これはまた

 合図と共に藤宮と炎をバンバン手から撃ち出す。走狗の様に飛ぶ炎はモンスター達に着弾し、それを見た橘達が突っ込んで行く。




 炎の中で上がる光は三目からか、デカブツか。炎が晴れた時、1つのクリスタルが床に落ちた。先ずは1匹、マフラー3人集は残った三目へ橘はデカブツと接敵した。なら、俺は残りのデカブツを貰おう。




「カメラマン、橘達の援護は任せた!」




 体は軽く狼の様に低く素早く、軽やかに!さぁ、思考しろ。何をどうすれば倒せる?炎弾を撃ち出しながら、近付き縦に右手のロッドで殴る。何もなければ、ヒットしていたであろうロッドは左肩をこちらに向け、斜に構えたデカブツには届かない。点滅していた左肩のレンズは、今は輝いている。




「左肩のレンズはバリアにもなる!」




 橘にそう叫び注意を促す。さて、距離を取る?このまま破れるまで殴る?一瞬の思考、しかし、モンスターは待ってはくれない。身体を斜にしたまま、弓を引くように構えた銃の様な右手から光が走る。それを左に身体を独楽の様に回して、回避しながら、背中を狙って横に薙ぐ。




(思ったより、バリアの範囲が広い!)




 薙いだロッドはまたもや、バリアに阻まれた。殴った感じ形は半円筒形、高さは多分身長分、左肩より奥へ行けば殴れそうだが、形を示すように頭の触手が、俺を絡め取ろうと伸びてくる。




 それをロッドで打ち払いながら、バックステップで距離を取ると、デカブツも若干膝を曲げてスルリと後ろへ跳びながら、ビームを打ってくる。射撃間隔はそれなりに有り、連射しない事から、多分できないのだろう。




 離れればビーム、近寄るとバリアと触手、跳躍力は軽く跳んで5mは離された。さてどうする?攻防自体は多分接触してから1分も経っていない。離れたデカブツは本来、遠距離砲台なのか、バリアを構え姿勢を低くし、こちらを狙っている。




 避けて射線軸上に仲間はいないか?チラリと横目で他を見ると、橘はボールを鞭の様にしてデカブツを叩き、残り3人も三目と各々の武器で対峙している。残った宮藤は・・・。




「橘さん、離れて!」




 宮藤の声と共にデカブツが炎に包まれ、とっさに下がった橘は難を逃れた。あぁ、うん・・・、そうだよな、魔法は別に撃たなくてもいいもんな。非常識な場所で、非常識な力を貰い、常識的に行動する・・・、何と滑稽な事か。ゲームや漫画、アニメで見た魔法は杖や手から飛んでいた。




 だが、別にそれに倣う必要は無い。・・




「さぁ、踊りなさい。」




 テカブツの背後・・が爆発して2歩前へ。




「舞いなさい。」




 更に爆発して2歩前へ。




「頭を垂れて、喜びなさい!」




 目の前まで来たデカブツを、上から優しく圧力をかけて跪かせる。あぁ、楽しいビクビクしていた自分が馬鹿らしい。こんなにも・・・、こんなにも楽しいのに、もう終わってしまう。




「私が貴方を貰ってあげる。」




 差し出された頭を、ロッドで打据えれば首が飛ぶ。楽しい、これは愉悦であり娯楽・・。他者を踏み躙り、手も足も出ない相手を蹂躙する遊び。人の世で、人にはしてはいけない事。でも、ここならしても、良いわよね・・・・・?




「橘、それ私に譲らない?今、とてもとても楽しいの!」




 横のデカブツで遊びたい。次はどうしよう?人形の様に手足を捥ぐのもいいし、首を引っこ抜くのもいいなぁ。串刺しもいいし・・・。あぁ、どれにしようか迷っちゃう。




「生憎と、これは私の獲物です・・・、よっと!ファーストはタバコでも吸うか、他を助けてください!」




「それは残念、もう終わったわ。あらあら、あれは大変ね。」




 タバコに火を付けて一服。楽しい時間はおしまい・・・、『魔女』だな。多分、変な思考になるのは魔女のせいだろう。事の始まりは自己暗示からの起動の知らせだったが、あの思考がいいのか悪いのか判断に迷う。取り敢えず、人に仇なす事はないと思うが、あの状態だと枷が外れたように楽しい・・・のだ。




と、それ所ではない。モンスターは各々が倒して、既にクリスタルになっている。橘も最後のモンスターを、背後から串刺しにして倒した。しかし、黄色マフラーが蹲っている。なにせ黄色マフラーは、左手首を三目に切り飛ばされたのだから、痛くないはずがない。




