第4話 第一日目・4 裏ルール発動!
こうして拓真が話し、春輝が黒板に書き出すことになった。初日はオリエンテーションで通常なら自己紹介などで和やかにいくものだが、教室の人達は誰も教師含めて誰も外に出ず、何となくこんな流れになってしまった。皆は二人の行動を固唾を飲んで待っている。
改めて教室を見ると教師は体育の野田先生を含めて五人、生徒は一年は春輝含めて五人、二年生が脱落した山田を除くと七人、三年が二木だけだから残り十七名となる。
「別に大したことを言う訳ではないけどな。まず、基本は春休みの泊まり込みの補習。仕上げのテストに合格すれば進級なり卒業できるという。寮生活の取り決めは机に置いてある冊子。これは普通に寮生活する生徒向けだ。さっきザッとめくったけど変わった点は見つからなかった」
春輝が黒板にそのまま、『事前に聞かされたこと』として書いていく。
「何故か教師にまでスマートウォッチを支給されて四六時中付けるように指示をされる。これを勝手に外したり、正当な理由無しに外す、または誰かに外されると負け。ランダムでスマートウォッチにロックがかかる時間があるため無闇やたらと攻撃、つまり奪うと返り討ちに遭う。さっきの放送から防御時間は授業中なのは判明したが残りは不明」
「敗者は黒歴史がネットを通じて全世界に曝される、或いはSNSアカウントを暴かれて痛いやつとバラされること」
「通常のデスゲームと違うのは健康管理は、しっかりしていることと、最後の一人にならなくても良いこと、死ぬのは社会的地位というかプライドかな」
拓真が言い終わり、春輝が黒板に何とか書き終えると野田先生が言った。
「やはり大人しく生徒達が補習していれば、互いに問題は無いのではないか?」
確かに変な気を起こさなければ問題ない。
「先生、気持ちは解りますが、ボーナスなどの特典なんてわざわざ言わないと思います。射幸心を煽るというか」
春輝は疑問点を反論する。確かに大人しくしていれば問題はないが、そんな緩いデスゲームなんてまずは開催しない。殺し合いしないだけでも充分緩いが。
「俺もボーナスで釣ろうとしていると思った」
最前列の二年の男子、さっき抗議していた武田が発言した。
彼が左手にサポーターを巻いていることから部活で手首を痛めているのかもしれない。彼も保健室のお世話になりそうだ。
「それに、人の黒歴史を見たい奴が何も仕掛けないとは思えない。さっき『細かいルールあるけど省略』と言ってたのがひっかかる」
「それは私も思った」
二木が手を上げて発言する。
「例えばスマートウォッチが外れやすくしてあるとか、何かの条件で外れる隠された罠などあると思う。省略した中にはもしかしたらスマートウォッチ奪ったら補習の点数アップとか防御時間が延長されるなど裏ボーナスがあるかもしれない」
二木の意見にも説得力がある。そうなると自分の将来のために攻撃に転じる奴が現れるかもしれない。
命は取られない安心感もあって、皆腕組みして考え込んでしまった。
「大人しく勉強して補修を頑張るか、特典目指すか」
「しかし、さっき誰かも言ってたが、ここまでして何もないなんてゲームマスターは満足しないだろう。むしろ何かをけしかけてくる」
「やはり知らされていないことがあるのか」
意見は出るが、正解は誰にも分からない。そして、それぞれの黒歴史を思い出しているのか、頭を抱える者もいた。
「しかし、晒される黒歴史って何だろう。俺、心当たり無いというか、この名前で既に黒歴史だよ。親がアニオタだからさ」
慈音が首を傾げる。確かにどの世代にも通じるアニメから取っているため彼が名乗ると笑われたり、微妙な顔されたり、「君も好きなのか!」と勝手に同士認定されて困っていた。現在進行形の黒歴史という訳だ。
「慈音、それは親の黒歴史であってお前自身の黒歴史ではない。さっきの亜飛夢先輩も名前だけならそうだが、それを使ったポエムを投稿していた。それは先輩が作った黒歴史だ。多分、ゲームマスターはそういう俺たち全員の黒歴史を掴んでいる」
全員が一斉に『うげっ』という顔になったから、やはり全員何かしらの心当たりあるのだろう。
「さっきのポエムみたいに残してなければ大丈夫。あれはアナログにしておいて燃やしたはずだし、あれも消去してパソコン破壊したし」
「加川」と名札を付けた二年女子がブツブツ言っている、“あれ”が何かは知らないが、詮索しないほうが安全なのは確実なので、全員が独り言としてスルーしていた。
『そのとおり』
突然、ゲームマスターの声が再びスピーカーに響いてきた。
『いやあ、説明忘れがあったから放送室に戻ったら、皆で推理大会になってるからさあ。今日はいいけど、明日からの授業に差し障りあってはいけないから補足しようと思って』
やはり監視されている。こんなタイミング良く放送が始まる訳がない。多分、ダラダラ打ち合わせしてデスゲームの開始が遅れるのを嫌がって親切に『補足』してくれているようだ。
『お察しのとおり“裏設定”や“裏ルール”があるが、裏だから中身は秘密』
やはり、裏ルールがあるのか。司会役の二人を始め全員が失望していた。
『裏ルールは明かせないけど、ちょっとだけ言うなら事故でも故意でも起こりうることもある。そんなのがいくつかあるよ。じゃ、今度こそグッドラック!』
再び教室がざわめく。普通にしていても突然失格になるという訳だ。
「ちくしょう! 今、放送室へ行けば捕まえられるか?」
二年の一人がダッシュで入口へ駆け出した瞬間。
『はい、二年二組の
どうやらゲームマスターを捕まえようとすると失格のようだ。裏ルールの一つはわかった。
『戸籍上の名前は
「俺と似た境遇だな、でもそうすると俺もキラキラネームとして晒されるのか?」
慈音が震えている。
『その通称にする時に候補を小学校の時に担任に相談したよね。その候補が……』
「や、やめろー!!」
どうやらチタニウム、もとい知多君はキラキラネームが黒歴史ではないようだ。
「
いつの間にかスクリーンが降りてきてプロジェクターが稼働しており、漢字表記までされている。各自のスマートウォッチにもメールが入り、表示されていた。
「痛いわー、無いわー。しかも名字もあるし、ウケる。小学生が必死に辞書ひいて考えてたの想像付くわー」
「俺が相談受けてたら、やはり全力で止めるな」
二木が腹を抱えて笑う、野田先生も頷く。
「ちくしょー! その通りだよ! 止められたよ! 失格ついでに殴り込みだ!」
『無駄だよ。僕が真面目に放送室にいると思うかい? あと、失格者は強制退場。野田先生、つまみ出して』
「え? あ、俺はそういう要員も兼ねてるの?」
戸惑いつつも野田先生は鈴木ジャスティン、ならぬ知多君を荷物ごと引きずり出していった。
『締めが悪くなったけど、改めて健闘を祈る。今日はオリエンテーションのみだから、あとは寮に入るなり自習なり好きにしてね』
放送はまた突然終わった。
春輝達は今度は動けず無言で頭を抱えるしかなかった。
現在の生存者数 生徒十名、教師六名。
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