大人になりたい

@rabbit090

第1話

 アタシはとっとと、大人になって自由を謳歌する。

 小学生の頃、絶望的に退屈な毎日を過ごしながら漠然とそう決意していた。


 しかし、成長し本物の大人に近づいていくにつれ、アタシのその野望はむしろ挫けて行って、今は原形すらとどめていないのだろう。

 その、かつて燃えていたはずの小さな小さな炎が、何を意味しているのか未だに分かっていないというのに。


 「今日の弁当何?」

 「えっと…。」

 そう聞かれたから私は急いで、きれいに包まれた状態から、ぐちゃぐちゃにしてしまい、そして中身を確認する。

 「あ、こんな感じ?」

 そこには、すべてが手作りのおかずが並んでいた。

 「すごい、いつも思うけどさ、あんたのお母さんって若いよね。私なんかさ、もうめんどくさいって言ってお弁当なんか作ってくれないわよ?」

 「はは…。」

 アタシは言葉を濁しながら笑い、そして学生のころと変わらないこの整然として弁当に口をつける。


 アタシは、大人になりたいと強く願っている、今、朝目覚めるたびに何度も、近頃はずっと。

 だって、アタシに、もう30になろうとしているアタシに、60を超えた母は毎日、文句を言いながらもお弁当をこしらえてくれていて、アタシはそれに切れているばかりで、何に切れているのかって、アタシは、ただこういう、どんどん衰退していくだけのこの場所で、呼吸をすることを拒んでいた。

 母は、何も言わずにいるけれど、本当はこのままではよくないのだと思っているのだろう。

 顔には険が入り、いつも怒っているような、困っているような顔をしていた。

 そんな、とは思いながらもアタシは、それを見て見ぬふりを続けながら、毎日義務的に会社へと出社している。

 

 「それで、何?話って。」

 幼いころからずっと一緒にいる、親友がただ一人、夜ご飯を食べようと連絡をくれた。

 彼女は総合職として毎日残業を繰り返し、へとへとになっているであろう日々を繰り返すうちに、あまり会うことは無くなっていた。

 なのに、話とは。

 多分結婚かしら?

 年齢的にはそんなことだろうと踏んでいた、そしてそれはひとつも間違ってはいなかった。

 「結婚するの。」

 「そう。おめでとう。」

 彼女は笑っていたけれど、どの顔にはどこか遠慮があった。

 アタシは、高齢の父を介護しながら会社勤めを続けている。

 だから、彼氏など作る時間もなく、それをよく分かっているから。

 

 父は高圧的な人で、母は絶対にあいつの世話だけはしてやらないと誓っていた。だから、その気持ちがアタシにも分かるから、仕方なく。父の介護はアタシが請け負っている。

 もう認知機能が衰えていて、以前の父とははっきりと違う何かになってしまっているというのに、母は父を許せない。

 だから、いくらか叫び出しそうな絶望を抱え、毎日を送っている。

 その度に、こんな、こんな場所ではなくて、もっともっともっと自由が、自由が欲しくて、アタシは全てを捨てる夢を見る。

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