える"と判断したのはロミリアだけだったのは理解はしている。
冒険者としての経験も申し分なし。
S級冒険者なんてのは一握り。ランキングの30位以内とかそんな感じだったと思う。
ネロはS。クレハはAだったか?
リーシャもAで、ゴードン、カリムもAだったか……?
パーティーランクはメンバーの平均値や達成クエストなど、さまざまなものが加味される。
とりわけ、ランクなどに興味がないD級の俺が、著しくパーティーの評価を下げていた事も自覚している。
とまぁ、そんなことはどうでもよくて、ドワーフ族は小さくとも怪力と相場は決まってる。
生活魔法の有無はわからないが、ドワーフなら魔道具の一つや二つ余裕で作るだろう。
当初の目的通り、ムキムキマッチョではないが、俺が求める『雑用』が目の前にいるのが現実だ。
それも俺が求める最高の宝を持って……。
本来なら頭をテーブルにつけてお願いするくらいの人材だが、ネロを誘った時のように失策をとるつもりはない。
"俺"に有利な条件で、ロミリアを手に入れる!
軽率な発言をして、自分の言葉に縛られるような事はしない! また我慢の日々に戻るような「約束」はしない!!
俺は断固たる決意でロミリアをジッと見つめ、余裕な表情の一つでも浮かべてやるが、ロミリアは幼女に似つかわしくない表情でニヤリと笑う。
「……あっ……そぅ……」
「ああ。俺たちは2人で充分やっていけるんだ。ギルマスはさぞ優秀なんだろうが、」
「ああ、別にいいよ? 君がとても欲しそうにしてたから、簡単な依頼を受注しようとしただけだからさっ!」
「……ん?」
「……ギルドから依頼する事は多いからね。……残念だけど、この楽譜(スコア)は別の依頼の報酬にするだけさ」
「ふぇ?」
「"長期の依頼"でもお願いしようかなぁ? どれだけ急いでも3年はかかるような難しい依頼でも……」
「……ハ、ハハッ。い、い、い、いいんじゃないか? 別に! お、俺たちは2人で先に行くしぃ!? お前なんか連れてかないしぃ!?」
「……持ち主不明の"寄付"だし、王宮に献上した方がいいかなぁ? これはギルドマスターの一存で決めていいんだよねぇ」
「……ま、ま、まだ7日経ってないがな!? 本来の持ち主がひょこっととりに来るかもしれないだろ?」
「それはそうだね。とりあえず、"コレ"はギルド預かりって事で……」
ロミリアは俺の目の前で「子犬」をヒラヒラとさせる。
今すぐにでも楽譜を読み込みたい俺は、ピクピクと顔を引き攣らせ、半泣きになりながらリーシャに助けを求めるが、
ズズッ……
リーシャは紅茶を啜ってホッコリしているだけだ。
「あっ、ごめんね? 時間をもらって……。もう帰ってくれていいよ?」
「…………ゴ、ゴブリンロード……」
「……ゴブリン?」
「……お、俺たちはゴブリンロードを討伐して来たんだ!! 帰らせてもらう前に査定して貰えるか!?」
バサッ!!
俺はスクッと立ち上がり、ソファの後ろに忍ばせていたゴブリンロードの角や牙、魔石を床に広げる。
「……あ、あ、あ、そう! え? あ、こ、これ、……2人で……?」
ロミリアは超速で瞳をパチパチさせて、ダラダラと汗をかきはじめた。
「へ、へぇ~……。2人……、ふ、2人!? ゴ、ゴブリンロードを2人!?」
「ふっ……」
「……え、あ、へぇー。そ、そっか! つ、強いんだ。君たち……。あ、うん、へ、へぇ~……」
ロミリアは紅茶を手に取るが、
カチャカチャカチャカチャッ……
動揺しすぎて紅茶を溢している。
クククッ!! 俺のターン!!
「……どうかしたか? まあ、かなりの群れだったが、俺たち2人なら余裕だ! ぶっちゃけ、"足手まとい"はいらないだよなぁ」
「……い、いいよ? そ、そ、そ、それなら、別に。これは他の人、」
「ここだけの話にしてくれるとありがたいんだが、その楽譜(スコア)は俺の頭に入ってるんだ! 別に、手元に無くても俺は、別にぃ!? 要らないしぃ!?」
「……じゃ、じゃあいいよ。ぼ、ぼ、僕だって、どうしても冒険者に戻りたいってわけじゃないしぃ!?」
「……さ、さっさと査定してくれ! 俺たちは帰らせて貰うから!」
ロミリアはウルウルと涙を溜めていくが、ここでほだされるわけにはいかない。
他人から見れば、可愛らしい幼女を泣かしている俺は悪者なんだろうが、お、俺はそんなものに左右され……ないんだからなっ!!
「い、行くぞ、リーシャ」
俺が立ち上がると、リーシャもそれにならう。
さあ、引き止めろ。
「なんでもするから」と言え!!
そして、今すぐにその楽譜を寄越せぇえ!!
俺がロミリアに背を向けると、
「き、君が思い出させたんだ……」
震える声が背後から聞こえた。
俺はニヤァアと悪い顔をした。
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