探しもの

 動画の内容の精査は千代田達に任せる。ゲート内を進んで同一地点に出るかは、分からないがセーフスペースと、その他諸々はセス氏の動画で有る事が分かった。進んで食べたくはないが、あの奇妙生物も食べれるらしい。これで、兵站事情もある程度解決し、深く潜る事も出来る。しかし、言語の事もそうだが。


「資源等目録は各国で共有済みですよね?」


「・・・、上は順次、情報開示という対応を選びました。」


「なっ!即時開示ではないと?それは余りにも危険だ。目録の中には資源や薬品だけでなく、武器等も載っている。」


「知っています。ここではなんだ、場所を移しましょう。望田君、至急防音個室の用意を。」


「分りました!」


 望田が部屋から出て行き、千代田と残される。赤峰は俺に一礼し警官達との訓練に戻った。資源等目録・・・、俺が要求し用意してもらったが、現時点に置いてこれの価値は計り知れない。配信で不老不死や若返り、人体再生の事にも触れたが、それ以外にも様々な物がある。


 名称しか載っていないが例えば、高分子崩壊装置とか。名称から予測すると、プラスチックなどが崩壊する。それで困るかと考えると、石油に回帰すればいいが崩壊の文字が、入っている以上、喪失の可能性もある。意味不明な物を、意味不明なまま扱うほど怖い事はない。


 千代田に連れられて入ったのは、四方を白い壁で囲まれた窓のない個室。有るのは一人がけソファーが対面に置かれ、真中に小さな机が置かれている。ここで仕事をする事になれば精神を病みそうだ。


「望田くんは退出してください。これからの話は、些か君には荷が重い。」


「・・・、分りました。」


 望田が退出して千代田と顔を突き合わせる。俺が思った以上に、国は良からぬ事を考えているのかもしれない。


「最初に、我々も配信後様々な情報を精査し、有識者とも議論を交わして行動しました。」


「目録・・・、いや、海外への情報開示は何処までしたんですか?」


「ゲート開通の予測時間、職業に付いて判明した情報、資源に限った情報開示等々、様々です。各国はまず配信の精査から始めたので大変たったでしょう。」


「・・・、目録の完全開示はしないと?」


 そう聞くと、千代田はメガネを外して拭き掛け直した後、膝に肘を付き、顔の前で手を組んで話しだした。


「我々は配信後、すぐさま貴女の事を徹底的に調べました。出生から通った各学校、職歴、果ては知能検査の結果まで。大凡、貴女と言う人間を構成する要素を全て。


結果、貴女の評価は凡人だ。何1つ変わった事はないし、高校を卒業し大学進学ではなく、自衛官への道を選んだ。私は京大を出てこの職に就いていますが、貴女とペーパーテストで対決すれば、間違いなく私が勝つでしょう。」


 高卒と大卒それも京大ともなれば、俺の頭では勝てないだろう。しかし、人の進む道はそれぞれ。社会に出れば学力より、対応力を求められる事も多い。蛍光灯の反射で千代田の目元が見えないので表情が読みづらい。


「そんな貴女が未知と遭遇し、交渉し、情報を持ち出してぶち撒けた。」


 俺の行動への批判だろか?全ての事が万人受けするとは思わない。どれ程の人がゲートに入り命を落としたか、数字を聞けば分かるが、分かるのは数字だけで個人の事は分からない。だから、共感しようとは思わない、してしまえば多分判断を誤る。


「ゲート内の事は自己責任、国もそう決めたのでしょう?」


「批判しているように聞こえたなら、言葉が悪かった。私は貴女を称賛しているんです。」


「称賛?」


「ええ、不測の事態に冷静に対応し、訳の分からない相手に交渉して席を用意する。更に言えば、貴女は自己の証明として、考えうる限りの行動をした。仮に、映像や証言がなく、最初から少女の姿なら、貴女を誰も信じなかったでしょう。学力と言う面を見れば貴女は凡人だ、だが、学力で測れない面で貴女は聡明だ。・・・、頼って信じてください。貴女は一人ではないのですから。」


