成長①
雨というのは、神様が泣いている涙だなんて、面白い話を聞いた事がある。そうだとするならば、一体どんな泣き方をすれば、この地上を涙で満たす事が出来るというのか。まあ、そんな与太話を思い出したのは、きっと、今私が窓越しに見ている雨がそうさせたのだろうか。
雨が好きという人が一体どのくらい居るのかは、定かではないが、少なくともこの私は、雨は……苦手だ。なぜなら、雨が体を濡らすと、体の毛が、水を吸って体が重くなるからだ。あのいつもはフワフワの私の毛も、濡れてしまうと体に纏わりついてきて、邪魔な事この上ない。
なので、雨の日の私は、あまり外には出ない。まあ、日が出ていても滅多に外に出たりはしないのだが、いや、引きこもりというわけではない。こう見えても、しっかりと、外出もしている。
先日の一件から、春子が私の食事に気を遣うようになったので、私は普段から運動をするように、心掛け始めた。勘違いしないでいただきたい。最初から決して太っていたわけではない、断じて。だが、冬美に判ってもらう為にも、私は頑張った、それは、もう本当に。
そのおかげか、春子が私を持ち上げた時、「あら、グレちゃん、痩せた?」とまで、言われるようになった。そのおかげで、いつもの食事に戻った。頑張ったな、私。
今日の雨は、そこまで激しいものではない。もし、擬音が見えるとするならば、シトシトって感じだろう。窓から見ると、外を歩く人はみんな傘を差している。透明なビニールの傘もあれば、カラフルな傘も見える。傘一つとっても、人が着る服のように様々な種類がある。
この、雲によって暗くなった世界が、色づいている。そんな中、小学生だろう男の子たちが、傘も差さずに、走りながら笑っている。みんなが嫌う雨の日も子どもにとっては、関係ないのか。なんでも、楽しい世界に変えてしまう子どもの感性には、毎度驚かされる。
そういえば、陽太郎も今でこそ、ほとんど引きこもってゲームばかりするようになってしまったが、子どもの頃は、こういう雨の日でもお構いなく、雪音と一緒になって外に遊びに出ていたな。その度に、傘を差さずに遊んで、何故だが、嫌がる私を無理矢理連れ出してビショビショになって帰ってくるから、よく春子と冬美の二人に怒られていた。今となっては、そんな光景を見る事さえない。
窓から外を眺めている私を見ながら、リビングの椅子に座っていた、冬美がポツリと呟く。
「やっぱり、降ってきたわね。あの子ったら言ったのに、持っていかないから、帰りはどうするのかしら?」
そういえば、朝、冬美が雪音に対して「今日は夕方から、雨が降るから持っていいきなさい」と言うのを「ええー、大丈夫だよ」と言って、冬美の言葉を聞かずに、行ってしまった。ちなみに、夏雄は冬美の忠告をしっかり聞いて、傘を持っていった。
すると、まるで図ったかのように、冬美の携帯電話が鳴る。冬美は、携帯電話を手に取ると、連絡を寄越した人物が案の上だったのか、ため息を一つ吐く。
「もう、だから、言ったのに」
私は窓際から離れると、冬美の近くに寄る。近くに寄った私に気が付いた、冬美は私の頭を軽く撫でる。
「グレちゃん、案の上雪音から連絡来たわよ。傘がないから、雨が弱まるまで、雨宿りしてるから、帰りが遅くなるって」
冬美の忠告を聞いていれば、こんな事にはなっていなかっただろうに。しょうがない、ここは私が一つ肌を脱ごうではないか。
「にゃお」
「うん? どうしたの、グレちゃん?」
私は、付いてくるようにと尻尾を振る。冬美は私の意図を察したのか、私の後に付いて来てくれる。私は、リビングのドアをいつもの方法で開けると、そのまま玄関まで行く。
そして、私は玄関に置いてある傘を前足で触ると、
「にゃああ」
「もしかして、傘をあの子に届けるって言っているの?」
「にゃお」
私は肯定の意味のつもりで鳴く。私は過去にも、雪音に傘を届けた実績がある。
「うーん、どうしようかしら。流石に、あの子も高校生になったから、小学生の時みたいにグレちゃんに届けてもらわなくても大丈夫だと思うけど…」
「にゃおお」
確かに、私が届けたのは彼女が小学生の時だ、しかし、もしかしたら彼女が困っているかもしれない。
ならば、ここで主人の為に働くのが、飼い猫たる私の務めだろう。
「そうね、じゃあ、お願いしようかしら」
冬美は、そう言うと、階段下にある、物置部屋から、私専用のレインウェアを持ってくる。こいつとの付き合いは長い。昔から、何かと二人に付き合って濡れる私を気遣って、冬美と春子の二人が、二着買ってくれた。二着という事は、当然もう一着は、黒地家に置いてある。
そして、レインウェアを一緒に、折りたたみ傘も持ってくる。その、折りたたみ傘は、雪音が買った淡い青い色に水玉模様の柄の傘だ。
冬美は、私の身体に折りたたみ傘をベルトに固定すると、その上から。レインウェアを着せてくれる。これで、雨の日コーデの完成である。では、いざ、雪音にこの傘を届けに行って来る。冬美が開けてくれて玄関の扉から外に出る。
雨脚はまだそこまで、強くはないので、私でもまだ外を歩くのには問題はない。さて、まずは学校に向かうのが、定石だろう。
私は、雨の中を歩いていく。ちなみにだが、猫たる私は、人が普通なら通れないような猫専用の裏道を多数知っているので、学校へ向かう近道も熟知している。
なぜ、私が学校までの道のりを知っているのかというと、幾度となく私が陽太郎と雪音の通う学校に遊び行った事があるからだ。もちろん、この事を二人は知らない。やはり、二人が普段家とは違い、学校という場所でどうやって過ごしているのかが気になってしまったので、こっそりと二人の後を追いかけた事がある。
最近は、二人の学校の行っていなかったので、今度また天気がいい日にでも遊びに行ってみる事にしよう。
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