そんな取引

 迫った槍は、どう考えても避けられる速度ではない。残念な事に俺の奥歯に加速装置はないので、この死ぬ瞬間の間延びした時間感覚で様々な事を思い出す。走馬燈・・・、一説には脳が生きる為に自身の持っている、ありとあらゆる知識や記憶をびっくり返して、生還への道を探している状態だという。


 死にたくない、せめて子供の成人式の晴れ姿が見たい、更に言えば、結婚20周年のお祝いもしたい。欲を言えば、妻とイチヤイチヤしたい。美味しい物食べたい。お酒飲みたい。喉乾いたから水でもいいかな。タバコ吸いたい・・・。


「ん?」


 走馬燈にしては長すぎる・・・、のか?初体験だから分からないが。眼前に迫った槍先は眼前に迫ったまま、動いている気配はない。いや、間延びした時間の中なら、俺も動け無いだろうし、これで動けるなら俺はきっと瞬発力を必要とするスポーツで軒並み好成績を叩き出せるはずだ。


「@5:d2t4@wx57x8162p」


 なにか聞こえた。聞こえたが、何の音かは分からない。走馬燈には音も付くのだろうか?流石に学者じゃないので分からないが、これも俺の記憶の一部なのだろう。


「2@mugap521ympa'pg:.d_1-pm」


 どれくらいこの体勢で居れば、槍先は俺に届くのだろうか?もしかすれば、俺はもう死んでいて、死ぬ瞬間を繰り返しているのだろうか?死ぬまで(?)のモラトリアムと死んでからのモラトリアム、どちらもゾッとしない。


(瞬きできてる?)


「ajgw.p-m5pmwa@tpgw.ad@-m-dj」


 相変わらず分けのわからない音は響いてくるが、瞬きは出来た。と、言う事は動けるのか?そう考えてコンテナから手を離そうとしたが、思った以上に力を込めていたのだろう、なかな離れず後ろに力強く手を引く事で、尻もちを付くようにして外す事が出来た。


 眼前の槍も三目も停まっている。尻もちを付いたことで分かったが、三目はコンテナを受け止めたと言うよりは、両手で掴んで俺から離れないようにしたかったようだ。その証拠にヤツの両足は宙に浮いている。浮いたままコンテナも、三目も停まっている。此処では停まったままなら空中浮遊出来るのだろうか、現に目の前では実演されている訳だが。


 眼前の死が遠ざかったおかげか、心に多少の余裕が出来た。三目の横に回って観察するが、どう見ても俺が知っている生物では無さそうだ。仮面だと思った頭部は、継ぎ目など無く首から生えているようだし、背中の触手の様な腕もまた、身体から生えているようだ。体はテラテラと濡れたように見えるので触りたくはない。


「ajmwp@'wm2pg9m@'eo@j'apmw@atgwat_gx@mpg@」


「煩いよさっきから、分かるように話せないのか?」


 先程から響いている訳けの分からない音は、少なくとも俺の走馬燈では無い。動いてからも聞こえるのだから、間違いは無いだろう。今更死んでると言われても、ここまで生きている期待をさせたのだから、死んでなんかやるものか。そんな事を考えながら辺りを見回すが、音の発信源は掴めない。ここでどれ位の時間が立ったのだろう?


「言aswmpat@.スatwjwjs2開ntp6.t3.p@w'p」 


「え?」


 腕時計を見ようと左手の手首を見れば、身体がキラキラと仄かに光っている。半透明になった吸殻の事を考えると、俺はこのまま消えるのか?


「嫌だ!ここ迄期待させて勝手に殺すな!」


「死なない、貴方、倒す、駒、掃除、依頼。仕事、選ぶ。」


 みっともなく死にたく無いと叫んだら、さっきから響いていた音が単語になった。単語になったが、何の事だ?死なないは俺か?三目か?依頼?仕事?駄目だ情報が足りない。三目は言葉が通じないどころか、出会い頭に殺されかけたが、今響いている声は話が通じるのだろうか?


「単語、分かった、文法、分かる?」


「@jupjwapwma、スキャン、学習、対話、了承?」


 ん〜、さっきよりは分かるけど、分からない音もある。学習と対話から察するに、勉強すると言うことだろうか?しかし、スキャン?何を読み取るのだろうか?それの承認が欲しいのかな?


