そうなの?

 他人の金で食べる飯は旨いか?フードファイター以上に食ってやんよ!夕食、朝食と山程食べて、コーヒーとタバコで一服。望田は終始胃を押さえながら、食事風景を見ていた。


「そんなに何処に入ってるんですか?」


「さぁ?今の量をもう一度食べましょうか?」


「いえ・・・、気持ち悪くなってきました。」


 ふむ、高槻は配信時に外で待機していたが、上手く警察から逃れたのだろう。医学的見地から調べさせろと、今言われても困るが。


「さて、ゲートの混乱は?」


「状況としては行方不明者多数としか。」


「想定の範囲内ですね、帰還者は?」


「それも多数ですね。帰還者からは、職業を聞き取りしています。」


 職業一覧は見たが、どれがSやEXかは分からない。情報収集は必要で、マンパワーがぶち込めてる今なら、かなりの情報が手に入ったのではなかろうか?それに、少なくとも5階層まで到達出来た一般人が居るというのは、素直に嬉しい。何人パーティーかは知らないが、ソロではないだろう。


「そうですか。あぁ、武器の入った箱があるでしょう?あれを回収するように厳命してください。」


「構いませんが、なにか秘密があるんですか?」


 そう言いながら、望田が目をキラキラさせている。秘密・・・、と言う程ではないが、あれが加工できるならなかなか面白いものが作れる。


「ゲートの中は還元変換処理が働いている。これは知っていますね?」


「ええ、配信で見ました。行方不明者も多分見つかる事は無いでしょう。」


 望田の顔は暗い。それが正義感なのか、憐れみなのかは分からないが、彼女は知らない誰かの死に、共感出来るいい人なのだろう。多分、この職には向かない人間だ。


「あの中に有って、あの箱だけは消えないんです。つまり、身分証・・・、ドッグタグが作れるんですよ。」


 指輪からボックスを取り出す。不用品なのでそのまま望田に手渡し、加工できるかも確かめてもらおう。出来なければ、何かの収納箱にでもしてもらって構わない。


「!それがあれば、生死判定がつくと?」


「さぁ?ゲートの内部構造は不明な点が多い。同じゲートから入っても、手を繋いでいなければ、同じ場所には出ない。橘さん達からも、その情報は上がっているはずです。それでも、遺品持ち帰りの希望ぐらいにはなるでしょう。」


 第85264還元変換処理セクター、それが俺の入った場所。つまりは数字の上ではそれより下もあるし、上も多分ある。下手をすれば、同じセクターでも出現ポイントが、違う可能性もある。つまり、中で他人と出会えるとすれば、下るしかないのだ。どこまで続くか分からないゴミ箱の中を。


 ただ、あの中はセーフスペースや水、植物、食料もある。サバイバルする気なら多分住める。なんなら、難民問題が解決する。人に殺されるか、モンスターに殺されるかの違いはあるにしろ、生きる事に違いはない。


「早速連絡して話してきます。あっ、これどうぞ。」


「ん?おぉ!」


 漸く、漸くスマホが我が手に!電池は・・・、ある!と、言うかフル充電である。多分気を利かせて、充電してくれていたのだろう。画面を開くとラインが数十件貯まっている。一部は広告だが、家族からのものが圧倒的に多い。内容を見れば、ゲート侵入から連絡が始まり、最新の物は今朝の無事なら連絡よこせである。


