第5話 第一日目・5 続々出る黒歴史
「なるほど、裏ルールか」
春輝は二人が出ていった扉を見つめながら呟いた。
「二人共、確かに黒歴史だったな。中二病的な痛い黒歴史だった」
「キツいし、就活でも笑われるパターンだな。デジタルタトゥーとして残って一生いじられる」
「一応、黒板に書くか」
春輝は『裏ルールいくつかあり。一つはゲームマスターに接触しようとすること。黒歴史の種類は中二病系(?)』と書いた。
「俺たち、普通にしていても知らずに地雷に触れるのか」
「真面目にしても失格の危険があるって怖すぎる」
「ゲームマスターの気分次第なんてありえるな」
「やはり、奪ったらボーナスポイントあるのではないか? 殺し合いさせるのがデスゲームだ。奪い合いに仕向けるものが何かあるはずだ」
教室内がざわめき始めた。先生達も集まって話し始めている。大人で年齢の分だけ黒歴史も多いのだろう。
そんな中、二木がガタッと派手めな音を立てて席を立った。
「私、部屋に行くわ。オリエンテーション終わったし、マスターも言ってたから今日の残り時間は自由でしょ。移動距離はカウントされないはずだし、気分悪いし、休むわ」
彼女はそのまま荷物を抱えて廊下に出ていった。
「俺は図書室行くわ。せめてなんか予習くらいしようと思うが、一人だとスマホばっかりやって勉強しにくくて。春輝はどうする?」
「僕も行くよ。なんか一人になるのが今は嫌だ。でも、一旦荷物を置きに寮へ入る」
「そうだな。じゃ、三十分後に図書室でな」
二木が教室を出たことを皮切りに皆、それぞれ行動を取り始めた。輪になって話を続ける者、二木のように寮へ向かう者、共通しているのはそれぞれどうやって落ちこぼれなくて済むか、あるいは落ち着きたいことだ。
「やはり、第2志望の学校だからって普段の勉強を怠けすぎた。デスゲーム付き補習ってなんだよ」
春輝は荷物を部屋に置いたあと、独りごちた。部屋を見渡すが、カメラらしきものはとりあえず見当たらない。スマートウォッチのデータやGPS機能で見張るのだろう。
四六時中姿を見られている訳ではないとほっとしたが、やはり今は一人になれる気分ではない。支度をして図書室へ行って拓真と合流しようとしたその時。
『二年一組の武田雄大君、失格。君のその左手のサポーターは野球の怪我の後遺症と皆には言っているが違う』
唐突に放送が始まった。さっきの二年生が何故失格になったのか、奪われたのか考える前に黒歴史を晒し始めた。
『彼は中学生の時に女子向けの占い雑誌を愛読していた、正確には妹が読んでたものを読ませてもらっていたのだが、まあそんなことは関係ない。その中のおまじないの『左手首に好きな人の名前を書いて誰にも知られずに百日経てば叶う』というものがあった』
よくある女子のかわいいおまじないの類だ。しかし、続いたアナウンスは確かにいろいろ意味で痛い黒歴史であった。
『本来はマジックで書き、薄くなったら上からなぞるものだったが、君はコンパスの針で傷を付けて彫り物みたくして手の甲に名前を書いた。『愛しのライラ』と』
ライラ、確か数年前に流行ったアニメのキャラの名前でありハーフエルフの金髪美少女だ。ハーフエルフ故に人間とエルフの両方から差別を受けていたところ、主人公が助けたのをきっかけに主人公の仲間となり、支え、主人公にほのかな恋心を抱く。そんな話だった。
つまり武田は架空の女の子(しかも異種族)にガチ恋をして、文字通り痛い思いを伴うアレンジをしたおまじないをしたことになる。こうしてアナウンスされているということは、既にそのアニメやライラへの恋心は無く、黒歴史と認識している。
「ぐわぁぁぁ!! 言うなぁぁ……」
どこからか武田の悲鳴が聞こえたが、野田先生に引きずられて行ったのか、悲鳴が遠くなっていった。
「えーと、あれはドップラー効果だっけ? いいや、とりあえず図書室へ行こう」
春輝は拓真との約束に遅れると思い、そのまま図書室へ向かうことにした。今日くらいは何も考えずに勉強しようと思ったが、誰かに早速スマートウォッチを外されたのだろうか? それとも裏ルールに引っかかったのか?
不安な思いを抱えたまま、図書室へ向かうのであった。
現在の生存者数 生徒九名、教師六名。
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