「了承」


 そう返すと、また身体が仄かに光りだした。これがスキャンなのだろうか?少し頭が痛い気がするが、我慢できない程でもない。暫くすると光が収まり、謎の音が話しかけてきた。妻の声で。


「言語中枢のスキャンを完了。対話をこの言語に設定。言語に対する文法を言語中枢より学習。学習時に単語に関する知識は、言語及び文法に対し不明な部分がある為、一部破棄。以後、不明な部分は対話により習得。音声対話は不便だが、原生生物に配慮。・・・、言葉に違和感は有りませんか?」


「無いかな。それで、ここどこ?」


 話しかけてきた声に安心するも、これは妻では無い。そもそも、これがドッキリなら質が悪すぎる。


「ココは第85264還元変換処理セクター、ゴミ箱です。」


「ゴミ箱?」


 これまでに有った事を振り返る。化け物は目の前に居るが、ゴミと思しき物は見ていない。声の主と俺とではゴミの認識が違うのだろうか?


「私達は貴方達に依頼します。ゴミ掃除が必要です。仕事には報酬があります。」


 下手な翻訳サイトみたいな喋り方だが、さっきよりはかなり意味が分かる。ゴミ掃除をしたら報酬をくれるらしいが、そもそも報酬の内容もゴミが何なのかもはっきりしない。根気強く聞くしかないのか?


「ゴミとは何の事だ?あと、報酬とは?」


「ゴミ・・・、停まって居るモンスター。報酬・・・、資源、技術、後、キン?カネ?」


 あぁ、この声は金貨と紙幣が同列なのか。確か単語の意味を破棄とか言ってたし、意味がわからないなら、何が違うかも分からないよな。そもそも、声の主に貨幣の概念が有るかも分からない。ゴミはモンスターの事か、それはシンプルで分かりやすい。


 だが、そもそもこの三目を倒すにはどうすればいい?海外なら銃を民間人でも買えるが、日本ではまず無理。ならば刃物かと言えば、槍相手に包丁で挑む程命知らずではない。そもそも、何で俺がここに居てこんな話をしているんだ?


「前提の話をさせてくれ。まず、モンスターの掃除の仕方が分からない。次に、依頼を受けないとどうなる?最後に掃除しないとどうなる?」


 立っているのも疲れたので、三目から離れた位置に胡座で座り見えない声の主に問いかける。依頼を受けなければ元通りなら、依頼を破棄しておさらばしたいのだが。


「モンスターは仕事を選んで倒す。倒すとモンスターは資源になる。依頼を受けなければ、ゲートを放置して私達は帰る。掃除しなければ、ゴミは箱から溢れる・・・。」


「ゲートって言うのは、このゴミ箱の入り口でいいんだよな?それを放置してお前達は帰り、モンスターが溢れると?」


「廃棄した物も溢れる。」


「いや、撤去して帰れよ。」


 話をまとめると、いつかは分からないが、あの三目が外に溢れると。いや、うん。迷惑すぎるだろソレ、何考えてるんだコイツ馬鹿なのか、馬鹿なんだよな?いや、もしかして・・・。


「侵略者なのか?」


「侵略?この星に価値はない。私達はある程度の知性のある、原生生物の居る星の各地にゲートを設置し、仕事を依頼する。結果、資源争奪による争いをなくす。他の星では受け入れられた。この星の原生生物の知性は、ぎりぎり及第点だが戦う事には有能であると観察して判断した。」


 視点や生態が違いすぎて、何だか話が頭に入ってこない。まぁ、地球で資源枯渇の問題は、石油を始め水やら温暖化やら色々と言われているが・・・、早い話、掃除したらそれに見合う分の資源をくれると。彼らなりの善意から。


「次に質問だが、仕事を選ぶとは?」


「仕事は生物の根本的な資質を引き出す補助装置。下位、中位、上位、Sスペシャル、EXがある。職業名は貴方の言語知識より選定された。貴方はここに来た1人目なので、2つの職業を自由に選択する事が許された。」


 職業ね・・・、俺の中の知識から職業名が決まったと。ゲームなんかは好きだから、ある程度RPGに出てくる職業は分かるが、実際その職について内容が違ったらどうしよう。前向きに考えているが、そもそも、こんな案件一般市民がおいそれと決めていい案件ではないよな?


「職業一覧を見せてくれ。後、俺がこの場で依頼を受けるか決められず、他の人に依頼を受ける受けないの権利を、委任する事はできるのか?」


 目の前にホログラムの様に職業一覧が現れる。剣士に格闘家、魔術師に魔法使い、鑑定士に・・・、魔術師:火や水と。多分、魔術師や魔法使いの後の文字は得意属性とかだろう。いや、そもそも魔法や魔術って使えるのか?