「流石に心配をかけ過ぎた。無職から再就職した事で許してもらおう。」


 幾ばくかの着信音の後、愛おしい声が耳に入る。数日聞いてないだけだが、一日千秋の思いとは、まさにこの事だろう。


「司無事!どこも怪我とか拉致とか、エッチな事されてない!?」


「無事だよ莉菜、そっちこそ大丈夫?聞いた話では、身バレして保護して貰ったとか。」


「私達は大丈夫よ、温泉旅館で悠々自適に過ごしてるから。

ゲートだっけ、あれが開通したみたいだけど、すぐ帰ってこれる?」


「いや・・・、再就職してアレの対策員になった。まだ帰るのは当分先になりそう。那由多や遥は学校か?」


「知らないの?今日はゲートが開通したから、国として必要最低限の人以外は休日よ。」


「えっ?そんな事が?・・・、それなら今日は俺も休めるかな?」


「無理でしょ?寧ろ、司は今踏ん張りどきなんじゃない?知らんけど、知らんけど!」


「はい・・・、で、遥達は?」


「あぁ、遥達ならさっき帰ってきたわよ、結城くんや千尋ちゃんも一緒。就職してきたんだって、バイトかしら?」


 この時期に就職・・・、どう考えてもあいつらゲートに入ったな?多分同意書関連は遥だろう。誰に似たのか、あやつはすこぶる思い切りがいい。それに便乗して、那由多達が入ったのだろう。無事だからいいものの、誰かが死んでいたらと思うと居ても立ってもいられない。今度あったらキツく言わないといけない。


「多分あいつ等ゲートに入った。」


「ほへ?ゲートに?・・・、そんな簡単に入れるの?」


「入るのは簡単、問題は入った後。今回は良かったけど、最悪モンスターに殺されるかも・・・。」


「司、私がお灸を据えておくわ。・・・、そう言えば結城くんが謝ってたわよ。」


 謝る理由としては、多分うちの家族が温泉旅館で、悠々自適に過ごしている理由からであろう。結城くんには悪いが、棚ぼた棚ぼた。彼もまさかこんな事態になるとは考えても見なかっだろう。


「俺は気にしてないし、莉菜達が気にしてないなら、大丈夫だと伝えてほしい。」


「分かったわ。それじゃあ切るね、気をつけて、愛してるわ。」


「あぁ、俺も愛してるよ。」


 妻と電話を切り、入口を見ると千代田と望田が立っていた。彼が来たと言う事は、仕事の時間なのだろう。ゲート関連のゴタゴタを対策するにしても、どれから手を付けるのが正解やら。


「お熱い事で。」


 電話を聞いていた千代田が、嫌味のような冷やかしをしてくる。家庭が上手く行っていないのだろうか?他人の家の事は知らないが。


「好きな人に好きと伝えないのは、ただの意気地なしです。愛する人に愛を囁く事を冷やかすのは、僻みやっかみです。おやぁ、千代田さんご結婚は?」


 口元をヒクヒクさせている千代田を煽る。左手の指輪は見えているが、からかわれるのは癪だ。そもそも、好きで結婚したのに、好きと言ってからかわれる筋合いは無い。


「・・・、娘と魔法少女アニメを見る程度には、父親してますよ。」


「よろしい、貴方には昨日の衣装を手配した事を加味して、魔法少女スキーの称号を貸与しましょう。望田さん、彼は私を着せ替えて楽しむ魔法少女スキーです。」


 望田は蹲るようにして、顔を隠し笑いを堪えている。千代田は千代田で望田を睨みながら1つ咳払いをし、口を開いた。


「打ち合わせがあります。早急に車に乗って出発しますよ、望田君、この事は忘れるように。さあ、2人共動きなさい。」


 黒塗りの車に乗って、連れて来られたのは警視庁。しかし、案内されたのは道場だった。扉を開けて中に入ると文字通り人が宙を舞っていた。どうやら入る部屋を間違えたらしい、引き返そう。


