第17話 最終日2・いざ決戦の地へ

 春輝と二木が保健室へ行くと保健の先生がいた。しかし、二木が言っていたとおり普段とは違う人物だ。窓を見ているため、背中しかわからない。


「あなたがゲームマスターよね、先生。いえ、先生ではなく副理事長の出井嗣生いでいつぐおさん。ここの創業者、つまり理事長の孫であるのは創立記念の冊子に書かれていた。普通に跡取りになるならこんな無茶はしないだろうから、芸武学園と合併したら次期理事長の座から降ろされるのが決まってると推理したけど、どうかしら?」


 二木が問いかけると彼は振り向かずに答えた。


「その通り。この年ではしごを外されて無職になるなら、最後にめちゃくちゃにしてやろうと思ったからな。黒歴史を世界全体に晒す高校なんて誰も来たがらないだろ?

 そして正体に迫ったから二人共失格だね。黒歴史を晒そうか」


「あ、無駄です。さっき遠隔操作であなたのパソコンを乗っ取り、全ての黒歴史はデリートしました」


「なっ!? そんなバカな?!」


 春輝の発言で慌てて出井がパソコンに駆け寄ったところで、春輝は放送室にあったケーブルを投げて彼の足に巻き付け、引っ張った。


 当然、出井は盛大に転ぶ。その隙に二木が持ってきたマイクスタンドでパソコンとハードディスクを叩き壊した。オマケにスピーカーから外した磁力のある部品や肩こり用の磁石パッチもあちこちに貼っていく。


「そんな複雑なことできる訳ないでしょ。見事に引っかかったわね。どっかにバックアップあると困るから磁力強いのバラまきますねー」


「しかし、二木先輩。パッチはともかく、よくこんな道具見つけましたね。」


「私は放送委員なの。今はワイヤレスだけど、倉庫にアナログ部品が眠ってるのよ」


「なるほど、じゃ縛り上げますか」


 まだ痛みで動けない出井をケーブルで縛りあげ、ポケットにあったスマホも叩き割った。


「人を縛るの始めてだけど、こんなものかな」


「ククク、こんなことしてただで済むと思うのかね」


 出井が不敵な笑みを浮かべて意味ありげなことを言う。


「そう言うと思って、予めスパイも縛り上げてます、それがこちらです」


 春輝がベッドのカーテンを開けるとそこにはガムテープで縛り上げ、口を塞がれた拓真がいた。


「た、拓真! いつの間に!」


「むぐぐぐ」


 拓真はベッドの上で縛られて暴れようとするが、さらにベッドにロープで固定され、口にガムテープを貼られているから喋れない。


「縛り上げる前に、GPSがハッタリなこと、グレールのパスワードも聞き出して二人のグレールアカウントも消しました。だからクラウドのバックアップからも黒歴史は消してあります」


「じゃあ、なぜ斉藤君の黒歴史は晒されたのだ?」


「そこは『肉を切ったら旨かった』だよ」


「お前、それは『肉を切らせて骨を断つ』だろ」


 勇斗と慈恩が揃って保健室へやってきた。


「普段はパソコンのデスクトップのデータを使って、一日の終わりにグレールクラウドにバックアップを取ってるのは拓真から聞き出してました。敢えて一人の黒歴史を晒したのはあなた方を油断させるためです」


「まあ、いずれにしても俺が変態なのはクラスの皆も気づいてたし、元から恋愛対象には三次元と有機質には興味無いし。だから囮になってもいいよと俺がかって出た。春輝、縛り方が下手だな、俺が直してやる」


「あ、あれか? 縛るプレイのやつ?」


「そうだけど、変な顔するなよ。一応、服の上から縛るし、あれって元々は江戸時代の罪人の縛り方を応用したもんだぜ。縛りすぎるとうっ血して死んじゃうから、うっ血させずにしっかりホールドする技術ってやつ」


「狂ってる……」


「あなたに言われたくありませんね、出井さん。あと、拓真にも同じ縛り方をしておいたから揃って動画に撮るか」


「なぜ、ゲームマスターが私で拓真がスパイとわかった?」


 春輝は二木とのやり取りを思い返していた。


 〜〜〜

「それで大塚君はケアレスミスが多いわね。そこが惜しいな」


『先輩、放送が遅れたカラクリはまだ教えてもらってないです』


「それにしても、大塚君は健康だね。私なんか今は平気だけど午前中の1時限目は調。三十分くらい横になったら治ったから教室へ戻ったの。それにいつもと違う先生だったから臨時の先生かな」


『それ、放送が遅れた時間と一致します! マスターは保健室の先生であり、他人がそばにいるから放送できなかった』


『まあ、あんなにタイミング良くスマートウォッチが切れて落ちると思わなかったけど、結果オーライ。体調不良の件はランチで心当たりない? 私はある』


『僕も一つあります。そしてそいつがスパイでしょう、以前から少し不審な動きがありました』


『じゃあ、スパイ以外の二人に明日の作戦を紙にまとめてお見舞いがてらに渡しましょう』


 〜〜〜

「思えば拓真は保健室から帰ってきた時はいつも緊張した顔つきだった。なんであんな顔しているのが不思議に思ったけど、あなたに逐一報告していたからだったのですね」


「それで拓真がスパイとは限らないよ?」


「決定打は昨日の昼ごはんです。食後は僕はお茶を入れて飲み、他の皆はコーヒーでした。思い返すと拓真は僕の分まで入れて執拗にコーヒーを勧めてきたのです。仕方なく僕はお茶のあとに飲みましたが、時間がなくて飲んだのは一口だけでした。二木さんにも配られたそうですが、彼女は飲まなかったそうです。

 拓真は自らもカムフラージュで飲んだのが計算違いで思ったよりお腹を壊したのでしょう。ま、他の二人より症状は軽いようですが」


「で、作戦を聞いて俺が朝一番で拓真の寝込みを襲って縛った訳」


「慈恩、寝込みを襲うって武闘的な方だよね?」


「だから、俺が好きなのは二次元と無機質だよ。男女問わず三次元には興味無いから」


 出井の縛り上げ(どんな縛り方かは想像にお任せする)が終わった慈恩が拓真の口のガムテープを剥がした。


「ちくしょう、あと少しだったのに」


「拓真、君には失望したよ」


「この裏切り者め、スパイとして取り入って進級するつもりだったのか?」


「出井とは従兄なんだよ、昔から逆らえなかったんだよ!」


「理由にならねーよ」


「俺が裏口入学だとバラすって脅されてな。失格や寝返ると晒される黒歴史もそれの予定だった」


「拓真、それは黒歴史ではなく立派な不正行為だよ。それにこの学校の信頼にも関わる」


「だからこそ、このゲームを生き残る必要があった」


 拓真は不貞腐れたように首を横に向けた。










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