「我々は忙しいので、この場で可否を決めない場合は撤退する。その場合は、この星の独自の技術で対処してもらう。職業は一覧から名前を押せば決定出来るが、決定は覆せない。」


 脅しだよね?この星の技術で対処って、そもそも銃とか効くのかな?遠くの三目を見るが、いまいち分からない。仕方ないので立ち上がって近づき、触ろうと手を伸ばすと。


「触らない方がいい。職業がなければ、停止中だが溶ける可能性がある。」


 危ない、危うく手が無くなる所だった。しかし、これで分かったが、この場で選択を放棄して声の主に「帰れ」と言えば、そのまま何時の日にか、地球は滅亡エンドを迎えるのかもしれない。小市民の俺には胃が痛い話である。


「・・・、誰かがするで有ろう仕事の誰かとは、自分でも問題無いか。」


「何か?」


「いや、何でも無い。依頼は受けるよ、ゴミ箱の清掃。ただ、俺一人では無理だ手が足りない。」


 職業一覧に目を通しながら、考える。まず、ゲートが世界各地にある時点で、設置個数は不明だが対応しきれない。それに、溢れると言う事は多分、三目1匹2匹の単位では無いのだろう。それが同時に数カ所であった場合、滅亡エンドまっしぐら。なら、ゲートを壊せばいいかと言われれば、そもそもこれがどうやったら壊せるのか分からないが。


「参考までに、ゲートを壊すとどうなる?」


「事象の地平面が生まれ、他のゲートも呼応し連鎖する。余りオススメ出来る対処では無い。そもそも、ゲートの強度については、この星の・・・、水素爆弾約52個を使用して表面が焦げる程度になっている。ゲートの移動については、リング部分のみ移動すれば、後の固定具は何でもいい。」


 リングの移動は出来る、壊したら事象の地平面・・・、確かブラックホールだったよな、それができるが、そもそもリング強度を考えると壊しようがない。多分、リングの強度がこれだけ有ると言うことは、ここが駄目になったら他の星にリングを移して、そこに仕事を依頼するのだろう。


「我々は貴方に依頼した。ゲートに入れば、貴方達は適正の有る下位及びSの内から3つの職業が選ばれ、そのうちの1つを選択する。掃除道具武器の持ち込みは自由。我々は基本的に、ゴミ箱の中には関知しない。」


 ふむ、とりあえず一般人でも軍人でも関係なく、ここに入れば職には付けると。ただ、さっきから職業一覧を見ているが、どれが上位やらEXやらの表記がない。その上、職業の詳細もない。これでは選びようが無いのだが・・・。


「詳細や上位下位の表記がなくて、職業が選び辛いんだが、何とかならない?」


「貴方は職業選択の自由と2つの職に付く事が出来る権利を得た為、詳細や上位下位の表記は、現在表示されないようになっている。これについては、職業システム設計が定めた法の為我々では介入出来ない。そもそも、第2職業は本来、中位職業になってから選択できる。」


 つまり、俺以外の人間は、ある程度詳細やSの表示は見えるし、成長でいいのだろうか?まぁ、位が上がれは2個目の職にも付けると。今の状態を生贄と取るか、はたまたアドバンテージと取るか、難しい選択だな・・・、ん?


「EXとはなんだ?今の説明ではEXの選択が出来ない。」


「EXはどれにも該当しない特殊職。なり方は2通りあり、1つは特定の組み合わせの上位職に付き、且つ、適正値が上回った場合に発芽する。その場合は、上位職は消えEX職のみ表示される。


もう1つは低確率だが、そのEX職の適正がズバ抜けて高いか、そのEX職以外の適正の無い者は自動的にEX職となる。」


 話を聞く限りだと、EXは強力な職業なのだろう。上位職からの進化なら間違い無く強い、何せ職を組み合わせた先にできるモノなのだから上位職の美味しいとこ取りなのだろう。しかし、適正からの選択だとピーキーな職業だと予想できる。


 さて、あらかた職業は見たが問題は魔法である。剣士なら剣を使う、格闘家なら拳だろう・・・。しかし、魔法は実在しない。そうなってくると、この職業自体が死に職業になる可能性がある。しかし、一覧の中にはそれなりの数の魔法に関わりのある職業が散見される。


 俺の言語知識から職業名が決められたらしいが、錬金術師を化学者と変換するなら分かる。しかし、何をどう変換すれば魔法使いになる?


