やめられない止まらない

 望田が、机を叩いて立ち上がる。車から出て、笑うだけで大反響なら、どの女優もやっていそうなことだが?俺の想定としては、日本ボチボチ、海外それなりくらいの反響があればいいと思っていた。


 いくらネットと言えど、インフルエンサーでもない俺では、バズるなんて言うのは無理だ。仮にするとすれば、某アップルペンの人の様に、誰かのつぶやきに助けられるとかだろう。


「望田君、そこまで。後は私が話しましょう。」


 疲れきった顔の千代田がトランクを持って帰ってきて、望田の続く言葉を遮る。どうやら話はまとまったらしい。望田が千代田に席を譲り、千代田の後ろに立つ。どうやら、望田は退出する気はないようだ。


「望田君とは、何を?」


「雑談ですよ。配信の反響が凄いとか。」


「成る程、なら補足しましょう。市民の反響もそうですが、各国からも問い合わせが殺到しています。酷い所では『彼女は我が国の人間である、即刻身柄引き渡しを要求する。』などというものまでありました。」


「そこまでの反響が?」


「当然でしょう?突然現れて、どの国も対応が取れず手を拱いている中、突然少女がゲートを操作して内部に入って、説明しだしたのですから。どの国も貴女の身柄を狙っています。」


 うぅむ、ある程度は想定していたが、これは流石に想定外だ。外国でも個人での行動はあると思っていたが、国まで出張るのは想定外だ。順番が飛びすぎる。


「よかったですね。貴女の身分は、貴女が行動したおかげで、一応、保証されています。上は貴女を、ペテン師ではないかと言っていましたがね。」


 取り敢えず、外国に売り飛ばされる事は無いらしい。早めに免許証の件で動いてよかった。下手をすると、拉致監禁からの、どこぞの国でモルモット生活からの世界滅亡などと言う笑えないバッドエンドにひた走るところだった。


「国内での反応は二分、当然ですね。未知に対して人が取るのは好奇心か恐怖心です。朝からゲート前には市民が殺到。警察が対応していますが、限界はある。まぁ、今は入れないのでいいでしょう。」


「時間の問題ですね、少なくとも今日中には開通するはずです。秋葉原のゲートだけでも、市民を遠ざける必要がある。」


 時刻は17時、開通するなら18時~19時頃だろう。溢れるとされるゲートが秋葉原の物だとすると、中は俺達が入ったゲートより更に多いモンスターが居る事になる。と、そう言えば。


「溢れるゲートの検証は、どうなりました?」


「その件についてはこれを。」


 差し出されたのは1枚の写真。内容はゲートの写真だが、俺達が入ったゲート違う点がある。


「ゲートの頂点が赤く光ってる?」


「えぇ、他のゲートでは見られない現象です。溢れるゲートを秋葉原ゲートと仮定すると、これは警告ではないかと言う事で、意見が一致しました。」


 変な所で律儀だなソーツ。まぁ、これはポジティブな発見だ。これで秋葉原ゲートが溢れれば、光は確証に変わる。確証に変われば、後は光るゲートを鎮圧すれば事足りる。どの道、ゲートが多いので1人では手が足りないのだが。


「黒江さん、貴女自身も大変なんですよ?正確にはご家族ですが。」


 千代田が俺を憐れむ様に見ている。俺の家族が大変?確かに配信は顔出しだ。しかし、俺=黒江 司と繋げるにはパズルのピースが足りない。情報が漏れるにしても、病院か警察くらいしか思いつかないが、仮に漏れたとしても写真から、うちの家を特定するには、かなりの労力を使う。


「情報の出処に心当たりがない。」


「始まりは、高校生のSNSからですよ。うちの斜向かいにファーストが居たとクラスメイトが騒いでたと。」


 高校生?高校生の知り合いなど、片手分くらいしか居ないし、そもそも誰とも・・・、あっ!