 そう言って千代田は姿勢を崩す。マンパワーは間違いなくある。足りているかは分からないが、話して信じてくれる人がいる。なら、前を向こう。


「分りました。目録の開示は任せますが、根拠は?」


「橘警視は別として、適正の無い物は性能を引き出せない。これは赤峰巡査長達と検証して、確信しました。現状手に入っている武器は、大なり小なり変わりはない初期武器だけです。下手に開示すれば、他国が確保に動く可能性がある。その為、資源や薬のみを開示しています。」


「成る程、国益を優先させたと。いま下手に騒乱が起これば色々と面倒になる。安定させ、その後出土品の精査をする感じですか。」


「ええ、貴女の動画配信、様々な検証を行いましたが、素晴らしいものです。」


「武器に言及しなかった点ですか。個人や金持ちを導くなら、武器より利益だ。それこそ、ゲートには最高の利益がある。」


 人が人を殺す理由は数あれど、殺すのに必要な道具は両手があれば事足りる。ゲートに潜って武器を漁るより、薬や金貨の方が圧倒的に有用だ。しかし、各国の動きか・・・、それは千代田達に任せよう。


「はい、それに薬や金貨は最終的に個人に収束します。しかし、武器は違う、あれは個人ではなく他人へ拡散する。・・・、現時点で各国の目立った動きはありません、精々ゲートを自国に移動しようと言う動きがある程度です。」


「わざわざ災いを呼び込むと?」


「考え方の違いです。クロエ、貴女はゲートを危険なビックリ箱の様な物と考えていますが、利益を考えるなら、これ程効率のいいものはない。人の損失にさえ目を瞑れば、そこは文字通り宝の山だ。国力の少ない国ほどゲートを欲していますが、大国も動いている。」


「企業は利益を追求する集団だが、それを国がやると・・・。そのうちゲートは国同士の通貨になり、世界は引きこもりそうですね。」


 ゲートの中が無限かは知らないが、衣食住出来て資源もある。国が引き籠もるにはうってつけの部屋だ。同族しか居ない土地なら、紛争もなくなるのだろうか?タバコを取り出し、千代田に尋ねると、どうぞの声で一服


「ゲート1つで、ディストピアからユートピア。しかし、実情はスモーキーマウンテンの住人。・・・、久々にモノを知る事が嫌になりましたよ。」


「それでも、生きなくてはいけないでしょう?・・・、1本貰っても?」


 千代田が吸うとは知らなかった。タバコを1本取り出し口に咥えるように言い、加えたら魔法で着火。揺蕩う煙は2人分狭い部屋にはちと煙い。


「千代田さん、私はこれから5階層以降、セーフスペースと自生動植物を調査します。秋葉原の事もある、薬とゲート内動植物から何か作れればいいのですが、無ければ先へですね。」


「分りました、人を揃えましょう。」


「調査だけなら、私一人でもいいのでは?」


 そう言うと千代田は横に首を振り、不味そうにタバコの煙を吐く。吸い方はおかしく無いが、久々の喫煙なのだろう。


「貴女は交渉の席に唯一つける人だ。それだけでもVIP中のVIPですよ。本来なら他の者が行くべきですが、貴女の知識は必要です。動くなら護衛を。それに、生産職を連れて、現地調査してもらった方が効率がいい。」

 

「ふむ、薬師系の職を習得した方がいれば、お願いします。他の同行者は任せますが、どの程度時間がかかりますか?」


「そうですね、30秒とは行きませんが、1時間で揃えましょう。衣装は何時ものアレでお願いします。」


 未だに装備品が貰えない件について。何度も思うが、今の俺は14歳のか弱い?少女だ。防弾チョッキのサイズが無いにしろ、なんで毎回ゴスロリを着にゃならんのだ。


「装備の改善を要求する!何でまたゴシックロリータ衣装で、走り回らなければならないんですか?趣味ですか?」


 そう言うと、千代田はニヤニヤ笑いながら、横柄にタバコを吸って煙を吐いた後理由を話しだした。こいつ、やっぱり性格悪い。


「検証です。職業はゲート外でも有効で、その力はイメージで作用する。なら、貴女という記号は、紅眼白髪ゴスロリ衣装の美少女です。外的イメージで貴女が強化されるなら、その結果の意味は計り知れない。」