「質問だ、魔法とは?俺達に魔法は使えない。あくまで、空想上の産物で実在しない。」


「空想上の産物を実在させる・・・・・。思考し、妄想し、空想し、操作し、具現化し、法を破る。職に付けば理解できる。職業は全てゲートから出ても有効。」


 あぁ、嫌な事付け加えられた・・・。外で職業が使える、魔法も何らかの方法で・・・、少なくとも職に就けば使える。と、言うことはこれから先、外でも魔法使いが増えるって事だよな?何処まで魔法が有効で、柔軟性の有るモノかは知らないが、生贄と考えて魔法関連の職業は取らないと、後から大変な事になりそうだ。


「OK分かった。そろそろ職を選択するよ。質問事項はまだ有るから、居なくなるなよ?」


 そう声の主に釘を刺し、タバコで一服して一覧より職業を選択。色々と考えたが、40の身体に剣士や格闘家などの前衛職はキツイ。ならば、生贄の意味も考えて魔法使い系の職業であろう。


「1つは賢者。」


 ゲームからのイメージなら、魔法全般とそこそこの自衛の出来る接近戦が出来るはずだ。俺の頭はそんなに良くないが、賢者なら、賢さも上がりそうな気もするし、それに、この職業はEXでは無いかと睨んでいる。


「もう1つは色々と悩んだが、魔女で。」


 魔女のイメージは魔法は勿論だが、調薬のイメージがある。ゲート内でモンスター退治をするなら、回復薬は必須だろう。


 それに、ゲートの外でも職業が有効なら、安全な場所で薬が調合でき、他の探索者に供給出来れば、結果として安全マージンが稼げる。


 この職業はどの位に該当するか見当も付かないが、少なくとも下位では無いだろう、我ながらいい選択である。余談だが、中世では男女関係なく一括りに魔女で有り、魔女狩りにあっていた。


「選択を受諾。適正値の大幅な不足を確認。システムより職業変更不可を最上位命令として受諾。不足分を選択者よりの捧げモノで、補う事を提案。これより、選択者と交渉を開始。何が捧げてください。捧げたモノは以後、貴方より永久に剥奪されます。」


「は?捧げ物?」


 ・・・、心臓とか持っていかれるのだろうか?いや、掃除する前に殺されてたまるか!さっきの声の内容からすると、とりあえず交渉の余地は有るようだ。しかし、今の持ち物は調査に来た時の服装に、スマホやらタバコやらしか無い。技術や知識はどう考えても、相手が上で見向きしてくれるかは微妙。おまけに捧げたら永久に無くなると?かなりシビアな交渉になりそうだ。


「何でもいいのか、捧げるのは?」


「提示されたモノについては、査定と交渉を行います。提示されたモノの知識がない場合は、役割を問います。」


 相手の容姿が、分からないのが痛い。寧ろ、捧げた物をどうするかも、気になるところではある。とりあえず、職業変更は不可みたいだし、軽くこれから捧げるか。


「髪、眉、まつ毛以外の体毛。」


「・・・、それの用途はなんですか?」


「人間、お前達が原生生物と呼ぶ者の防御機構の1つだよ。」


 間違った事は、言ってい無い。今でこそムダ毛と言われているが、元を正せば猿から進化した際に、必要部位を守る為に残ったのがムダ毛と呼ばれるものの正体である。


「足りません。」


 身体が一瞬光ったので袖を巻くって見れば、ツルツルの腕が出てきた。多分、先程の光で毛が持っていかれたのだろう。永久脱毛もびっくりである。顔や頭も触ってみるが、髪や眉はあったが髭は消えていた。


「なら、次は贅肉と脂肪・・・、40kg分の贅肉に20%分の脂肪でどうだ?これの用途は、人間が動く為のエネルギー源だ。」


 身体化光ると同時に、カシャンと音がする。下を見れば、ズボンが地面まで滑り落ちていた。歳のせいで出た腹は無く、全身が軽い。思わぬ所で強制ダイエット成功である。軽くジャンプなどして調子を確かめてみるが、自衛隊現役生時代とは行かないまでも、この身体ならそれなりに動けそうだ。


「まだ、足りません。」


 さて、何を渡そうか。無くても困らない物、個人的に不要だと思うもの。・・・、最近白髪も増えてきたし、これなら捧げても大丈夫かな?


「メラニン色素、用途は・・・、着色?」


 三度身体が光る。と、一気に周りがぼやけて、見えなくなった。まずいまずい、これはかなりまずい!こんな視界では戦えない!そもそも、メラニン色素は捧げたが、視力は捧げていない!