「結城くんか・・・、外でタバコ吸っている時に、何時もの感覚で片手上げて挨拶した、あの時か。」


「心当たりが有るなら、それでしょう。状況が状況だけに、今は警察が保護しています。」


「それは、ありがとうございます。」


 話の規模が大きいのと、広がり方が早すぎる。多分、これは止まらない流れだな。流れが止まらないのはいい、既に腹は括ったし、脅威は仮想から現実に変わり、襲ってくるのは分かっている。しかし、家族が危険に晒されるのは・・・、辛いな。


「黒江さん。いえ、あえてファーストと呼びましょう。我々は貴女を組織の人間として、公表しようと思います。色々と反対意見もありましたが、多数決で決定されました。」


「拒否権や交渉権は?それと、身分としては?」


 そう聞くと、千代田は顔を歪ませ睨んでくる。多分、拒否すれば強制的に、協力させるつもりなのだろう。しかし、こちらには魔法があるので、出来れば穏便に済ませたいし、決裂して海外にても行かれれば、下手をすれば千代田の首が飛ぶ。まぁ、事を投げ出す気はないが、条件は有利に進めたい。こちらにも生活が有るのだし。


「拒否権は出来れば使ってもらいたく無い、最悪家族を人質という事になります。」


「・・・、ここで死ぬのと、国の滅びを見るのどちらが・・・・お好みかしら?掃除人はたくさんいるわ、ここが溢れても・・・、より脅威が見えやすく・・・・・なるわねぇ。」


「!」


「た、タバコはどうです?」


要らない・・・・って言ったら困るでしょ?いいわよ、吸ってあげる。」


 まだ落ち着け。顔の知らない誰かが死ぬのは、冷酷なようだが容認できる。しかし、家族の事は一切容認しない。タバコを一口吸い揺蕩う煙を眺め、精神を落ち着かせる。千代田と望田の顔色は悪いが、誰にでも譲れないものはある。


「・・・、ご家族の事を持ち出すのは軽率でした、謝罪しましょう。」


「受け入れましょう。私としては、協力するのは問題無いのです。その後の・・・、ゲート内部での拾得品の取り扱いです。」


「私達としては、あの回復薬1つ取っても相当な利益がある。危険を考慮し、全て接収するというのは?」


 目録を読めば、千代田の案は妥当だろう。しかし、入ってモンスター退治して戦果0では、誰が入りたがるのだろうか?入るのに賭けるものはその人の命である。


「この国には軍隊がない。それは他国から見れば、該当するものではあるが、それでも・・・、彼らは人だ。名誉だけで死ねと言うのは虫が良すぎる。接収するにしても、個人の判断に委ねるべきだ。それに、今は5階層までしか降りていない。それより先は、ソーツでさえ把握していない。武器にしろ、薬にしろ身を守る物は必要だろう。」


「犯罪率の増加が心配されますが?」


「私個人で責任を取れと?ナンセンスだ。それができるなら、警察は要らないでしょう?」


 またもや千代田と睨み合い。国益を優先するなら、全て接収は分かる。薬の話もぶち撒けたのだ、欲しがる人間は数多いる。しかし、回収した個人がどうするか、個人の権利を国が潰してしまっては、起こるのは暴動だ。入る人間は、大なり小なり夢を見て入るのだから。


「・・・、法律の整備は、何にしても必要ですね。」


「でしょうね、ここで話した事がそのまま法になるわけではないですが、一般人がこれからは力を持つ。今までのやり方は、はっきり言って通用しない。」


 吸い終わったタバコのフィルターを燃やし尽くす。これ1つとっても、これからは日常になる。混乱は必至だが、手綱を離しては意味がない。要はさじ加減だろう。


 俺がため息をつくと、同時に千代田もため息をつく。千代田の身分は知らないが、管理職なのだろう。禿げて胃をやりそうな現状なだけに、出たため息も重い。


「そのあたりは専門家と話しましょう。当然、貴女もその中に入ってもらいます。今の所、貴女の身分は特定害獣対策要員です。現時刻からゲート関連に関して、貴女は最重要人物であると同時に、強力な発言権を持つ事になります。他に必要だと考えられる事は?」


 疲れた千代田が俺に聞いてくる。時刻的には、そろそろ開通か。必要な事・・・、ふむ、これは誰が・・とは言わないが、とても必要な事だ、うん、絶対に必要な事だ。


「同性婚を認める事。ゲートの職に付けば、もしかすれば、容姿や性別の変わる者が出るかもしれない。なら、コレを認めていた方が面倒が減る。」


 俺の容姿は少女である。裸を見ても、ツルツルリンでナニも付いてない。俺1人を特殊ケースと決めつけるのは簡単だが、後続の事を考えると、この法律は合ったほうがいいだろう。