「クロエ、どこへ行くのです?」


「私はか弱い少女、流石にステゴロは無理です。魔法職ですよ?」


 細く白い腕を見せる。スベスベプニプニ、力瘤の1つも出来やしない。何なら中身もありゃしない。


「押忍!お久しぶりです。」


 筋骨隆々の男が俺に礼をしてくる。はて?あぁ、声でわかったが名前は知らない。


「お久しぶりです。まぁ、久しいと言うほど経ってはいませんが。赤マフラーさんもこちらに来てたんですね。」


「ええ、貴女とは別の飛行機で来ましたよ。橘警視達は現地対応で、まだ向こうですが追々くる予定です。改めて、赤峰です。」


 差し出された手を取り握手。うむ、掌の皮も厚く肉は硬い。しかし、拳ダコが無い事から、実戦的に空手をやっているのだろう。


「時の人とこうして、握手出来て話せるのも嬉しいものですね。」


「背中を預けた仲じゃないですか。しかし、私が呼ばれた理由は?」


 握手をしながら千代田を見る。宙を舞っていた警官も、受け身を上手く取ったのかピンピンしているようだ。俺と赤峰を見る警官達には羨望の色が浮かぶ。


「職による得手不得手、これを試したいのが1つ。もう1つは、物理職と魔法職の評価です。彼らは朝イチに赤峰巡査長と共にゲート内に入って帰還した者達ですが、全員物理職しか出ませんでした。相対比はまだ出ませんが、魔法職は大体1対3程度でしょうか?要は、今から模擬戦してほしい。」


「・・・、や~ら~れ~た~。」


 両手をホールドアップ、戦うまでもなく。結果は見えている。魔法職が近接職に勝てないのか?答えは人による。そもそもな話、職とは適性である。俺は適性値が足りず、色々と捏ね繰り回してつく事が出来たが、純粋に適性有る者が職についたなら、その可能性は個人の資質に左右されるだろう。


「えーと、クロエ?模擬戦する気は?」


「無いですね。今、人どうしで戦って検証するくらいなら、ゲートに入って内部調査と研鑽した方がいい。」


 残念そうな顔の赤峰と千代田。他に道場にいた人間も心なしか落胆している。色々と派手な事はしたが、別に戦闘狂と言う訳ではない。だが、まぁ


「なら、1つ実験をしましょう。赤峰さん、これをどうにか・・・・してください。」


 後ろに飛んで40cm程の火の玉を1つ撃ち出す。速度ボチボチ、威力ボチボチ。当たれば火傷くらいはするだろう。


「えっ!は?」


 投げた火の玉を赤峰は、ステップを踏んで避ける。避けられたからと言って、火の玉を止める気はない。そのままカーブを描き、2度3度とギリギリ当らない範囲で、赤峰の周りを飛んで回る。


「追加しましょう。」


 更に1つ、更に1つと合計4つまで増えた火の玉を、赤峰は強化された身体能力で避け続ける。


「まだ要りますか?」


「何処まで増やす気ですか!?」


「それは、どうにかするまで?」


「いや!何で疑問形なんですか、消してください!」


「いや、殴ってくださいよ。」


「はぁ?」


 半信半疑の赤峰は火の玉を殴ろうとするが、アレでは駄目だ。当たる寸前に火の玉を消し、火傷させないようにする。回復薬がゲートから持ち出されているかもしれないが、わざわざ怪我をさせる必要もない。


「赤峰さん、何で殴らないんです?」


「いや、無理でしょ?蝋燭なら拳圧で消した事ありますが、あの大きさは無理だ。」


「職の説明は確か雑でしたよね?」


「ええ、格闘家説明は、高い身体能力で殴る蹴る投げるでしたよ。雑にも程がある。」


 何処か不貞腐れた赤峰は、羨ましそうに俺を見る。魔法は確かに面白い。全て手探りだが、空も飛べた。しかし、それだけで魔法職が有利とは限らない。要は職とはソーツの言うように補助装置なのだ。


「赤峰さんは火を殴れないと考えた。だから、殴れない。」


「当然では?形がない火を殴って消すのは達人でも難しい。」


「なら、私が飛べるのは、私が出来る・・・とイメージしたからだ。」


 赤峰の前でフワリと30cm程浮いて見せる。一度飛べは、イメージは固まる。最初の1回、その1回にたどり着けるか否か。それが職の成長に繋がるのだろう。赤峰は無言で俺を見ている。他の面子は俺が飛ぶ姿に息を呑む。