「眼が見えない!これでは戦えないし、そもそも視力は捧げていない!」


「メラニン色素を剥奪しました、付随して視力?の低下はこちらでは感知出来ません。我々は原生生物の生態について、知りません。しかし、予期せぬ戦力低下が有った為、視力?を職業を流用して回復。まだ、足りません。」


 危なかった、あの弱視では色々と見落とす。しかし、この取引相手は俺達の事を何も知らないのだろう。いや、寧ろ身体に該当する物が、無いような言い回しをしてくる。


 俺達より進んだ技術を持ち、化け物を生み出す正体不明の依頼主、ゾッとする話ではある。しかし、断れば滅亡なら断る事は出来ない。


 ・・・、もう少し何か、身体を捧げてみるか。と、言っても捧げて問題無さそうな物は、あまり残って無い。感覚器官は論外、髪・・・、禿げるのは勘弁願いたい。そうなってくると、選択肢は少なくなってくるが、この2つならいいかな。片方は色々と制約付けないと、大変な事になりそうだが。


「身長を140cmになるまで、後、繁殖能力。間違うなよ、能力であって行為そのものは、これからも妻とする予定なんだから。」

 

 身体が光ると、視線が一気に下に下がった。元が175㎝程の身長だった事を考えると、頭2〜3個分低くなった事になる。股間も触ると反応するので、不能では無いらしいが、その前に腕の長さがおかしい。普通なら腕を下ろした状態で、太腿当たりに来るはずの指先が、今はくるぶし付近を触っている。


 人に関する知識、いや、この場合は生物全般の知識がない?こんなおかしな体型にされたのだから間違いは無いだろう。見た目だけで言えば、毛のないチンパンジーの様な感じだろうし。種は・・・、無くなったが、子供も居るので避妊手術したと思えば何とか。なかなか大切なものを捧げた訳だが。


「足りません。もっと価値のあるモノを捧げてください。」


「ですよね~。いや、生物として大切な物を捧げたんだが、あとどれくらい足りないんだよ!」


「貴方に分かりやすく伝えると、100%を基準とした時に貴方の捧げたモノは約3%を満たしました。査定は贅肉と脂肪と呼ばれるもの2%、残りを合わせて1%です。」


「贅肉や脂肪より、繁殖能力は低いと?」


「贅肉と脂肪は生態燃料もしくは、有機素材として活用出来ます。他の物は活用用途が有りません。」


 こいつ等の価値基準は何だ?生物的な価値基準で無い事は確かだが、他に捧げられる物はそうそう持っていない。物・・・、いや、常識に囚われているから、判断基準がおかしくなるのか?例えば、日本で水は安く手に入るが、砂漠なら価値が上がる。つまり、声の主は物質的な物よりも、もっと別の・・・。


「・・・、時間を捧げる。俺は今43歳だ、この星の基準で生きて来た29年と、これから肉体が外見的に進化・・する時間全てを捧げる。記憶は精神か魂に付属させてくれ。・・・、間違っても殺してくれるなよ?後、今の姿を客観的に見たい。」


 何時もより強めの光が身体を覆う。軽くなっていた身体は更に軽くなり、腰痛や肩コリも無くなったか。時間何て曖昧で、個人が持っているのかと言えば、首を傾げたくなるが、それでも人はそれぞれの時間を過ごしている。これはモノと言うよりは、概念に近いかも知れないが、しかし、あるには有る。なら、捧げられるだろう。・・・、価値は不明だが。


 それに、打算的だが老化を進化と言い換えて、多少価値が上がるように仕向けた。相手は人間の事を知らない。なら、人の進化の先・・・、つまり時間経過で、発生する致命的な劣化『老い』を知らない。これが機械やコンピューターなら、進化とは効率化と小型や軽量化、或いは量産等明るいイメージがあるが、生物の進化は大量の生と死で成り立っている。


「査定結果として50%到達しました、進化は高査定です。まだ足りません。今の姿と職業習得後の姿を投影します。これは、今までの対話により蓄積した経験上、相互の食い違いを防止するためです。」 


 BINGO!47%稼げた。それと、目の前に2人立っている。片方はまぁ、14歳頃の俺である。痩せたオラウータンの様な体型だが、顔つきは間違いないだろう。時間を捧げたおかげて若返る事ができた。しかし、もう一人は・・・、何だか違和感がある。髪型や顔付きは似ているが、何かが違う。


「これは触れるのか?」


「質量はありません。装備品は外せます。」


「キャストオフ、全裸にしてくれ。」


そう言うと、2人共衣類が消えた。片方は男だが、片方は股間の物が無い。とりあえず、タバコで一服。間違い・・・、では無いだろう。なら、何故女?今と職業習得後と言うことは、女になるのは確定なのか?  

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