「橘、回復薬は?」




「これなら。」




 差し出されたのはピンクの回復薬2本。確か、切断した指がくっ付く程度だったか?赤か黒なら間違いないが、モノは試しだ。退出もすぐにできるし、試してみよう。




「それを試して、駄目なら赤を使いましょう。」




 赤マフラーが手を拾い上げ、切断面を押し付ける。痛みの為、小さくない悲鳴を上げる姿を、宮藤が回収したカメラで撮影する中、橘が更にアンプルを折って開封して振りかける。緑マフラーは横で祈るような姿で手を組んで、俺と事の成り行きを見守る。




「どうだ、動くか?痛くないか?」




「う、動く?動くぞ!ははっ、痛みもない、普通に動かせる!」




 赤マフラーに聞かれた黄色マフラーは、ゆっくりと手を握りしめ、そして開く動作をした後、手首をグリグリ回して見せた。よかった、これなら大丈夫だろう。




「一応、外で診断してもらうまでは安静にしていろ。ファースト、今回の探索はここまでにしましょう。」




「ええ、負傷者も出たし、明日の予定もあるから帰りましょう。」




 さて、長かったファーストダイブもこれで終わりか。後はさっさと帰って風呂入って寝よう。退出と書かれたゲートは目の前、脱落者なし。配信も多分大丈夫、これは中々いい結果なのでは?意気揚々と歩き出した俺に、橘が顔を寄せてくる。近いよバカ!ガチでヤバい奴なのか?




(外に公安がいます。)




「はぁ?公安?アニメとかのヤバいヤツ?」




「何で声上げるんですか!アニメみたいにヤバくは無いですが、面倒です。それと、配信切ってませんよ。」




「いや、切ってくださいよ。」




 ヤバい、気が抜けて今から取り繕えない。カメラ見ると緊張する。そもそも、写真取られるのも苦手なのに、カメラの向こうに人が、見てる人が沢山いるとか・・・、無理だ!




「た、橘、いくわよ!堂々と!」




 カメラは見ない、公安が居るらしいが、引きこもる訳にもいかない。落ち着け、落ち着け。橘も言っていた、そんなにヤバくは無いと。なら、保護しに来たとか?可能性はある、俺は法に触れる事はしていない。




 精々この外見で、未成年喫煙を疑われるだけだ。しかし、今の俺には免許証がある!これは、大丈夫なのでは?俺を先頭に歩き退出ゲートの前へ、来た時と同じ様に手をつなぐ。




「ファースト、これはどこにでるんですか?」




「予定では入ったゲートの近く、人に重ならないようにでる・・・、わよ。」




 橘が残念なモノを見るように俺を見てくる、俺は一回スイッチ切ってOFFモードなんだよ!何かに集中してやるのと、漠然と衆目に晒されるのは違うの!心の中でいくら毒づいても収まらない。




「出るわよ。」




 退出ゲートを潜ると入る時と同じ様な、慣れない浮遊感がする。外は見知った会社の構内・・・、いや、人多いな。橘は公安が居るとは、言ったが人多すぎでは?




 見回す限り人、人、人、空にはヘリも飛んでいるようだし、このまま無事に帰して貰えるのだろうか?辺りを見回しても、伊月達の姿は見えない。




「仕方ない、徒歩で帰る・・・、」




「ファースト、黒江 司さんですね?ご同行願います。」




 メガネを掛けた黒スーツが一歩前に出て、俺に話しかけてきた。髪は七三分けで神経質そうだ。宮藤は他の警官にカメラを取られた。マフラー3人集も身体検査を受けて、橘も何やら警官と言い合いをしている。




「任意なら帰りたいのですが?配信を見て、未成年喫煙を疑うのなら誤解です。」




「身分を示せると?」




 伊月よ、ありがとう。免許証を手渡すと、メガネはそれをじっと眺めた後、笑顔で俺に返してくれた。良かった、これで大丈夫なはず。




「本人確認できました。」




「よかった、では、私はこれ・・・。」




「では、即時出頭要請です。ご同行願えますね?それと、橘警視他4名も来なさい。」




 任意ではなくなった。多分裁判所とか言っても聞いてくれない。仕方ない、行くしかないか。




「応じましょう。ところでお名前は?」




「千代田と呼んでください。では、こちらへ。」




 案内されたのはパトカーではなくヘリ。九州から出た事なかったが、これは間違いなく出るだろうな。そろそろ現実逃避もやめよう。




「妻に連絡がしたい。後でスマホを返して欲しい。」




「分かりました、取り計らいましょう。」




 橘達と同じヘリに乗るものと思ったが、乗ったのは俺1人。空港から飛行機に乗り換え、遠路はるばる来たのは東京。こんな事態でなければ、千葉のネズミの国へ莉菜や子供達と遊びに行きたかった。




