➁
「それじゃあ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
あの後少し経ってから、今度は雪音が学校に向かう時間になった。冬美は、玄関先までだが、私は雪音を外まで送るのが日課だ。黒地家の場合も同様だ。
外に出ると、ちょうど同じタイミングで隣の玄関の扉が開く。隣から、雪音の幼馴染でもある黒地陽太郎がいつものボサボサ頭でかつ眠いのか、欠伸をしながら家から出てくる。
「あっ、陽太郎。おはよう」
「にゃあ」
「うん? あー、雪音とグレ、おはよ」
陽太郎の顔を見れば、また夜遅くまでゲームをしていたのは、間違いないな。今日は、私が起こしには行かなかったが、ちゃんと起きれたようだな。
まあ、最近の陽太郎は、私が起こしに行かなくても、寝坊する事はなくなった。母親である、春子がしっかりと起こしているのもあるが、陽太郎自身が頑張って起きているのもある。
私は、隣にいる雪音を見上げる。それこれも、雪音と一緒に登校する為だろう。なんだかんだで、先日の一件以来、二人は可能な限り一緒に登校している。私としては喜ばしい限りだ。
「もう、また夜遅くまでゲームしてたんでしょ」
雪音は陽太郎の元まで行くと、私が思っていた事を口にする。雪音の言葉に、陽太郎は図星なのだろう、表情に出てしまっている。
「しょうがないだろう。新しいシーズン始まったし、フレンドとやるのは楽しいし………」
根っからのゲーマーだな、本当に。
「ゲームの友達とかだけじゃなくて、私とも……」
「うん? なに?」
「なんでもない!」
最初の雪音の言葉は、ほとんど独り言で、聞こえるか聞こえないかぐらいの声量だったので、陽太郎には聞こえなかったのだろう。聞き返すが、雪音は恥ずかしいのか、それを隠すかのように大声を出す。ちなみに、私にはばっちりと聞こえている。それを、しっかりと伝えられるようになれば、いいのだが。そして、この朴念仁にも察するという気遣いが出来ればなあ。
「ていうか、そんなので今度のテスト大丈夫なの?」
「ぐっ、よ、余裕に決まってるだろ…」
雪音の言葉に、陽太郎はあさっての方を見ながら弱い言葉で返す。
「陽太郎、昔、テストでひどい点数とって、春子さんにゲーム禁止令出されてなかたっけ?」
「だ、大丈夫。あの頃と違って今は、ギリギリなんとか赤点にならないようにしているし、今回もきっとなんとかなるはず」
早口そう言い訳をし始める。これは……その痛い目に遭うのではないか。やれやれ、好きな事にまっすぐな事は悪くはないのだが、それで他の事が疎かになってしまってはいけないぞ、陽太郎。
「あっ!」
そんな中、急に雪音がなにか思いついたのか、声を上げる。
「ならさ、今日学校終わったら、勉強会しようよ」
「はい?」
名案とばかりに雪音は陽太郎に提案する。提案された陽太郎は、息ありの提案にマヌケな声が出る。
「いや、だから大丈夫だって……」
「いやいや、どの口が大丈夫なんて言っているのよ」
「この口だが」
ペシンと軽く陽太郎の頭を、雪音ははたく。
「馬鹿な事言っているんじゃない。じゃあ、今日の放課後は私の家で、勉強ね。はい、決定」
「いや、待て。百歩譲って勉強するとして、なんで、お前の家で勉強する事になるんだよ。もっと、良い場所あるだろ。図書館と喫茶店とかさ」
「テスト期間中なんだから、他の人も同じ事を考えているに決まっているでしょ。そうなると、人が多くて集中できないから、勉強するなら集中できる場所でするべき、かつリラックスできる場場所って言ったら、どっちかの家でしょ」
陽太郎の意見をすべて上書きするかの如く、捲し立てる雪音。
「いや、だからって…」
「なら、陽太郎の部屋でもいいけど」
「判った。お前の家にしよう」
「よろしい」
しっかりと言質を取られてしまったな、陽太郎。雪音も素直じゃないな、本当に。
「決まりね。じゃあ、グレ行ってきます」
「はあ、行って来る、グレ」
陽太郎もそれ以上の抵抗を辞めた。二人は私に行ってきますの挨拶をすると、学校に向かって歩き始める。私は遠ざかる二人の背中に向けて、
「にゃああ」
いつもの通り見送るのであった。さて、ならば今日はこのまま天白家で過ごすとするか。私は、天白家に戻る事にする。そして、今のこの状況に至るというわけである。
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