雨の世界
@suoak1905
第1話
異世界旅行記
ある日、姉が姿を消した。
一冊の本と書き置きを残して消えた。
「妹ちゃんへ、ちょっと新しい世界を見たくなったので見てきます」
私はそれを見つけて唖然としていた。
「いやこうしてる場合じゃない」私は物置きを開け、[姉行方不明時のみ開封]と描かれた箱を開く、これには特殊な魔法をかけてある。姉が勝手に中身を入れ替えないように。
中にはリュックと1冊の本。
私はリュックを背負い姉が使ったとされる一冊の本を空へと向け、放つ。本は宙で開くと私を飲み込んだ。
私たちには不思議な魔法があった。
本は決まって無字の本でなければならない。
入るためには一族に伝わる呪文を書かなければならない。
帰るにはその世界で帰還魔導書を見つけなければならない。
それらルールを守ることで、私たち姉妹は異世界へと旅をすることができた。
だがこのルールには問題がある、それは帰還魔導書という厄介物、飛んだ先の異世界の一つだけ存在する本を探すことになる。だがこのルールには穴があり帰還魔術書は複製可能だ。
私はリュックと一緒に入っていた本を取り出す。
帰還魔術書。この先の世界では命よりも、この本が大切になる。姉が自分で持っていき、帰ってくるなら私だって姉を探しに行かなくて済むのにと愚痴をこぼしつつ目の前が、さっきまでいた部屋とは違う景色へと変わっていく。
私がやってきたのは、世界は雨が降っていた。
それ以外は何も無い、短い草の生えた地面に多数の雨粒が軽やかな音を立てている。
姉は一体なんのためにこの世界に来たのだろうか?
雨は本にとって天敵に近い、この帰還魔術書が雨に濡れてしまえば一発で使えなくなる。私は雨しかない空間に閉じ込められることになる。
なんだか考えるだけで怖くなってきた。私は目に魔法を走らせ、姉の魔法の痕跡を探した。幸いにも姉はこの世界に来てまず一番に魔法を使ったようであった。雨と地面しかない世界に薄紫色の泡がポツポツと西へと向かっていた。
私は足早に姉の魔法痕跡を辿っていく、この先に姉がいればどんなに助かることか、だが姉はある建物を前にして魔法痕跡を完全に消していた。
「あ、これ」
私が見たのは苔の生えた寺院であった。この世界に元々あるものなのか、この世界に作られた物なのか、後者だった場合は姉の行末がもっと遠くなる。
前者であり中に姉がいれば助かるが、なかには姉はおらず、ヨボヨボなお爺さんが驚いてこちらを見ていた。
「何ようかなお嬢ちゃん」
不思議な雰囲気のお爺さんに私は姉を見なかったと聞いた。
「姉さんかね?はて、お嬢ちゃんの姉がどんな子か知らんが前にも1人やってきてたな。赤い髪のロングの女の子じゃ」
「姉です」と答えるとお爺さんは扉を指差した。
その扉を開けるとお姉ちゃんが何かをじっと読みふけていた。
「ちょっと?」と話しかけるとお姉ちゃんはしまったという顔をした。
「妹ちゃん早いね。もう少しかかるかなと思ったんだけど、雨避け魔法上手くなったね」
「上手くなったとかじゃない!いくなら帰還魔術書を持っていくとかしてくれないかな」
「あーはいはい。帰れなくても帰還魔術書を探すのも一興かなって」姉が悪びれもなく笑うのを見て私は大きくため息をつくしか無かった。
雨の世界 @suoak1905
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