「そうなった方が、目の前に居るのです。議論の項目に入れましょう、ペテン師。」


「褒め言葉と受け取りましょう、メガネさん。」


 俺の考えが透けて見えたのだろう、千代田は態度悪く俺を詐欺師呼ばわりするが、混乱に乗じるのは意見を通す常である。この機を逃すと、多分議論は進まない。


「ええ、はい、はい。要請してみます。」


 千代田の後ろに立っていた望田が、Bluetoothで連絡を取り出した。俺と千代田の会話は筒抜けか。まぁ、鏡張りの時点で、秘匿されているとは思っていなかったが。そんな様子を見ていると、望田が神妙な面持ちで千代田に耳打ちし、千代田は言葉を選ぶように口を開いた。


「ゲートの開通が確認されました。黒江さん、要請です。」


 おっ、到頭開通か。ソーツの話では、溢れる以外は外にモンスターが出る事はないと思う。そもそもな話、入ったら背後は壁である。溢れると言うのは、ゲート内の容量的な問題での強制排出だと思うが、誰も遭遇した事の無い事態なので、どのようになるかは分からない。


「モンスター退治ですか?橘さん達も居ますが、私が適任でしょう。」


 配信でも戦っている姿は見せたし、橘達が今どうしているかは分からない。しかし、ここへ連絡が来たと言う事は、モンスターが何らかの形で出てきたのだろう。ソーツの技術力は人類より遥か先にあるが、重大なエラーとかも言っていた。なら、お漏らしがあってもおかしくはない。


「ええ、貴女が適任です。ではこれを。」


 そう言ってトランクを差し出す。銃は効かないし、多分防弾チョッキとかだろう。漸く装備が貰えた。何処まで有効かは分からないが、無いよりは有った方がいいだろう。 


「・・・、これは?」


「衣装ですよ。普段着では困るでしょう?」


 ニヤつくおっさん死ね!トランクの中身は黒いゴスロリ服に化粧道具と編み上げブーツ。ご丁寧に赤いリボンタイまで入れてある。何か大変な事態の様だが、これを着てモンスターと戦う意味が分からない。


「これは衣装であって、戦闘服ではない。」


「モンスターはいません。秋葉原ゲートに集まった民衆に、退去勧告してもらいます。」


「それは警察の仕事では?」


 そう言うと、千代田は肩を竦めながら、然も当然と言った風に口を開く。顔色は悪い。


「ゲート関連ですよ。他のゲートは警察がどうにか対応して鎮圧傾向ですが、秋葉原はコスプレした民衆などで手がつけられません。大半はファーストを出せとも叫んでますし、対応してください。貴女は今や時の人なんですから。」 


 はぁ、モンスターが居ないなら、取り敢えず良しとする。良しとするが、そんなお祭り気分の人間が、人の言う事を聞くのだろうか?


「私はアイドルではない。人前は・・・、苦手だ。」


「知っていますよ。しかし、アイドルではないが偶像アイドルでは有ります。正体不明のモンスターに立ち向かう、見目麗しい美少女。そんなヒロイックな少女からのお願いなら、彼らは聞き届けてくれるでしょう?」


 千代田がグイグイくる。多分、他のゲートは・・・、ゲートは?


「他のゲートへの立ち入りは?」


「生死不問、完全自己責任、内部での事象に日本国は一切の感知をしない。緊急措置として、国は治外法権を認めました。同意書を書いた者から入場しています。法整備は後日発表と言う運びです。」


 俺が言えた訳では無いが、国も思い切った事をする。しかし、各都道府県に2〜3個、正確な数は知らないが100か所近く設置されたゲート全てを、如何に警察としても侵入阻止するのは無理だろう。なら、身分証か何かをコピーして、後日対応した方がスムーズだ。まぁ、生きて出て来ればと枕言葉は付くが。


「つまりは、秋葉原ゲートから、他のゲートに行くように言えばいいと?」


「それが1つ。もう1つは、国の組織の一員である、という事の宣伝です。こちらとしても、国外からのちょっかいは面倒ですので。」


 御上の事情と言うやつか。国を離れる気もないし、外国人が周りをウロウロするのも落ち着かない。なら、やるしかないだろう。


「分りました、移動は?」


「ここからヘリで。車では身動きできなくなります。」


「そうですか、では準備お願いします。メイクした事ありませんから。」


 望田に連れられて、更衣室へ。メイクや衣装はまたもや、婦警さんがやってくれた。どこで調達したかは知らないが、仮にこの衣装を千代田が指示したと言うのなら、俺はアイツに魔法少女スキーの称号を与えるのも厭わない。