「泊まりはホテルですか?金銭の持ち合わせが少なく、着替えも無いのですが。」




 そのまま夜通し聴取を受けるものだと思っていたが、連れてこられたのはホテルの1室。千代田の他に女性2名、男性2名がついてきた。




「貴女には要人用のホテルに泊まっていただき、明日昼頃から事情聴取となります。外出は認めませんが、必要品はSPに言えば揃えるようにしましょう。食事はルームサービスをご利用ください。」




 待遇としては悪くない、寧ろ高待遇だ。千代田は言うだけ言って出て行き、男2人は外へ。多分、扉の前で警備しているのだろう。残された女性の内、1人は入口扉に背中を預けて立ち、もう1人は俺を見ている。さて、要る物は揃えてくれると言うのなら。




「すいません、着替えをお願いできますか?それと、タバコ。銘柄はこれです。後、千代田さんにも言いましたが、スマホをお願いします。」




「スマホは明日まで、待ってください。他の物は昼までに揃えましょう、服のサイズや好みは?」




「サイズは、これです。好みはあまり無いので、黒色で動きやすければ何でも。ルームサービス頼みますが、何か要りますか?」




「いえ、私達は職務中ですので。」




 夜は遅いが腹は減った・・・、気がする。ゲート內部からここまでで既に半日くらい、経っているのでは無いだろうか?運ばれて来た食事を食べ、お酒を飲んで一息。汗はかかない身体だが、埃はつく。シャワーを浴びて下着が無いのでバスローブ一枚で過す。窓側の席に座りタバコで一息、優雅な気分だ。




「それが、魔法ですか?」




「ん、魔法ですね。」




 扉に背を預ける女性、望田が話しかけてくる。まぁ、何もない所に火が付けは驚きもする。




「配信は見ましたか?」




「ええ、途中からですが情報部から連絡があり見ました。あの配信の意図はなんですか?あんな乱雑に情報を、バラ撒かれては困る。おかげでこちらは、情報が無いのに情報開示請求で電話がパンクしました。」




 意図、意図ねぇ。時間は無いし、人も足りない。寧ろ、俺からすれば、かなりいい方向に向かっていると思う。ゲート開通は今日の多分夕方。それが終われば、シュウヨウハラにはモンスターが溢れる。問題なのは、誰が何処まで信じるかだ。




「ご迷惑おかけしました。しかし、望田さんは何処まで話を信じましたか?勿論、配信前の話です。そして、配信後に何処まで私や橘さん達の情報を検証しましたか?」




「それは・・・、情報の再検証は夜通し今やってます。橘警視達は今晩徹夜でしょう。」




 ゲート帰還後に徹夜とか、俺なら死ねるな。彼等には強く生きてもらおう。時刻は既に3時を過ぎた。聴取が昼からとしても、朝ゆっくり出来るとは限らない。




「私はそろそろ寝ます、何か有れば起こしてください。」




「おやすみなさい。」




 ライトを暗くしてベッドに入る。スマホを出来るだけ早く返してもらい、早く莉菜に連絡したい。情報開示請求が、電話がパンクするほど来たという事は、それだけ視聴者が居たという事だ。ならば、誰でも良いから俺の無事を伝えてほしい。




「黒江さん起きてください。」




 望田の声に起こされて、時計を見ると11時。聴取は昼頃と言うので多分13時とかだろう。準備するものは特に無いが、身嗜みは大事である。男の時なら、濃い髭を剃るのに手間取っだが、今はツルツルなので楽でいい。




 シャワーを浴びようとベッドから出ると、着崩れしたバスローブがはだけ、望田から散々文句を言われた。お前だって知っているだろう、下着が無い事を。理不尽な文句を背に、シャワーを浴び、買ってもらった服に袖を通す。黒い半袖ブログラウスに同じく黒いフレアスカートを履き準備完了。




 望田が髪をセットしたいというので任せたら、またツインテールにされた。まぁ、完了してもする事が無いので、山程ルームサービスを頼み飯を食う。




「聴取は何時からですか?」




「千代田さんからは13時半からと。よく食べますね。」




「あぁ、中身空っぽなもので。」




「?」




 ふむ、ゲートの情報は上がったにしても、俺の身体は知られていない?いや、外見が変わった事は、千代田の反応からしても分かっているのだろう。なら、高槻が何処まで情報開示したかだな。料理はみるみるうちに無くなり、食後のコーヒーとタバコで一息付いているときに千代田が現れ、そのまま黒塗の車に乗り込み出発。行き先は警視庁かな?




