夢の話をしよう【亀】

 ここは、ある町の片隅にある小さな料理店。繁盛しているとは言えないが、人足は途絶えることを知らず、今日も悩みを抱えた人々がこの店にやって来る。


「いらっしゃい」

「こんにちは!」

 

 今日の客は、子連れの女性だった。3歳くらいだろうか。元気な男の子が店主に挨拶をする。


「こんにちは。テーブル席どうぞ」


 小さく会釈をした女性は、随分と若く見えるが、お腹は大きく膨らんでいる。


「どれにする?」

「うーん」


 小さな客は、大きめの椅子にちょこんと座り、メニュー表を覗いていた。


「コレ!」

「え、コレ多いよ?」

「ママと一緒に食べるもん!」

「そう? すみません」

「はい」


 店主は小さな客が何を選んだのか、ワクワクしながら注文を取りに行った。


「どれにしましょう」

「えっと、コレって量どのくらいですか?」

「直径で言えば、20センチくらいで、お客様に合うように小さめに切ったり、少なめも出来ますが」


「ぼく、大丈夫だよ!」

「じゃあ、大きさはそのままで良いので、小さめに切って貰えますか? 」


「わかりました。以上でよろしいですか?」

「はい」

「お待ち下さい」


 店主は、小さな客のセンスに感動すら覚えた。彼が選んだのは海鮮ニラチヂミだった。妊娠している母を思ってか、ただ食べたかったのかは分からないが、素晴らしい直感センスだ。


「よろしければ、お使いください」

「ありがとうございます」

「ありがとう!」

「いえ」


 店主は、子供用の椅子を親子のテーブル席へ置いてから、厨房に入った。

 調理をしている間も、小さな客はきちんと座り、母と何やら話していた。


「お待たせしました」

「ありがとう!」

「ごゆっくり」


 このチヂミは、シーフードミックスとモチモチとした生地の相性が抜群に良い一品だ。つけダレには、醤油、砂糖などを合わせ、白胡麻がたっぷりと入っている。生地に韓国料理で使われる、ダシダを使用する事によって、本場の味が味わえる。


「いただきます」

「いただきます!」


 客は、チヂミを同時に口に運んだ。


「「ううん、美味しい」」


 さすがは親子だ。一言一句全く同じことを言った客は、顔を合わせて笑っている。そんな美しい情景は、どこのビュースポットにも勝るだろう。



「ごちそうさまでした」

「ごちそうさま!」


「まいど。お兄ちゃん、コレどうぞ」

「うわぁ! 亀さんだ!」

「ママにもどうぞ」

「ありがとうございます」


「どういたしまして」


 手を繋いで、ゆっくりと歩く2人の背中を見つめる店主の目は優しく、少し羨ましそうにも見えた。

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