 ニヤつく千代田だか、言っている事は納得できる。俺の記号は千代田のソレ。配信でもその衣装、容姿でやったのだから間違いないだろう。そして、外的イメージによる強化が可能なら、どこぞの宗教の教祖は、莫大な力を持つ可能性がある。それは発言だけではなく、能力としても。


「・・・、引き受けましょう。私の恥で後の厄が払えるなら。」


「お願いします、クロエ。」


「ええ、魔法少女スキー。」


 話は終わり、部屋を出る。準備に30分、行くのは世田谷か足立だろう。今のうちに残り少ないタバコやコーヒー、軽食を買い込みたいが、外には出してもらえるのだろうか?小学生ではないので、迷子になる事はないと思うが、見つかると人集りになる。千代田も望田も居ない。取り敢えず、警視庁を歩いてみるか。


 通り過ぎれば不躾な視線。外人からすれば日本の警察は優しいらしいが、それなら俺にも優しい視線を分けてほしい。・・・、生暖かいのは要らないです。歩き回ってやっと売店を見つけた。相変わらず視線・・・。


「なにか御用で?」


 背後には数人の警官が付いてきていた。容姿で間違われる事はないと思うが、何の用だろう?


「いや、本物だと思って。」


「小さくて可愛いと思って。」


「保護した方がいいかと。」


「サイン下さい。」


 ・・・、意外と世界は平和なのかも知れない。ここ最近張り詰めていた糸が解け。肩が軽くなったような気もする。思えば色々有ったが1週間も経っていない。あぁ、あの日の妻の鶏天の味が思い出される。


「・・・、なんと書けば?後の方は大丈夫ですので職務に戻ってください。」


「新名へ、ファーストとお願いします。」


 色紙にサインを書いて警官を送り出す。サインなぞ書いた事ないからぎこち無い。そもそも、色紙に対しての文字比率なんて考えんよ普通。


 売店で必要な物を買い込み、元の個室に戻るとトランクを持った望田が血相を変え駆け寄ってきた。何か事態が急変したのだろうか?


「クロエ、何処に行ってたんですか!探し回るこちらの身にもなって下さい!」


「いや、タバコ等の買い出しに。これからゲートに入るんです、色々物入りでして。」


 そう言うと望田はガックリと肩を落とし、手を引いて更衣室へ連れ込んだ。あぁ、ゴスロリか。


「クロエ、言っておきますが貴女は要人です。1人でうろつくと攫われます。間違いなく。」


 力説する望田を背後にゴスロリ服を着込み、メイクやリボンを付けてもらって準備完了、仕事が早いものでドッグタグも入っていたので首に下げる。いつの間にか着慣れてしまったが、多分、この服とも長い付き合いになる。トランクの中には予備の服もあったので、トランクごと指輪に収納。


「望田さん、今回のメンバーは?後、これは私のスマホの番号です。GPSも常時入れておきます。」


 服を着た後に、自身の身体を色々触ってみる。特に強化された気配はない。少なくとも、この身体は外的要因による変化は受け付けないが、強化魔法は変化する訳では無いので、普通に働く。1度で結果が出る訳でもないし、気長に行こう。


「ありがとうございます。今回は5人、内1名が生産職の方です。」


「今回も警官ですか?赤峰さん達が来てくれるなら、やりやすい。」


「いえ、特殊作戦群からの派遣です。そう言えば、クロエは自衛隊出身でしたね。」


 自衛官ではあったが既に除隊した身。今がどうなっているかなど分からない。しかし、自衛隊も動いたか。波紋は衝突するまで広がるが、俺が投げた賽の波紋は何処まで広がるのやら。


