忌み子狼

穏やかな海の近くの岩場。そこに小さな狼の群れがあった。この群れは主に貝や魚、海辺に暮らす鳥達を主食にして暮らしていた。

ある晩、普段穏やかな海が荒れ、白波が大きくうねり雷が轟く夜があった。狼の群れは岩場の小さな洞窟に身を潜め嵐が過ぎるのを待った。

その雷が1つ岩場の上に落ちた。それは卵のような形をした1mを少し超えるくらいの大きさをしたものだった。

嵐が過ぎた後の朝、雲ひとつ無い快晴とともに狼の群れが洞窟から出てきた。狼の群れのボス狼は昨日までそこにはなかった物をみて、警戒をした。

まるで子宮のような生物的な動きをする黒いそれは、今にも何かが出てきそうな様子であった。そしてそれは一瞬動きが止まり、形が大きく歪みまるで中から何かが出てこようと動いていた。

そして大きく切り裂かれた子宮のようなものは中から大量の黒い液体と共に、1匹の子狼が流れるように出てきた。

群れのボス狼は警戒レベルを最大に上げ、恐る恐る近づいた。子狼は弱々しい呼吸をしていた。ボス狼は前足を子狼の胸部に当て心臓マッサージを行った。

子狼は一命を取り留め、ボス狼の群れの中で育てられていた。

ただ、群れの狼達からは、親の無い忌み子として虐められて育ち、食事もほんの少ししか食べられず、普段も群れの子狼や親狼から執拗に噛まれたりなどの事をされた。

ボス狼だけはそれを見つけると怒り、仲裁してくれ傷を癒すなどしていた為、この子狼はボス狼しか信頼していなかった。

そして時が経ち子狼も大人の狼へと育った。周りの群れの子狼達も同様に大人になったが、忌み子の狼は他の狼より何故か体付きが大きく育った為、同様に避けられ忌み子として見られていた。

ボス狼も大人になった忌み子狼を庇う事をしなくなり、喧嘩を売られても、1対複数と不利な喧嘩が多く、常に傷が絶えない状態だった。

忌み子狼はこの群れに居る意味は無いとボス狼に告げ、その場を立ち去った。

風と共に走り去る忌み子狼は狩の仕方も独学だったが、なんとか前よりはしっかり食事をとる事も出来、脇腹の骨も肉が着き見えないようになった。

そしてある時、草原を駆けていた時2匹の狼と出会った。

1匹は黄昏色の足首の辺りに小さな翼が生え、空を飛べる狼。

1匹は深緑色のタレ目でその足元には草木が多く生い茂る狼。

そして自分は紺色の爪の間に小さな水掻きがある狼。

空、陸、海。

この3匹は出会った瞬間お互いに感じ取った。自分達は親無し子として生まれ、忌み子として育ったと。

陸狼は海狼に抱きつくように首と首を重ねてきた。

空狼はゆっくりと着地し、同じように陸狼と海狼にくっついてきた。

海狼も何故かとても温かいものを感じ、そのまま3匹は身を寄せあった。

3匹は共に行動するようになった。寝るのも狩りも共に行い、たまにじゃれ合い、こんな日々が続けばと3匹とも思っていた。そして魔獣が多く住む樹海に身を置く様になっていた。

樹海には沢山の魔獣がいる為、食事にも困らず、寝る場所にも困らなかった。

そんな樹海に人間が侵略してきた。そして侵略と同時に樹海に火を放った。そして魔獣達を殲滅していた。

陸狼は怒り狂い、我先へと戦地へ飛び出して行った。空狼と海狼は出来るだけ魔獣達が逃げられるように誘導する為、別々に行動していた。

海狼は空狼達と出会った草原の方へ力のない魔獣達を誘導しそこで次の樹海へと案内し生活を安定させた。その後、人間達が侵略してきた樹海へと急いで戻った。

まず海狼が目にしたのは真っ黒に燃えた樹海の木々達。そして血や肉が焼けた匂い。

そして陸狼が向かった方へと向かうと、鉄が次々と刺さり、ピクリとも動かない陸狼を見つけた。

そして次に空狼が向かった方へと嫌な予感がし、急いで向かった。空狼は山の方へと向かっていた。その途中人間と魔獣の死体を何度も目にした。そしてその中に小さな穴が何個もあり、そこから出血がもうほぼしていない空狼を見つけた。

海狼は自分が進んだ道がたまたま人間の目をかいくぐったんだと。そしてそのせいで仲間の2匹を失ったと。悲しみのあまり海狼は初めて大きな声で遠吠えをした。その遠吠えは悲しみと怒りが混じりあったような声で、空は大きな雲を呼び寄せ、大地は草木が枯れ始めていた。

そして大きな雲は白い落雷が上から、大地からは黒い落雷が下から遠吠えをしている海狼を貫いた。

海狼はしばらく気を失っていた。そして目を覚まし、静かに自分が生まれた海の岩場へと戻った。

岩場には前にいた群れは無く、ただ何も無い穏やかな海だった。海狼は海に向かって大きく怒鳴るように遠吠えをした。すると海は荒れ、まるで海狼が産まれた時の様な嵐が常に吹き荒れる海辺へと変貌した。

その荒れ狂う海辺で静かに1匹、深く眠りについた。

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海の護り狼 オオカミ @DendokuTOKAGE

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