白狼と黒狼
白狼は何事にも興味は示さなかった。自分の特性を嫌って。
黒狼はとても好奇心旺盛だった。特性で不便な事などなかったから。
対象的な2匹だが、仲が悪い訳では無い。お互いの特性を理解し合いながらまるで双子のように常に一緒に過ごしていた。
ある時、黒狼が海を見つめ、方向に走り出した。白狼は疑うこと無くその後を追うように走り出した。その先に居たのは大きな体をした狼の死体だった。
その狼の背中には大きな切り傷と、背中から腹部を貫くように白く焦げた穴が空いていた。
2匹はこの狼を見てすぐに気づいた。記憶には無い自分達の親だと。そして白狼が怒鳴るような声で遠吠えをした。黒狼は微かに響き渡る様な声で続いて遠吠えをした。
辺りの草木は生と死を行き来し枯れ果てた。
白狼は静かな怒りを覚えていた。
黒狼は激しい悲しみを覚えていた。
白狼は黒狼に訴えた。この切り傷は人間だと。それを私は撲滅すると。
黒狼はこの目覚めない眠りの狼の傍を離れないと訴えた。俺は望みにかけると。
そして白狼は走り出した。手始めに近くの国を1つ白き落雷で生物無き国へと変貌させた。
権力のあった国1つが一夜で白き落雷と共に生物が滅んだ様子は隣国に瞬く間に広がり、はるか昔、海狼が黒い落雷と共に大地を駆け巡った昔の事をを思い出し恐怖に怯えていた。そして毎晩、国1つが滅んでいく様はまるで白い死神として白狼は噂されていた。
黒狼はその噂を聞いてはいた。だが、それを止める気などなかった。俺はただこの親狼に目覚めて欲しいとそう思いを込め、ただ傍でできることをしているだけなのだから。
海狼は黒狼の特性のおかげで体の傷は感知していた。そして自分の魂が器に戻り始めていることも。そして白狼が怒りで我を忘れ必要以上に滅ぼしている事も。
海狼は静かに目を開けた。黒狼はすぐにそれに気づいた。顔を海狼に埋め涙を流しながらか弱い声を漏らしながら、ただ海狼、自分の親の蘇りを喜んだ。
海狼はなんとか体を起こし、黒狼を包み込んだ。そして白狼を止めるべく、病み上がりの体で遠吠えをした。
遠吠えの返事はなく、ただ夕日が沈みまた今夜も1つ国が滅ぶのだろう。
海狼は黒狼を背に乗せ、白狼の元へ風と共に走り出した。
白狼は既に国の半分の生物を白き落雷で白い灰へと変えていた。目の前で母子が泣きながら命乞いをする姿などただの行為にしか見えていない。そして落雷を落とす直前、遠吠えを耳にした。その方向にパッと顔を向けるとそこには黒狼と大きな傷を負い生気のなかった親狼が凛々しい姿でこちらを見ていた。
白狼はオロオロし、また親狼が目の前にいる事が信じられない様子だったが黒狼と共に居ることもあり、少し混乱していたようだった。
海狼は白狼の傍に寄り添い、抱きしめるように首で包み込んだ。白狼は匂いで親狼だと確信し、全身から力が抜け落ちるように崩れ落ちた。
海狼は黒狼と白狼を連れ、元いた海へと戻って行った。
3匹の狼は話をし、滅ぼした国はそのままにすることにした。自分達への罪を払えと。
そして海狼は黒狼、白狼と共に新たな居場所を求め、別の世界へと旅立ったという。
海狼が去った後、荒波はなくなり穏やかな海へと…。
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