「既に除隊済です。顔馴染ではないですが、ある程度行動は読める。当然ですが、職を?」


「はい、習得済みです。詳しい話は現地、足立ゲートで合流してから行って下さい。」


「分かりました、では行きましょうか。」


 警視庁内をゴスロリ服で歩く少女、酷くシュールだ。こっちを見ている警官達仕事しろ。黒塗りの車に乗り込み足立ゲートへ向かう。白バイいいなぁ、バイクに乗りたい。


 車の窓から外を見れば、行き交う人々が見える。今日は休みのはずだが、スーツを着たサラリーマン風の男性や、パーカーを着た学生、黒いゴスロリ服に紅いリボンタイをしたツインテールの集団、道着の袖を肩から破って、赤いハチマキをした男性などバラエティー豊かな・・・。


「今日は休みでは?」


「ゲートに向かう人は、そんな事気にしませんよ。」


 まぁ、誰が何を着てゲートに入ろうが気にはしないが・・・。と、そう言えばゲートの事で確認しなければならない事があった。


「望田さんゲート内で、他の探索者に出会ったという、報告はありますか?」


「数件なら。入った人数に対してかなり少ないですが、0ではないです。」


 ふむ、ゴミ箱の構造がすり鉢状なのか、箱型なのか、或いは平面で区画制なのか分からない。これも奥に進めば分かるのだろうか?


「着きましたよ。」


「ええ、分かったわ、さぁ、行きましょうか。楽しい楽しいあの場所へ。」


 ゲートを前にして頭に浮かぶのは娯楽の文字。気分がいい。これから、奥へ奥へと潜ろう。趣味を仕事にすると地獄だという。これは、自身の逃げ場がなくなるから。でも、仕事を楽しんでもいいわよね?


 止まった車の周りには、多数の人がごった返している。当然だろう、昨夜の熱気が冷めやまぬのだから。夢の残り香は、余りにも人を優しく誘惑する。


「あら、千代田先に来てたの?」


「ええ、貴女を待たせる訳にはいきませんので。」


 千代田が扉を開き車から降りれば、夏の蝉時雨の様に声が上がるが。煩わしい、でもその声に耳を傾ける価値はある。


「え、ファースト?」


「警察と協力してるのは本当なんだ。」


「God damn it, thank God I was lucky enough to meet her!」


「綺麗!本当に同じ人間?」


 上がる声は陽炎の様に様々。でも、誰もが好意的な声をかけてくれる。軽く手を振りながらゲートへ向かう。レッドカーペットではないけれど、モーゼの気分は味わえる。


「道を開けてくださいな。」


 左右に割れるように人の海を進み、ゲートの前へ到着。そこには4名の黒い服を着た自衛官と。


「あら、高槻。貴方が生産職?積もる話は中でしましょうか?さぁ、手を繋ぎましょう。」


 高槻の手を取り、自衛官達とゲートの中へ。一瞬の浮遊感が終われば、そこは出口まで逃げ場のない地下牢ダンジョン


「黒江さん・・・ん、ファーストの方がいいですか?」


「クロエでいいわ、貴方は私の事を、黙ってた。」


「では、クロエと。私は調合師を習得しましたよ。他は治癒師や調香師でしたが、これしかないと。」


 笑う高槻は子供の様。誰だって新しい玩具は嬉しい。曲げて捻って広げて伸ばして。元の形は何かしら?


