第3話 第一日目・3 デスゲームには健康は大事
放送はなおも続いた。
『ルールはさっきも言ったとおり、スマートウォッチを決められた時以外に外したり、誰かに外されると失格。リタイアも失格。
ただし、バトル中でも食事時は外そうとした方が負け。食事くらいゆっくり食べたいよね。それから風呂時も禁止、奪い合いで転倒したら本当のデスゲームになってしまうからね。充電は食事中に行う』
変なところで律儀と思ったが、確かにさっきのポエムが食事時に聞こえたら吹き出さない自信はない。
『それから、自由時間以外に部屋に籠もるのも禁止。スマートウォッチが移動距離を記録しているから。一定の距離を動いてないと翌朝の朝礼が黒歴史暴露放送になるからね。GPSロガーの機能もあるから部屋の中うろついて距離稼ぎしても失格』
それを企んでいたらしき二年の男子が舌打ちをする。
「その前に籠もったら補習サボることになるから失格だよね」
和奏がつぶやく。それはもっともであると何人か頷く。当然のことだ。
「質問、いいですか?」
相手はスピーカーなのに拓真が手を上げた。
『おや、なんだい?』
なぜか質問に反応する。まあ、大抵のデスゲームモノでも全てお見通しだから、この教室も設置された隠しカメラなどで様子がわかるのだろう。
「アトピーの人も付けっぱなしですか?」
彼はアトピー持ちだから蒸れて外して失格することを心配しているのだ。
『もちろん。ただし、保健室に医師が常駐しているからそこで薬を貰って。治療は正当な理由だから、痒くて反対側の腕に外してつけ直す時も保健室でやってね。アトピーに限らず保健室は風邪引いた時など積極的に利用してね』
「わかりました。ちょっと面倒だなー」
「本当に健康には気を使うし、命が目当てじゃないんだな」
勇斗がつぶやく。確かにペナルティ以外は厳しめの補習合宿だ。しかし、ペナルティはこれから堂々と生きていけるかわからない地獄が待ち受けている。
『そして、スマートウォッチにはランダムで外されても負けにならない防御タイムがある』
「は?」
「なんだよ、それ」
再び教室がざわつく。
『つまり、せっかく誰かのスマートウォッチを外しても防御タイム中だと黒歴史が晒されない。逆にカウンターで外したものが黒歴史を晒される』
「なんだよ! それ! なんの意味があるんだよ!」
立ち上がって抗議したのは確か野球部の武田という生徒だ。確か、エースではあるが勉強、特に数学だけ壊滅的に成績悪いと聞いたことがある。ここにいるということはスポーツ特待生ではなく一般入試だったのか。
それより、彼の抗議の答えの方が気になる。防御中とはなんだ?
『ゲームのハンデだよ。このままじゃ、力が弱い人や年配の人が不利だからね。それに授業中に奪い合いになったら補習が成り立たなくなる。おっと、時間を一部バラしてしまったか』
「確かに私のような定年間近だと、守るのに精一杯で補習の授業が成り立ちませんからな。ハンデは助かります」
そう言って安堵したのは定年間近の現国の吉野先生だ。確かに年齢の分だけの黒歴史も多そうだし、安心感ある老後が過ごせなくなるのはキツイのだろう。再就職しようにも「あ、アレの人ね」と鼻で笑われる、ご近所でもおば様たちの噂の種にされる恐れが高いからだ。素直に早期退職すれば良かったと後悔しているに違いない。
しかし、生地獄が待ち受けているのはここにいる全員も同じだ。さっきのポエマー山田君の件もあり、スピーカーに全員が集中した。
『ま、デスゲームのルールはザッとこんなもん。あと細かいルールあるけど長くなるから省略。補習は通常の授業と同じように6時限で学年ごとにあるからね。もちろん、デスゲームに生き残れたら報酬はあるよ。さっきも言ったけど生徒は今後の学費免除、二木さんは入学金も免除、教員は臨時ボーナスと給料二割アップ付けるよ。じゃ、健闘を祈る』
放送が終わったあと、皆は微妙な顔をしていた。
「要は大人しく補習受けていれば生き残れるのではないか?」
春輝が言うと拓真が反論した。
「いや、わからん。補習受けても絶望的な成績だからと落第の道連れにしようとする奴も現れるかもしれない」
「あれか、自殺したいけど自分でやりたくないから死刑になりたいと街中で刃物振り回す事件を起こすようなものか」
「あり得るわ、どうやって防御したらいいのかしら」
不安そうに和奏がスマートウォッチに手をやる。
「とりあえず、今の状況を整理しようぜ」
拓真が春輝を立たせて前の黒板へ向かった。
現在の生存者数 生徒十一名、教師六名。
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