➁

 道なき道とはこういうものを言うのだろう。猫である私は、およそ人であれば通らないであろう裏道というか、塀の上などを歩いている。そういえば、昔は陽太郎と雪音がよく私の後に続いて、冒険だと言ってよくこういった、道とはおよそ思えない道を開拓して遊んでいた。なんだろう、今日はよく昔の事を思い出す日だ。


 私は塀の上から、屋根に上り、更に目指す事にする。雨で滑りやすくなっているので、注意は必要だが、屋根の上というのは、障害物がなく、遠くまで見えるので、私はこの景色が結構気に入っている。まあ、今日は雨なので、せっかくの光景も半減してしまっているのだが、これはこれでありだと思う。


 さて、このままこの光景を見ているのもいいが、私にはやらなければ、いけない事がある。私、雪音の学校に向けて再び歩き始めた。


 やはりこういう天気の日は鳥すらも飛んでいない、なんだかこの空を独り占めしている気分になる…でなはなくて、早く学校に行かねば、雪音は私が傘を持っていくのを待っているというのに。


 などと、急ぐ私の眼下に。ちょうど制服を着た男女が一つの傘に入りながら、歩いている姿が見えた。ほう、あれは、相合傘ではないか。


 ならば、あの二人はもしかしたら彼氏彼女の間柄をいう事か。やはり、こういう雨の日ならではのイベントだな。差している傘の色は黒という事は、あの傘は、男物の可能性が高い。という事は、相合傘を誘ったのはもしや男性の方からという事か。


 などと、なんだかおやじのような思考になってしまっている。いかん、いかん。先を急がねば……いや、待てよ。あの、黒い傘、なんだか、見覚えがある。


 私は、そのまま相合傘をしている二人を見ていると、ふと傘の角度が変わって、相合傘をしている二人の顔を見る事が出来た。その二人は私の知っている人物、なんだったら、これからその人物の一人の元に行こうとしていた。そう、その二人の人物とは、黒地陽太郎、天白雪音。私の主人達であった。


 あの二人が相合傘をしているだと! 一体どうしてこんな状況になったのだ。確かに、雪音は傘を持っていないが。だからと言って、陽太郎と一緒に相合傘をして帰る

など、誰が予想できただろうか。少なくとも、私にそんな想像全くできなかった。私の与り知らないところで一体何があったというのか。気になってしょうがない。私は二人に気付かれぬように、二人の後をついていく事にした。ある程度二人に傍まで来ると、話声が聞こえてくる。


「な、なあ、やっぱり、もう少し待てば、雨止むんじゃないか?」

「そ、それは、判んないじゃん。もしかしたら、あのまま残ってたら、雨脚が強くなっていたかもしれないし」

「だからって、なんで俺の傘に入ってくるんだよ」

「しょうがないでしょ。みんな先に帰って、残っているのが、あんただけだったんだから」


 どうやら、話を聞く限り、残っていた雪音が、傘を持っている陽太郎を見つけて、一緒に帰る流れになったのだろう。しかし、意外だ。雪音の行動はまあ、判るが、陽太郎がまさか相合傘を容認するとは。


「…とりあえず、さっさと帰ろう」

「なに? 私と一緒に帰っているところを誰かに見られるのが嫌なわけ?」

「そんな事より、今日は、ゲームのアップデートの日だから早く帰って触りたいんだよ」

「ああ…なんだか、あんたらしいわ」


 陽太郎としても、なんだかかんだと、雪音と帰る事にあまり抵抗というか、恥ずかしいという気持ちが薄れているのだろう。私としては、喜ばしい限りではあるが、変わっていない部分もあって陽太郎らしいと言えば、らしい。


 だが、せっかくの相合傘をしているのだぞ。もう少し、なんというか、甘酸っぱい雰囲気にはならないのか! ちょっと前の陽太路であれば、きっとこういう事は嫌がっていただろうし、この光景を見る事すら考えられなかったが、最近色々とあり、昔の関係性が戻りつつあるから、どこか受け入れ始めている部分がある。


 雪音の方も、最初は彼女自身がグイグイ押していて、陽太郎はそれを躱すような構図だったかが、段々と距離が元に戻っていくにつれて、雪音の行動に陽太郎が不器用ではあるが、答えるようになってきた。なので、私はようやくか、などと喜んでいたのだが。如何せん、進展がこの二人には無さすぎる。


 前回の約束の件だって、結局なんだったのか、判らなかった。あの後の二人はなんだか、お互いにモジモジしていた。二人の約束は何だったのだろう。冬美には、見当がついているみたいだったが。


 まあ、そんな事よりも。せっかくのいい機会なのに、これでは、すぐに帰宅で終わってしまう。何か、起きないだろうか。


 その時、まるで私の祈りが届いたのか。車道側を歩いていた陽太郎に、道路の窪みに溜まっていたであろう水たまりに車が通り、水しぶきが上がる。そして、その水しぶきを陽太郎は雪音をかばいながら避ける…までは、良かったのだが、その後、別の水たまりに陽太郎は片足を突っ込んでしまう。


 かばう流れまでは良かったのだが、その後の流れでしっかりとオチまである。ここまでの一連の流れがなんとも陽太郎らしい。


「大丈夫⁉」

「俺は平気だけど、雪音は大丈夫か?」

「おかげさまで、濡れてないけど……わあ、もう靴の中までビショビショだね、これは」

「なんか不快だ」

「それは、判るなー」


 雪音は辺りを見回すと、少し先に何かあるのを見つけたらしく、陽太郎に向かって言う。


「陽太郎、あそこ行こう。確か、休める場所があったはずだから」

「お、おい」


 雪音は陽太郎の服を掴むと、半ば強引に陽太郎を連れて行く。確か、あの先は、私は二人が向かう先に視線を向けると、そこは公園だった。

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