 しかし、ヘリか・・・、現実逃避していたらか来るのはいいが、高所恐怖症なので高い所はあまり好きではない。出来るなら、ヘリには乗りたくないし、着地出来ないからとパラシュートで落とされでもしたら、間違いなく失神する。


「着付けとメイク終わりましたよ。」


「分りました、秋葉原まではどれくらいですか?」


「すぐですよ。約4kmですね。」


「約4km・・・、目印はゲート・・・、よし、飛ぼう。」


「はい?」


「私は魔法が使えるんです、センセーショナルな方がいいでしょう?」


「え〜と、箒とかいります?」


「竹箒でもデッキブラシでも、お好きなものを持ってきてください。黒いドレスに赤いリボンなら様式美でしよう?」


 望田は部屋から箒を探しに出ていった。飛ぶのにどれほどの労力がいるかは知らないが、いった手前途中で墜落は避けたい。それに・・・、自己暗示が必要なのだが、そろそろ魔女が面倒だ。まぁ、それでもするしかないのだが。


『ふふふ、私は貴女。貴女は貴女。さぁさぁ楽し・・・。』


「うるさい、ちょっと黙れ。」


『悲しいわ、寂しいわ、ワタシは・・・。』


「今集中している、黙れ。」


『パーティーなのでしょ?着飾・・・。』


「・・・、私は女優、私はゲートを知るもの。」


『私は魔女、貴女も魔女。』


「私は威風堂々、導く。私の歩みは間違いなく、私の道は正道へ。」


『私は堕落し、愉悦に浸る。歩みは茨、死に続け。』


「黒江さん、こ、これでもいいですか?」


 差し出されたのは・・・、刺又。まぁ、警察らしくていいのか?誰に襲われてもこれで牽制出来る。する前に魔法を使ってしまいそうだが・・・。


「えぇ、良いわよ。バイデント見たいで、私にピッタリじゃない!」


 ハデスの槍。冥界の王であると同時に、鉱物資源の守護神でもある。あぁ、持ってくるにしても中々気の利いた物を持って来た。誘うは地下牢ダンジョン得るは栄誉アーナー指しだす代価は何かしら?


「その、飛ぶって・・・、空を飛ぶと?」


警視庁最上階ヘリポート、眼下に見えるは小さな人々。遠くに見えるゲートは、夕日を背にまるで黒い指輪のよう。人それぞれ求めるモノは違う。永遠を信じ潜る者、薬を求めて彷徨う者、幾ばくかの稼ぎを糧に暮らす者。既に常識城壁は崩れた、それは当然。何時かは壊れるモノだから。


「えぇ、えぇ、魔法を使うなら飛ばなくちゃ!見ましょう夢を、叶えましょう希望を、誘いましょう永久に永久に。」


 刺又も両手で持ち横座り。身体は風のように軽く、心も軽く軽やかに。吹き荒ぶ風は背を押し、フワリと宙に身を差し出せば、行き着く先は目的地。風の便りは何処でも届く。


「このゲートは駄目よ。散って散らばり、他へ行き、この世はすべて事もなし。成すべき事が、あるのでしょ?」


 群衆と警察の睨み合う、ど真ん中に降り立つ。誰も彼もが熱に浮かされた様な熱気は、空から舞い降りると共に引く波のように消えていく。


コンッ


 刺又を地面についた音がやけに響く。小さな声は上がるが、これだけ静かなら声もよく通るだろう。


「ファーストだ・・・。」


「えっ、本物?空から?」


「魔法?本当に?」


「配信の内容は本当?金貨がある?」


「テレビの放送はマジ?」


 様々な疑問が、誰ともなく吐き出されては消えていく。1つ1つの質問に答えるなど、面倒で仕方ない。群衆は個であり群れだ。なら、羊飼いよろしく、方向を指し示すだけ。


「挑みなさい、歩みなさい、探して見つけて、手に入れなさい?このゲートは死のゲート。命を貢ぐなら止めないけれど、何者にも成れない、無駄死によ?」


「どこに行けば・・・。」


「どうすれば・・・。」


「何者にも成れないのなら・・・。」


 さぁ、笑おう・・・。にこやかに、柔らかく、蜂蜜のように甘く、チョコレートの様に心をくすぐる。


「他のゲートに行くといいわ。マテの出来ない駄犬は嫌いよ?私は猫派だけどね。・・・、さぁさぁ、行きなさい。歩みは遅くとも、時間は待ってくれないの。私はこの国の人間だから、ゆっくり眺めてあげる。」