「多少早いですが、行きましょう。」




「分かりました。」




 警視庁の中を千代田に連れられて歩く。周りは警官ばかりなので居心地が悪い、更に言えば昨日の配信を見たのだろう、好奇の眼差しが含まれる。付いた取調べ室は、片面が鏡張りのドラマで見るような部屋。




「聴取は千代田さんが?」




「ええ、私が担当官です。では・・・。」




 聞かれる内容は名前から始まり、経歴やら結婚の事やら橘達に話した内容のおさらいに等しい。それが終わり、多分、ここからが本題だろう。




「貴女が行動を起こした、きっかけはなんです?」




「1つは、ゲート開通の期日が今日な事。もう1つは、シュウヨウハラにモンスターが溢れる事。規模は知らない。ただ、被害想定は震災規模だと思った。」




「ふむ、聞いたこと無い地名ですが、心当たりは?」




「距離は聞いた。地図で円を引けばそれらしい所が出るのでは?」




「貴女はそんな曖昧な情報で、事を起こしたと?」




「上がった情報の精査も、お座なりな貴方方に任せろと?」




 千代田の目は俺を厳しく見るが、こちらとしても上げた情報に匙を投げられたのであれば、動くしかない。日本の警察は優秀である、それは検挙率が高いから。しかし、個人の資質はどうなのだろう?千代田はどうも俺を信用していない。




「建物から推測してシュウヨウハラだ。なら、人口密集地でゲートがあってそれらしい所だろ?」




「ゲートがあって、人口密集・・・、黒江さん、距離は間違いないのですか?」




 何かを思い付いたのだろうか?千代田は顔を歪ませて聞いてくる。考えがあるなら、話してほしいものだが、多分コイツ間違った憶測で話すのを嫌うタイプだな。




「1,154.8 km、多分間違いない。」




「シュウ・・・、移動は何ですると?」




「さぁ、訳分からん相手が、建物から推測で話してるんだ。そもそも、地名の書いてある建物なんて、早々あるもんじゃない。その建物を・・・ん?」




 千代田が俺を見る、俺も千代田を見る。地名のある建物とは何か?電柱?違う、建物には該当しない。ビル?東京のビルに東京と書くやつは居ない。人口密集地で、建物に名前が書いてある・・・。




「駅?」




「黒江さんも、そう思いますか?」




 お互い渋い顔になる。シュウヨウハラ、名前の響きで俺は大陸の方だと思っていたが、仮にこれが駅名だとすると・・・。




「ゲートのあるシュウヨウハラ。読み替えると秋葉原では?」




 千代田も同じ様な結論なのだろう。仮にこれが秋葉原ではない場合でも、地図に円を引いて該当しそうな建物を探せばいい。距離は分かる、目印はゲート、後は地名だけ。そう考えていると、千代田はスマホをいじり、こちらに見せてきた。




「車での移動を想定して、貴方の居た県から秋葉原までは、1,154.8 kmです。」




「・・・、あんのクソども!変な読み方するな!」




「落ち着いてください。他の可能性も考えますが、秋葉原のゲートが溢れた場合、貴女の考えている被害想定は?」




 クソ、ソーツ次あったら必ず殴る。身体が有るとか無いとか関係無い、1から優しく体罰的指導で日本語を教えてやる!




「・・・、配信で見たでしょ、銃火器はほぼ効かない。ロケットランチャーやラムでも持ち出せば、面制圧できるかも知れませんが、溢れると言うからには、今回の様な規模では無いでしょう。正確には分かりませんが、仮に100匹として、一方的な蹂躙で東京は陥落ですね。」




「・・・、先行して内部で間引く事は?」




 千代田の顔色が悪い。まぁ、被害想定を聞けばそうなるのも分かる。多分、俺の顔色も悪い。現状では戦えるのが5人。內部構造を考えて入口から2階層で迎撃したとしても、抜かれるのは目に見えている。更に言えば、最初の戦闘で1人は1対1で負傷した。仮に間引けたとしても、それは問題の短い先送り。秋葉原以外のゲートが溢れたらそれでアウトだ。




「出来たとしても、有効ではない。あくまで秋葉原は最初に溢れるゲートというだけで、他のゲートが溢れたら手立てがない。」




「人員を増やすしかないと?」




「秋葉原以外のゲートで、職業習得するのがいいかと。民間人被害を考えるなら、自衛の為にも積極的に民間人も呼び込む方がいい。」




「・・・、それは・・・、しかし。」




 これから先は、そう。生存競争の世界。人という種は、牙捨て、爪を捨て、凍える夜を過ごして毛皮を捨て・・・、知性を武器に街の鎧を着た。しかし、武器も鎧も既に意味はなく、全てご破算、さて、願いましては。