「嬉しいわ。でも、貴方が楽しいのはこの先よ?」


「この先?」


「誕生日のプレゼントは貰えたの、クリスマスは来るかしら?」


「成る程、セカンドジョブですか。いゃ、楽しみだ!クロエは知ってます?」


「それは駄目、分かったプレゼントは白けるわ。」


「そうですか。では、楽しみにしておきましょう。」


「えーと、クロエ、タバコはいかがです?」


 タバコを指しだす兵隊さん。水の匂いの兵隊さん。悲しい悲しい水の色、暗い暗い海の色。


「ん~、貴方達はまだファーストかな?兵隊さんは水使い?」


「ではファーストと、特殊作戦群の兵藤です。今回貴女を護衛する指揮官、職業は御名答。魔術師:水です。他の物はガンナー2名と副官のスクリプター1名です。」


「よろしくね、隊長さん。他の方も楽しみましょう?」


「よろしくお願いします。と、吸います?」


 誰の入れ知恵かしら?今はダメ。私もプレゼントが欲しいもの。


「まだいいわ。怯えないで、恐怖は貴方を食い殺す。さぁ、先に行きましょう?」


 先へ先へその先へ、誰が文句を言わない所まで。邪険にされるのは悲しいもの。


「・・・、分りました、行きましょう。それで、次の階層のゲートに向かいますか?」


「いいえ、寄り道をしましょう。プレゼントは開けないと!」


 迷路の始まり一本道から、分かれ道、曲って歩いて開いて貰う。これが私へのプレゼント、彼等がくれた贈り物、揺蕩う煙は雲の色。私の御口に合うかしら?


「これは、キセルですか?」


「そうよ高槻、これが私へのプレゼント。」


 透明なキセルから煙を吸う。吸う度にキセルの中は煙が流動し不思議な模様を映し出す。奇妙なものだ、刻みタバコを入れている訳でもないのに、愛煙しているタバコの味がする。魔女としての思考、これに悪意があるか否か。


 結果を考えるなら多分悪意はない。相変わらず賢者も魔女も詳細は分からないが、少なくとも、人に悪意を向ける感覚はない。有るのはゲートに対する、娯楽施設という感覚と未知への興味。プカリプカリと無くならないタバコは、止め時が分からないが、満足すればそれでいいか。匂いもザクロの様な香りで悪くない。


「用事は済みました、行きましょう。兵藤、先行を。」


「・・・、了解。」


 そう言うと、彼はキョトンとした顔で俺を見る。さっきの感じだと二重人格を疑われそうだが、イメージが物を言うゲート内。多少おかしくても大丈夫だろう。


 先行する兵藤達とゲートを潜り先へ先へと進む。現在4階層、このゲートも入った人数が多いおかげか、まだモンスターとは遭遇していない。途中ボックスから出た回復薬に、高槻が一気一憂しながら進み。


「接敵、撃てっ!」


 ガンナー2人が掃射して三目3体を蜂の巣にして倒した。持ってる武器は89ハチキュウ、89式自動小銃だがはて?拳銃は効かなかった、しかし、小銃の火力なら?いや、そもそも敵が違う。バリアが無ければ・・・?ガンナーの効果?


「不思議そうですね、ファースト。」


「ええ、ガンナーを見るのは初めてだもの。」


「そうですか、お~い、ちょっとこっち来い。」


 兵藤に呼ばれて2人の兵士が来る。自衛となれば迷彩服のイメージだが、彼らが着ているのは、上下黒の戦闘服に同じく黒い防弾チョッキ。当然身分を隠す為に階級章もなく、フェイスマスクで目元しか見えない。弾倉入れに弾倉の予備は見えないが、かなり重そうに見える。救いがあるとすれば背嚢が不要な為、その分の重量が減らせたことか。


