第7話 第二日目・2 疑心暗鬼の授業となんちゅーもんを……
ここからは各学年の教室へ別れる。さっきのような上級生からの襲撃はないが、この補習仲間や先生から襲撃される恐れがあるかもしれない。
先生も生活がかかっている以上は、例え教え子でもスマートウォッチを奪いにくると考えても良いだろう。
春樹はスマートウォッチのバッテリー残量を見て、昼休みまで持ちそうだとわかり、ひとまず安心した。恐らくバッテリー切れもルール違反だろうからだ。今度は忘れないようにしたい。
「こんな状況で授業に集中できると思えないんですけどー」
勇斗が誰にとも無く文句をつける。
「大体よぉ、デスゲームか補習のどっちかにしてほしかったよ。きっと、ゲームマスターがアメとムチのつもりでやったか、デスゲームやりたいとわがまま通して学校側と話し合って折衷案として行われた。うん、きっとそうだ」
「ゲームマスターって、学校のお偉いさんかな」
「あり得るな、それ。」
勇斗と慈音が授業開始前だからと雑談してる。
「おい、下手に探ろうとすると失格になるぞ」
「大丈夫だって。接触するつもりないし、推理して失格なんてことになったら、その推理が正解になって正体がバレることになる。だからゲームマスターは推理が正解不正解でも手出しはできない」
拓真が注意するが、二人はあまり取り合わず議論に夢中になっていた。確かに勇斗の言うことももっともだ。
しかし、裏ルールもあるから大人しくしておいた方がいいのに、と危ない目に遭った春輝が思っていると吉田先生が入ってきた。
とりあえず皆は黙り、マイペースな和奏が「起立、令、着席」と号令をかけていた。
「では、補習を始める。まずはテキストの最初のタブレットを開いて」
吉田先生はアナログな人だからタブレットと同じ内容の紙のテキストを使っていた。なんでも老眼でタブレット見るのがしんどいらしい。
今までアナログで生きてきてこれだから、デジタルネイティヴの生徒達は年をとったら近視どころか障害者手帳ものの視力になりそうだ。
タブレットを指示通りに起動させると吉田先生の受け持つ現国の授業であった。教科書よりやや砕けた感じの内容で小説の一部分の抜粋で設問がある。
その作品がデスゲーム原点である、かの有名な高見広春の「バトルロワイヤル」である。悪趣味としかいいようが無い。
「では、このページを誰かに……いえ、止しましょう。黙読してください」
先生も同様に感じたようで、文章を読み上げさせようとしたが、止めてしまった。
「では、設問1ではこの主人公の……」
とりあえず、作品のチョイスはともかく、補習はつつがなく進み、1時限目は終わった。
2時限目の支度をしながら、皆は伸びをしたり首をコキコキと鳴らしている。相当緊張していたのが見て取れる。
「お互いに助かったな。俺、ちょっと保健室で腕時計ずらしてくるわ」
拓真が保健室へ移動するため教室から出た時、勇斗が春輝に話しかけてきた。
「うえー、なんか緊張して頭に入らねえ。内容もひどかったけど、先生もなんだか声が少し震えていたな。でも、先生の黒歴史か。年配だから中二病は無さそうだけどな」
「いや、昭和は大らかだったというから、今だったら犯罪モノなんて沢山あるよ。不良とはいえ未成年の喫煙や飲酒なんて当たり前だったし。さすがにヒロポンの世代ではないだろうけど」
「ヒロポンってなんだ?」
勇斗が不思議そうな顔をして聞いてくる。令和の時代はもちろん、平成生まれだって知ってる世代がいなくても当然だろう。
「覚醒剤だよ。俺もうろ覚えだけど戦時中まではセーフで、ヒロポンという名前で今のエナジードリンクみたいな感覚で売られてたんだって。ひいじいちゃんから聞いた」
「それもすげえ時代だな。あー、なんか俺も腕がむず痒い。ちょっとなんかのアレルギーっぽいんだよな。俺も保健室へ行けば良かったな」
勇斗がスマートウォッチを痒いところからずらそうとする。
「あまりずらすと外したと見なされるぞ」
「そうかもしれんが痒いのは痒いんだよ」
辛うじて少しずらした部分は確かに赤みがかかっていた。
「次の時間の休みに保健室へ行けば?」
「そうするわ、次は数学の岸野先生か。ドジっ子タイプだから黒歴史なんて多そうだな」
あっという間に休みは終わり、ぎりぎり拓真が保健室から戻って座った瞬間に、岸野先生が入ってきた。
と、思った瞬間に何かにつまづいて転んだ。元々何も無くてもつまづく人だから誰も驚かない。これが若い先生ならば、なんとかドジっ子キャラで済むのかもしれないが、岸野先生はアラフォーだかアラフィフだから皆はスルーしている。
しかし、スマートウォッチが外れて教室の床を滑るように隅まで飛んでいったのは皆が見ていた。
『はい、数学の岸野麻里子先生、失格』
「ま、待って! 故意ではないわ!」
『言ったろ? 様々なトラップがあるって。まあ、“不良品の外れやすい”スマートウォッチも混ざってたかもしれないねえ』
「そ、そんな! 充電終えて装着したときは異常なかったのに!」
『それはわからないねえ。そんなこと言っている間にもう黒歴史が晒されているよ』
『岸野麻里は腐女子であり、BLが“やおい”と呼ばれていた頃からのベテラン腐女子である』
腐女子にベテランなんてあるのかと思いつつ、スマートウォッチの読み上げが続き、再び黒板前に降りてきたスクリーンにも画像が出ていた。古い感じのマンガタッチで少年二人がキスをしている絵だ。
「いやあっ! それはコミケがまだ晴海の頃だった時の小太郎クンと若嶋クンのカプの同人誌っ! どうしてそれを!」
『蛇の道は蛇と言うじゃないか。このように推しカプは漫画やドラマに始まり、やがて身近な人にも妄想は行き渡り、最近は野田先生と……』
どんどんとBL同人誌が映し出される。中にはきわどい辛みもある。生徒が未成年だからR15くらいを選んでいるのだろうが本人は錯乱している。
「うわぁー! それ以上は言わないでぇぇ!!」
つまみ出し要員として駆けつけた野田先生もさすがに固まっている。
「お、俺は誰とBLにさせられてたんだ?」
『先生だと数学の大野先生。生徒だと生徒会長の野々宮君など組み合わせが沢山あるね。腐女子の生徒達のリクエストで沢山スケブも書いている』
プロジェクターには野田先生と思われる人と様々な人との絡み……と言っておこう。それらの絵が沢山表示されていた。一応モザイクはかかっていたが、教室全体に気まずい空気が流れていた。
「いやああ!!」
「岸野先生、普通に無許可副業でダメなやつですね。まあ、私も被害届出したいくらいだけど学校側が処分下すでしょう。出て行ってもらいましょうか」
野田先生が嫌そうに岸野先生の腕をホールドして連れ出して行った。
『そういう訳で2時限目は自習だ。彼女が落としたプリントでもやってくれたまえ』
春輝達は『なんつーものを見せてくれるんだ』とげんなりしつつ、放送の指示通りに自習を始めるのだった。
現在の生存者数 生徒八名、教師五名。
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