「生きる目を摘むか、否か。選択の時は近い。聖書を引用するなら、3日目に私達死者は帰ってきた蘇った。なら、7日目を安息日にするか、10月のハロウィンにするか。お好きな方をお選びなさい?」




 鏡の向こうには誰が居る。ここを見てるのなら、それなりの地位の者だろう。判断は任せるしかない。橘達とマンパワーで事を成したが、これからは継続性が必要になってくる。




「・・・、一度、休憩しましょう。」




「えぇ、いいわよ。タバコはいいかしら?」




「どうぞ。」




 千代田が出て行き残された俺は、タバコで一服。嫌がらせのように、火の玉を出してタバコに火を付けて見せてやった。話し込んで約3時間、スマホはないしお茶はあるが、摘む物はない。そもそも、ライターを置いてないのが悪い。




「ちょっ、黒江さん!それ消してください!火災報知器が、スプリンクラーが!」




 望田が飛び込んできた。まぁ、室内で焚き火など、放火魔か自殺志願者の行為だろう。火の玉にフィルターを投げ込み、灰も残さずに消す。徐々に魔法の扱いが上手くなっている気がする。




「消しましたよ、話は難航してますか?」




「いえ、私は何も聞かされていないので。そう言えば、スマホはまだ返せませんが、ご家族には連絡しておきました。」




「あちゃ~、怒ってるだろうな・・・。」




 痒くもない頭をバリバリ掻く。ゲート突入以降は、全く連絡が取れていない。配信を見ていればワンチャンあるが、そもそも妻はネット配信をなぞ見ていた記憶はない。見るとすれば、那由多か遥だろう。




「心配はしていましたが、怒ってはいませんよ?無事な事は知ってますから。」




「おっ、配信見てくれたんだ。なんだか・・・、いや、かなり恥ずかしい。」




 夫がゴスロリ着て、演技バリバリでモンスター退治。特撮かな?救いがあるとすれば、夫は少女になった事くらいか。




「配信の反響、知らないんですか?」




「ゲートを出て今の今まで、外部との情報は遮断状態ですよ。スマホもない、テレビも見てない、話だけで考えるならそれなりとしか。熱心なネットユーザーが電話をパンクさせるとは、思いませんでしたが。」




 そう話すと、望田は顔に手を当てて首を振る。思い上がった感想だったのだろうか?電話がパンクしたと言う嫌味から、規模を考察したが、本当はもっと小規模で、何なら警察が情報部とか使って、冒頭部分しか流れてないのかもしれない。




 そもそも、橘が公安が来たと言ったのは5階層だ。それまでの映像を、張り付いて見るにはちょっと長いし、途中で休憩も入れたので暇な時間もある。ゲート突入はインパクト有るが、CGと切って捨てられ、橘は顔出しだが、そもそも個人情報がそんなに簡単に手に入らない。なら、何故5階層なのかと考えれば、やる気を削がない為だろう。突入→配信終了では流石にやる気は出ない。




「黒江さん、貴女の容姿・・・、どう思います?」




「整ってるとは思いますよ?自分がブサイクだと思うなら、流石にゴスロリは着れない。」




 美人は3日で飽きると言う。本当に飽きるかどうかは分からないが、少なくとも俺は自分の容姿に飽きはしないが、そこまで感動もしない。理由は簡単、それになってしまっているからだ。他人と顔を褒めるのは社交辞令だか、自分の顔を褒めるのは自惚れである。見ようと思えば、鏡を見ればすぐ見れる。




「ほぼ全局のテレビ、海外メディア、インターネット、ラジオ、おおよそ情報伝達出来るものは全て、大なり小なり昨日の配信を取り上げました。」




「はぁ?それは盛りすぎでは?確かに世界に向けて配信する手はずでしたが、それにしてもポッと出の私達がそんなに視聴者を集められるとは思えない。」




 そう言うと、望田は千代田の席に座り話しだした。雑談に付き合ってくれるのは有り難い。流石に1人で休憩するのは飽きてきたし、何らかの情報も手に入るかもしれない。




「最初はネットユーザーが、騒ぎ出した事が始まりでした。」




「ほう、ゲート突入はインパクト有ったでしょう。私もあんな感じになるとは思ってませんでしたよ。」




「違います、貴女です、ア・ナ・タ!車からの登場シーンで笑っていましたよね?それが全ての始まりです。貴女の微笑みを見た人が伝播するように、URLを拡散しそれを見た人が、また拡散しとくり返されていったんです!」


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