「・・・、行こう。」


「見ていてくれる間に行こう。」


「ここに用はない。」


「あぁ、何者かに成る為に。」


 さざ波の様に人が散り。祭りの後の様に、静けさとゴミが残る。散った人々は何処のゲートを目指したのか、それもと家に帰ったのかは分からない。ただ、1つ言えるのは、ゲートに集まった群衆はきっと何者かに成りたかったのだろう。


 鬱屈した日常から抜け出したい、報われない仕事から逃げ出したい、或いは、生活を豊かにしたい。配信で語った夢は大きい。欲望を刺激するには、最高の餌を蒔いた。タバコを取り出し一服。刺又を指輪になおし、霧散する紫煙はまるで夢の様。


「見事な人心誘導ですね。上がペテン師と呼ぶのも頷ける。」


「あぁ、千代田。疲れたわ、後はよろしく。」


「どちらへ?」


「仕事は終わったの、なら後はシャワーを浴びて休むだけ。

望田、車を回しなさい、ホテルへ帰るわよ。」


「は、はい!」


「明日もまた、お迎えに上がりますよ、ファースト。」


「・・・、クロエ。そう呼びなさい。借物の名前は嫌だわ、貴方が私に近しく有ろうと思うならね。橘達にも伝えなさい。」


「・・・、分りました、クロエ。」


「えぇ、おやすみなさい。」


 回された望田の車に乗り込み、もう一服。車が走れる程に引いた人々は、一体どこへ行ったのやら。各所のゲートはまだ、対応に追われていると思うが、さてはて。


「ゲートに入るのに年齢制限はしてあ・・・、いますか?」


「ひへっ、えあっ、してます。」


 望田が何やら変な息を吐いているが、まぁ、人が空を飛ぶ様を間近で見たのだ緊張もする。


「望田さん、取り敢えず落ち着いてください。これからの事も考えると、情報がいる。船は出て舵は切られた。後は秋葉原ゲートの対応です。」


「あ〜、年齢は一応16歳からです。親の同意が必要ですので多分、入れないでしょう。」


「入れない事を前提に16歳?理由を聞いても?」


「貴女ですよ。我々は貴女に会う前に、様々な事を想定して、対応策を協議していましたが、貴女の年齢だけは分からなかった。いえ、正確には外見年齢しか考慮しなかった。それで、14歳は低すぎる、と言う事から16歳となりました。」


 そうなると、高校生が中に入る事になるのか。ゲートに人を入れたい理由は掃除もだが、溢れた場合の自衛も兼ねている。高校生に職業の力を渡してもいいのか?コレについては、はっきり言うとどうでもいい。突き詰めてしまえば、誰が罪を犯すのかと言う話になってしまう。


「職の力は、はっきり言って夢の力だ。法の整備と対応を早く進めてください。」


「それは、我々も早急にしています。黒江さんの方は明日から大変ですよ?と、つきました。」


 ホテルについて、部屋に入り服を脱ぎ散らかす。今日は入口1人、中は望田だけのようだ。下着姿になると望田がギャアギャア煩い。


「別に女性の身体なら、自分ので見慣れているでしょう?はしたないとは思いますが。」


 流石に全裸で家族の前に出る事は無いが、パンイチ位ならする。寧ろ、夏場は暑くてパンイチで寝る。


「あのですね、黒江さん。貴女の身体はとても綺麗なんです。細く華奢でシミ1つない白い身体に美しい髪、紅い瞳は神秘的で笑えば蠱惑的。端的に言うと男性なら、いえ、女性から見ても欲情します。正直に言うと無防備過ぎるんですよ!」


「中身がおっさんでも?」


「中身の前に外見です。」


「それは分かっていますが、習慣的なものもありますし、この服は普段着にするには向かない。」   


「忠告します、あまり無防備だと襲われますよ?」


「肝に銘じます。」


 シャワーを浴びながら、改めて自分の身体を見る。まぁ、確かに美しい。美しいのだが、貰い物。行為は出来るが、能力は無し。妻以外に身を許すつもりはないが、降りかかる火の粉があるなら、払うしかほかない。忠告は素直に受け取り、考えを修正しよう。あっ!


「望田さん、すいませんが下着ください。」


「貴女って人は!」

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