「赤峰さん火の玉を殴ろうと思うから、おかしくなるんです。貴方は殴って蹴って投げる事が出来るのでしょう?なら、そうすればいい。要はイメージです、自分のイメージを拡張してください。スーパーヒーローなら弾丸を掴んで、ミサイルだって殴って逸らせるんです。」


「・・・、もう一度お願いします。」


 再度火の玉を出して、赤峰の周りを適当に飛ばす。速度は同じ、数も同じ。ただ、ランダム軌道なだけ。遅く早く、上に下へ、おっと。望田から声が上がる。


「危ない!」


「だまれ!そのまま、当てるつもりでお願いします!」


 赤峰は火の玉をのらりくらりと、さっきとは打って変わってステップを踏むわけでもなく、火の玉から目を離さないようにしながら躱していく。適当に飛ばしているが、多分そろそろ当たる。ランダム軌道と言っても人が考えるもの、そこには結局癖があり、考えがある。例えば、暗証番号を考えたり、ランダムな数字を選ぶ時、自然と特定の数字が多く成るように。


「そこ!ここ!そして、こう!」


 赤峰の拳や蹴りは、火の玉を掻き消していく。しかし、それは流石に思いもよらなかった。赤峰が何をイメージしているのかは知らないが、俺はそれをイメージ出来ない。多分、無理やりなら出来るが、それをすると火傷するイメージが付きまとう。


「握り潰すとは思いませんでしたよ。」


「ああ、そりゃ殴って消えるような炎なら、握り潰すのは造作もない・・・・・でしょう?」


 ニィっと口角を上げて笑う赤峰は何か、コツを掴んだのだろう。その場で2段ジャンプからの回し蹴りと言う、ゲームさながらの動きをやってみせた。


「クロエ、結局どういう事です?」


 理解が追い付かないのか、千代田はズレたメガネを掛け直し問うてくる。しかし、この感覚は多分、ゲートに入って職に就いた者しか分からない。証拠に赤峰の動きを見た他の警官達も、それぞれイメージを固めようと思い思いの動きをしている。


「口で説明するのは難しいですが、イメージと現実の折り合いです。物理職はより現実的、例えば剣を使えば何かを切れると言うイメージをし、それを拡張して行きます。剣なら肉は切れる。しかし、岩は切れない。


なら、岩を切るには?そのイメージの積み重ねで職を補強し発展させて、中位上位と押し上げていくんです。魔法職が少ないのは多分、大人・・しか、中に入っていないからでしょう。魔法職は物理職よりあやふやなんです。


出来る出来ない、有る無い、1か0か。定義する基準・・がないんです。だから、何でもやろうと思えば出来る。でも、やろうと思ってもイメージがあやふやだと結ばない。魔法職が最初に受ける説明が、そのまま魔法の極意と言っても過言ではないですね。まぁ、物理職と魔法職、優劣は無いですよ。資質です、資質。」


 思考し、妄想し、空想し、操作し、具現化し、法を破る。夢見がちな子供なら多分造作もない事だが、大人になると厳しい。何時だって現実は考えても結果は出ているし、妄想しても、空想しても、変わる事はない。藤宮が魔法職に就けたのは多分、火事に合ったというのが大きいのだろう。


 火事に合う、溺れる、雷に打たれる、生き埋めにハリケーン。大人が属性付きの魔術師に成るなら、何かしらの自然災害等でトラウマ並の衝撃を受けないと多分駄目だ。


 しかし、そう考えると魔法使いは上位か中位職なのだろうか?一覧を思い出すと、魔法使いも火や土があった。藤宮が魔術師を習得した事を考えると・・・、いや、今はマンパワーがあるんだ、出た結果で精査すればいい。