「どうしました隊長?問題ですか?」


「呼ばれてきました兵隊さんですよ、ファーストさん。」


 歩いて着た二人のうち、神妙な声で聞いた方が前方を警戒しながら待機し、軽口の方が小走りに近寄ってくる。そこまで大掛かりに対応してくれなくてもいいのだが・・・。


「ここにモンスターがいる確率は低い、警戒したまま下がって集合。」


 副官が警戒の為に残った兵士に、声をかけ集合完了。編み上げブーツで身長を多少かさ増しているが、集まった兵士は隊長含めて高身長で壁のようだ。まてまて、囲むな。


「それで、なんです?休憩ですか?」


 軽口を叩いた兵士が休憩をねだる。彼はムードメーカーなのだろう。さり気なく高槻の方を見ながら、視線で上官に訴える。


「そうね、休憩にしましょう。そこの先にボックスの有る部屋があるわ。高槻もきつそうだしね。」


「フィールドワークもしていましたが、流石に疲れた。大分いいペースだと思いますが、兵藤さん作戦時間とかあるんですかな?」


「・・・、時間は気にしなくていいですよ高槻さん。副官、部屋があるのは?」


「多分あります。今回の構造に合致するものから推測して確率は高いです。」


 副官の言葉を聞いた兵藤がガンナー2人を先行させ、クリアリングの後、ボックスのある部屋に入る。まぁ、部屋と言っても袋小路にボックスが、置いてあるだけなのだが。


 こういう場で、前方しか警戒しなくていいのは精神的に楽になる。ボックス付近に来ると高槻はさっさとボックスに近寄り中身を確認しだした。警戒は副官と神妙そうな声を上げた兵士が行い、兵藤と軽口を叩いた彼がやってきた。


「ファースト氏がガンナーを見るのは、初めてだと言うのでな。質問に答えろ。俺は副官と話してくる。」


「了解です、では僭越ながら自分がお答えしましょう。」


 片手を胸に当てて俺の手を取って握手してくる。・・・、そろそろ離してくれてもいいのよ?大きく振り回す訳では無いが、軽く上下に振り続ける。


「あの、離してくださらない?」


「これは失敬、配信を見て以来ファンになりまして。」


「あら、ありがとう。それで、ガンナーの武器はどれかしら?」


「銃だとは思いませんか、ガンナーですよ?」


 そう言って銃をこちらに見せてくる。ん〜、銃に変わりはない。見た感じ鉄の本体にプラスチックパーツ、過去に触ったことのある89と代わりはない。そうなると。


「弾丸・・・、ではないわね、あり得ない。弾倉かしら?」


「ええ、ガンナーの武器は弾倉でした。面白いんですよ、コレ。ガンナーは銃を扱えるって言う雑な説明しか無いんですが、弾倉を入れる機構があれば何でも入れて撃てるんです。出る弾も弾切れなし!いいこと尽くめです。」


 そう言うと弾倉を銃から抜いて見せてくれた。抜かれた弾倉は鉛筆の様な細い棒になった。多分、銃と一口に言ってもハンドガンからガトリングガンのような物まで形は様々。どれにでも合うとするなら、こういう形がいいのかもしれない。


「リボルバーは撃てない?」


「いえ、撃てますよ?玉が入ってるものが弾倉でしょう?」


 そう言ってお互いキョトンとする。あぁ、これは認識の違いか。俺は弾倉といえば、銃弾の入ったのは箱をイメージしていた。しかし、彼は箱なんて要らない、玉が入っていればそれが弾倉だとイメージした。多分、彼はイメージが固まっていけばそのうち、ロケットランチャーでさえ、乱射するようになるかもしれない。


「いやぁ、今回は薬なしでした。これでは薬の等級表がまだ作れないなぁ。」


 そう言ってボックスを指輪に収納した、高槻が肩を落としてこちらを向く。薬の回収率は悪くは無いが、効果の高いものはあまり出てこない。今回回収したのは配信時と同じ物5本程度で、高槻が同行したのは動植物の調査もそうだが、政府から薬の等級表作成依頼があった所も大きい。


 生死を分ける瞬間に、効果が有るかどうか分からない薬を、使うのでは死んでも死にきれないだろう。臨床検査医をして、治癒師という収束する職より、調合師という拡散する職を選んだのも彼らしい。


 人を救う方法が外科的方向と、薬学的方向に分かれるなら、今までは適材適所と区分を分けして対応すればよかった。しかし、ゲート薬で一変した。いい薬を見付けられれば大凡の怪我は治せる。なら、その時医者はどう動くのか?高槻は多くても数十人位しか癒せない治癒師ではなく、万人を癒やす薬を作ろうとしているのだから。

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