第9話 第二日目・4 深夜の会議または……

『それでだ』


 和奏を除く一年男子の四人はなぜか春輝の部屋に集まり勉強会という名の秘密会議をしていた。仕切り役は自然と拓真になったのだから、彼の部屋でやればいいのに、散らかってるからダメと言って春輝の部屋となった。たった二日で散らかるとはどんな過ごし方したのか気になるが、詮索する時間は無い。春輝は書記も兼ねてるので忙しくなる。


 監視カメラと盗聴器を恐れて床に座って輪になって顔を寄せ合い、ノートに筆談しては消すという古典的な方法で打合せをしていた。スマホだとうっかり保存や送信してしまう恐れがあり、どこで情報を抜かれるかわからないためだ。盗聴器や監視カメラがあることを前提にして動かないとならない。


 表向きは教科書の朗読の穴埋め問題を読み上げて、答えさせるということをして、BGMとしてスマホからラジオアプリを立ち上げて音声をかき消すようにカムフラージュする。

 三つのタスク進行と混乱しそうであったが、生き残るために必死で対策を立てていた。


『ゲームマスター像の推理だが、まず学園の関係者。これに異議のある奴はいないと思う。OK?』


『異議無し』


『異ぎ無し』


『いぎなし』


『じゃ、慈音がテキストの問題を読み上げる間に俺が推理を書く。その間に春輝は何か考えているような独り言でも言え。勇斗も答えを当てようとする役な』


「わかった。やはり、暗記物がいいな。日本史から行くか。五日間だから主要ポイントは戦国時代か江戸の改革シリーズかな」


『その調子だ。それでこちらの推理だが情報を把握できる教員、あるいは探偵を雇えるような金持ちではないかと推測する』


「やはり戦国時代だろ。織田信長が今川に勝った桶狭間の戦いは何年とか、本能寺の変とか」


『ほぼ異議なし』


『いぎなしだが、金持ちなら生徒や参加者の可能性ありとすいそく』


『異ぎ無し』


 殴り書きだからひらがなや誤字も目立つが訂正する間もない。ちぐはぐなやり取りは続く。


「うえ、暗記物苦手。ゲームやってたから、辛うじて本能寺の変は1582年って覚えているくらい。しかし、日本史って時間割にあったっけ?」


『すいそくかいたじおん、意見を書け』


『参加者なら、だつらくしゃをまぢかで見られる、探ていをやとえるなら大人でなくとも金持ちの子どもなら可能』


『なるほど』


「じゃ、江戸時代の改革シリーズかな。享保の改革は誰がやった?」


「えーと、田沼意次?」


「はずれー。徳川吉宗」


「いきなり難易度高いな、おい」


『それか、そうそうにだつらくしただれか。ミステリでよくあるさいしよに殺された奴が自由にうごけるのパターンもアリだ』


『あ、それオレも思った。だつらくしゃならかんし自由にできる』


『理事長とかおエライさんの線は?』


「勇斗、もうちょい易しい問題を出してくれ。いきなり享保の改革はハードル高い」


「じゃ、黒船が来たのは?」


「えっと、1853年?」


「当たり」


「よしっ!」


 頭と手が別々の行動を取るのは大変だ。春輝は軌道修正を提案した。


「ちょっと教科書読んで覚えさせる時間くれ、今のではキツい」


『ハルキに同意。俺もさっきから答えられずに取り残されてる』


「じゃ、暗記タイム5分な」


 少しだけ筆談する時間が出来た。とはいえ、漢字書く時間が惜しいから、相変わらずひらがな混じりの殴り書きだ。


『参加しゃでも教師ならあるていどアリバイの空白があるな』


『野田センセはつまみ出し要員以外の仕事が無いという点からあやしい』


『それとも理事長の息子などニートで金と時間あるやつではないか』


『消去法で行くと参加者の生徒は授業中以外のアリバイないが、今日の岸野先生からしてシロ』


『では昨日と今日のだつらくしゃか』


『まて、そうすると初日のオリエンテーションがおかしい。さんかしゃ全員いて、ゲームマスターの放送を聞いていた』


『最初のだつらくしゃの山田は?』


『いや、マスターは俺の質問に答えていた。途中まで台本とおりに話して、すばやく放送している場所へ言ってこたえられるのか?』


『あと、アリバイないやつ』


『いるのか?』


「おーし、5分経った。再開するぞ」


「え、ちょい待て。まだ覚えてないし、書き取り……答えの書き取りが終わってない」


 春輝は危うくバラしそうになったが、何とかごまかした。本当に息が詰まる。しかし、やはりデスゲームだと(社会的に)死ぬのを待つのは嫌だ。こうしてマスターが誰かということを推理をするだけでも気が紛れる。


「5分で書き取りってせいぜい二、三問だろ、無駄無駄。じゃ、行くぞ」


「あー! もう! いいよ! 1914年サラエボ事件、三年後にロシア革命、そして第一次世界大戦と」


「ちょっと待て、なんで世界史になってる」


 しまった、手元の教科書が世界史だった。筆談に夢中で間違いに気づかなかった。監視カメラは見えないようにしているが、会話の不自然さでバレるかもしれない。


「あ、あれ? 日本史の次は世界史じゃなかった?」


『ヤバいな、ちょっと話を逸らしてえんごする』


『わからんがまかせたじおん』


「そういえばよぉ、第一次世界大戦で思い出したけど、それが起きた真相って知ってるか? サラエボ事件と言われるけど、本当は変態の治療がきっかけだって」


「なんだよ、それ! って夕飯時と言い、慈音はかなり偏った知識持ってるな、おい。で、その変態は何をしたのだ」


 拓真がまたも話に食いついてきた。


「んー、なんでもお尻にビンが刺さって抜けなくなったとか。まあビンでナニをアレしてたんじゃね。それで、入れてた中で割れたと。

 現代でも救急車で男女がそれぞれ股間のあるところにビンやら湯呑みやら人形やらナスを突っ込んだ不思議な患者が運ばれるというぞ」


「それがなんで世界大戦に繋がるんだよ」


「ネット情報だから、うろ覚えだけどヨーロッパだか東欧の国境沿いで隣国の病院だかにその変態ケガ人が緊急搬送されて『これは普通の怪我ではない、隣国の拷問だ』と互いに言い合って戦争へって流れ。本人も大事になって真相言えなかったんだろな」


「変態が世界を滅ぼしかけたのか……」


 辛うじて春輝が一言だけ返して他の二人もなんだか脱力してしまった。


「って、それ気持ちいいのか?」


「俺、便秘持ちだから無理。出すのも苦労するのにそれより固いもの入れるってありえねえ」


「でも、男と愛し合うようになったら、その片方はそこに……」


「よせ、聞きたくない。お開きにしてもう寝ないか? なんか今の話でなんだかどうでもよくなったわ(今夜のノートは消しゴムなどで消すか詰まらない程度にトイレに流せ。明日、各自の意見と案があれば提示しよう。明日の偽装問題は無難に現国にする)」


「おう、そうだな。ケツにビンでモチベ無くなったわ(ラジャー)」


「って、これも多分ゲームマスターに聞かれてるんだろ? 俺達は変態と追加されそうだな(らじゃ)」


「ああ、なんだか疲れた(りょ)」


 こうして二日目の夜は成果のないまま解散した。


 現在の(社会的)生存者数 生徒八名、教師五名。






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