「さて、千代田さんこれからどうします?取り敢えず千代田さんが知りたい事は、分かったと思いますが。」


 そう聞くと千代田は1つ頷く。さて、警官も内部に入って職を得ている。そうなると、資源の回収も進んでいると考えていい。ボックスがドッグタグになるのは時間が・・・。


「そう言えば、千代田さん生産職は居ないんですか、生産職は?確か、鍛冶師や装飾師、変わったところでは鋳造師なんてのもいましたが。」


「生産職は不人気ですね。どうしてもモンスターを想定して戦闘職に就いてしまう。一応、数人はなった者もいます。」


 うぅん、秋葉原ゲートの事を考えると、補給は必要なのだが・・・。


「生産職に就いた者曰く、素材が足りないそうです。」


 千代田はそう言って手帳を取り出し、なかを見ている。多分、あの手帳にはゲート関連の事が、びっしり書かれているのだろう革張りだが、摩耗した後が見て取れる。


「素材ですか?赤峰さん、今朝までゲートに居たみたいですが、何がありました?」


「ん〜・・・、俺達も1〜5階層マラソンを繰り返してた、だけだからな。有るとすれば・・・。」


「5階層以降ですか・・・。千代田さん5階層以降に潜った方は?」


 誰かいて帰還しているなら、話を聞いてみたい。少なくとも、昨日の今日で命をベットして潜る者が居るのかと言うのも気になるが。


「日本では報告を受けていませんが、海外では居るようですよ?ほら。」


 手帳を仕舞い、スマホを取り出して操作した千代田は、動画を見せてきた。最初はゲート突入映像、GoProで撮影されたのだろう主観画面だ。言語は多分英語?シークバーを動かし、5階層で多分英語かな?何か言っている。そして、退出ではなく、次のゲートを選択する。ごめん、言語は日本語固定なんだ。俺、英語のヒアリングは出来ても筆記はさっぱりだし。


 進む映像は5階層以降を映し出す。同じ景色が広がるのか?それは分からない。しかし、映し出されたのは。


「セーフスペース?ソーツは約束を確かに守ったのか。」


 草原に多分馬だろうか?strangeC003と言う絵の様な生物が走っている。空は鈍色だが、草と多分木だろう。節くれ立ち、枝垂れ桜の様な物から、梨の様な実がなっている。醜悪と断じるには芸術的で、しかし、人の感性からはかけ離れている。


 動画の人物は6階層を走り回り、時に空飛ぶ蝶に回し蹴りを喰らわせている。叫ぶ言語は・・・、言語が分かる?

賢者が仕事した?叫ぶ男性の声はだんだん鮮明になっていく。


「何だここは!5階まで降りれば外に出るんじゃないのか!神様!俺は死にたくない!クソ!ファーストのクソ!やってやる!生きてやる!」


 自己責任と言う言葉を知ってほしい。人のせいにするのは死んだ後で十分だ。走る男性は更に面白い事をしてくれた。しなければならないが、俺も進んではしたくない。彼はゲート内の生物を食べた・・・のだ。6階層で馬を倒した彼は指輪に収納し、更に進んだ14階層で食べたのだ!


「クソ、クソ!腹が減った!時間は正確か分からない。水も無い、既に飲み干した。多分6層だ、あそこなら探せば多分有る、だが、ここまで来て戻れない。10層に出口はなかった、なら15層に有る事を祈る。神様!神樣!俺は死にたくないんだ、まだ、何もしてないんだ!クソ!これを食べて死んだら・・・、クソ!食うぞ・・・、俺は食うぞ!」


 15層に降りるゲートの前、彼はファイヤースターターで持ち込んだのであろう、枝と炭に火を付け生物を焼いている。アップで写される肉からは油が滴り落ち、音だけ聞くなら食欲をそそる。


「これを見ている、他の同士へ。俺がここで死んだなら、ゲート内の生物は食べられない。ファーストだ!ファーストに聞け!あのペテン師なら、俺をここに導くように配信したペテン師なら、何か知ってるはずだ!・・・、食うぞ、食って生きてやる!俺はセス、セス・ハミルトンだ。この動画を見た人に警告する、食って死ぬならここは人の住める場所じゃない。」


