第11話 第三日目・2 勉強会なのか新たな黒歴史何なのか

「あのあと、二年の加川さんも脱落したな」


 コーヒーを飲みながら拓真が呟いた。


 三日目の夜、今日は拓真の部屋で打ち合わせしていた。どうせ監視カメラがあるだろうが気休めだ。食堂のコーヒーは勉強用に飲み放題だったから今夜の勉強会兼作戦会議は長引くと予想して人数分用意してくれたのは勇斗だ。

 和奏が走り去ったあと、明らかに動揺していた加川はスマートウォッチを付けずに食堂から逃げ出し、リタイアとみなされて失格となった。


「ああ、岸野先生と同じ腐女子で同人誌売ってたとはな」


「女が全員が腐女子に見えてきた」


「んー、加川さんのはアニメの二次創作だったから実在のよりはマシなのじゃないか?」


「でも、戦国アニメだったし、あれ確か戦国武将が全員美少女だろ? BLなのか百合なのかわからんが」


「人にはな、人の数だけ性癖があるんだよ」


「慈音、お前が言うとなんか説得力あるな」


「で、どうする? 今夜の勉強会。昨日は現国と言ったがドリルでもやるか?」


「拓真、今日はこれにしよう。現国は初日に補習を済ませている。英語に変えよう。洋楽を聞いて辞書ひいて訳する。英語の歌詞は皆の分をプリントしておいた。正直言ってあんなに自滅する脱落者ばかり見たから何もする気しないが、何もしないよりはマシだろ?」


 春輝はそれぞれにプリントを渡して、皆は「何の歌?」「読みにくいな」とガヤガヤしていたが、そのうち静かになり歌詞カードを真剣に見つめている。


「歌詞だけ見つめてもピンとこないと思うから曲をかけるぞ。じゃ、『HI! シーラ。デイビス《《四》》の『』をかけて』」


 すると、ゆったりしたテンポのイントロが聞こえてきた。


「俺も知らない歌なんだが、シーラにになりそうな曲と聞いたらこれになった。じゃ、まずは通して聞いてさっと辞書無しで翻訳する。それから答え合わせしよう」


「お、おう」


 曲が流れ終わった。皆がそれぞれ訳を書いている。


「よし、こんなもんかな」


 勇斗が紙をドヤ顔で出してきた。


『愛それは 野生の

 白い馬 いつか君

 や犬を 連れて

 見知らぬ 月を見に

 家へ行く 太陽溢れ』


「勇斗、それはお前のポエムだ。全く違うし、文脈ぐちゃぐちゃだぞ。分からないからって適当に書くなよ。他はどうだ」


 春輝が呆れたように言って見渡す。慈音が「これでどう?」と差し出す。


『愛してる リリーの

 バイオレットの瞳 慈しむ

 懐かしい いつかの

 のどかな ガチョウ

 昼寝し 一人で

 リリーを』


「慈音、お前もわからんからって適当に書くな。なんだよ愛しのリリーからのガチョウって」


「リリーという名のガチョウってどう?」


「ガチョウは紫の瞳じゃねーよ。って、ガチョウに恋するって……いや、慈音なら、いや、これ以上は止めよう。拓真は?」


「んー、皆と同じわからんから適当に書いた」


『金剛石の 婚約指輪

 鈍色のリング 慈しむ

 七色の イメージ

 サンシャイ ン 

 かもめは 白い翼

 ヤバいな』


 春輝はわなわなと震えて叫んだ。


「お前ら、やる気あるのかー! 皆して判らないからって、思いついた単語書いただけのポエムじゃんか! だからこんなデスゲーム補習に巻き込まれるんだろ!」


「いやあ、とりあえずラブソングだと思って愛の言葉を適当に

 慈音がヘラヘラと笑う。


「第一なあ、英語の歌詞! ここからどうやってこうなるんだ!」


 春輝はそのままレポート用紙にサラサラっと書いて、見せた後、コーヒーを一気に飲んだが勢い良すぎてレポート用紙ごと汚してしまった。


「わかった、わかったから、落ち着け。とりあえずコーヒーで汚れた紙は捨てようぜ」


 拓真が宥めるように春輝の背中を叩き、部屋に置いてあるトイレットペーパーでこぼしたコーヒーを拭き、レポート用紙はコーヒーがこぼれないように内側にして丸める。



「ああ、真面目にやろう」


「いや、俺達はいつも真面目だろ?」


「変態知識ばかり多いやつに言われたくない。まあ、歌詞をざっと見てラブソングなのは確かだよ」


「ここにsadとあるから悲しい恋か失恋ソングかな?」


「恋の病は医者でも治せん、か」


「医者も万能ではないな」


「医者といえば……」


「慈音、お前の変態うんちくはもういらん」


「いや、俺は聞きたいな」


「拓真!」


「いや、医者って薬とか調達簡単だから、精神科医とかはヤバい薬を調達可能なのかなって」


「なんだ、単なる推理か。待てよ、薬か。食事に混ぜて判断力狂わせるとかありそう。和奏は人一倍黒歴史暴露を恐れていたからキッチリしていた。だから付け間違いするかなと思ってたんだ。そうなると間違いをした理由もわかる」


「春輝、脱線はそこまでにして


「そうだな。それともいっそ、黒歴史の上塗りで全員でポエム書くか?」


「デタラメでも小っ恥ずかしいな、あれも」


「慈音、お前でも恥ずかしい感情があるのか」


「なんだよ、それ。春輝はそんな風に思ってたのか」


「そうじゃなければ何なのさ。

 それからさ、皆わかってると思うけどあと2日。特典目当てに、なりふり構わず先輩や先生達が襲ってくるかもしれない。あと、食事中なのにルールを破ってGは黒歴史を晒した。つまり安全な時は無いと思え」


「お、おう」


 全員が真顔に戻った。確かに命がかかってない分、なりふり構わずになる奴は出てくる。


「じゃ、黒歴史ついでに和訳、あるいはポエムを続けるか。まだ消灯時間まで余裕あるし」


「うう、捻り出すのがしんどいけど」


「拓真、生き残りたいなら、やれ」


こうしてギリギリまでは続いた。


現在の(社会的)生存者数 生徒六名、教師五名。



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