 男は焼いた肉に齧り付く。元の生物を知らなければ、美味しそうなBBQ動画として見る事も出来るが、あれを見た後では食欲も失せる。男は食べた後、その場に寝転びしばしの休憩をするようだ。


「飛ばしますよ。」


 そう言って千代田はバーを先に進める。男は起きたのか、カメラに顔を晒して話し出す。 


「寝た時間は分からない。モンスターとの戦闘で時計は壊れた。俺はセス・ハミルトン。ファーストより先を歩んだ者。生きている、体調不良はない。次の15層を探索するが、死んでいたら、この動画で俺がいた事を知って欲しい。いくぞ!」


 セスは15層行きのゲートをくぐり、先へ進む。先に居るのは見た事ないモンスター。いずれ戦うにしても、この情報は役に立つ。


「・・・、駄目かもしれない。腕が・・・、いや、肩から千切れた。回収して薬を使ったが、肩から断ち切られた。クソ!あのブタヅラはなんだ!何で避けたのに腕が切られるんだよ・・・。母さん。俺が死んだら、誰が面倒見るんだよ・・・、クソ、クソ!腕が、腕があればまだ先に・・・、母さんにも楽を・・・。」


 途中、彼はモンスターとの戦闘から片腕を失う事態に見舞われる。回復薬は濃い目のピンク。俺達が回収したものより効果はありそうだが、出血が酷く気絶したようだ。


「千代田さん、彼は・・・?」


 死亡・・・、嫌な言葉が頭を過る。同じ様に動画を見ている赤峰は、自身がその場に出くわした事を考えているのだろう、仏頂面でセスの動向を気にしている。


「結果から言えば彼は生還しました。」


「そうですか、良かった。」


 動画の中の起きた彼は、肩を確かめるよう回し、ひとしきり叫んている。どうやら後遺症もなく動くようだ。


「肩から先は繋がった。多分、あの薬を売ればかなりの額になっただろう。ファーストは理不尽だ・・・、彼女の持つ薬は多分これより上等だろう。俺は日本語が分からない。だが、配信を見た限りではそう思う。


眼の前にゲートがある、2つ、そう2つだ!前は間違った、分からない文字のせいで・・・。後続に言う。今更かもしれないが、配信のアーカイブ見ろよ。それで、生死の確率が変わる。ファーストに会ったなら学べ。それはゲートを旅する者にとって黄金より価値がある!彼女が何者かは知らない、ただ分かるのは、彼女は誰よりもゲートに詳しい。今からゲートに入る・・・。分からない文字が書いてある方だ。これが間違いなら、カメラを見つけた後続よ、俺の事を・・・、セス・ハミルトンの事を伝えてほしい。」


 そう言い残し、彼は退出ゲートを潜り動画は外の風景で終わっている。これは俺のミスだ。動画配信時に内部の言語についての発言、或いは千代田を通しての注意換気を怠った。


 日本語と言う言語は扱う日本人にとっては問題ないが、外国人にとっては難しい。文字にして3種、話せば更に表現が多く、本当に理解するにはかなりの勉強を必要とする。しかし、ゲート内の言語は日本語で統一されている。セス氏が職業選択で躓かず、正解を引いたのは1/3の確率としても幸運でしかない。


「千代田さん、特定害獣対策要員としてお願いします。各国にゲート内部は!日本語で統一されていると明言してください。」


「それの根拠は?」


 根拠?そんなもの、そんなもの分かり切っている。誰が最初に入り、どう話を勧めたか?海外では知る由もないが、配信を見たなら、これ以上の説得力はない!


「・・・、ファーストが指定したと。私は私の分かる言語しか使えない。だから、ソーツと交渉し、ゲート内の表記や言語を日本語にしたと伝えてください。」

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