第2話 第一日目・2 いろいろな意味で奇妙なオリエンテーション
『おはようございます。補習に参加の諸君、そして先生方』
スピーカーから流れてきた音声は明らかに合成音声であった。よくアニメなどでも人工的な音声ガイダンスが流れる男女どちらとも付かない音声だ。
『君たちには進級、または卒業が危ぶまれている者たち、及び仕事処理能力の基準に達していない教師だ』
春輝が振り向くと、さっきの野田先生始め数人の教師が座っていた。彼らもまた困惑した顔である。基準とはなんだろう? 教師も補習で賄えるものなのか? そもそも、なぜ教師たちもここにいるのだ? 数々の疑問が頭の中を駆け巡る中、放送は続く。
『皆も知っていると思うが、再来年に我が出井素高校と芸武学園が合併する。当然、教師も人員整理することにになる。ここにいる教師はリストラ候補という訳だ』
野田先生始め、驚いて周りを見渡したり、「ウソ……」と呆然とする先生もいる。確かに少子化の今は合併しても生徒数が倍になる訳ではない。教員もリストラされるのもあり得る話だ。
『そこで、補習と一緒にあるゲームをすることになった。まあ、適性検査とも言えるかな。補習期間中に同時進行のゲームで生き残ったら進級や進学、ここで働き続けることを保証しよう。ボーナスとして生徒は今後の学費免除、教員は給料二割アップ、ボーナスは二倍となる』
今度は全員がざわついた。補習だけではなくゲーム? 生き残る? 学費免除にボーナス? この合成音声といい、嫌な予感しかしない。
『察しのいい奴は気がついているね、いわゆるデスゲームだ』
ヒィッと悲鳴を上げるもの、みるみる顔が青くなるもの。それぞれの顔には絶望感が溢れていた。さっきの二木と拓真も真っ青になって震えている。
『なあに、命を取るものではない。殺し合う必要ないデスゲームさ。ただ、スマートウォッチは大事なものだから、決められた充電時間以外は身に着けていること』
また不思議なことを言う。デスゲームは文字通り死のゲームだ。死なないデスゲームとはどういうことだ。それは周りも同じらしくざわつき始めた。本当はスマートウォッチの心拍で生死を確かめるものではないかと訝しげにブツブツ言う者もいる。
『死ぬのは命ではなく、社会的な地位、またはメンタル』
一瞬で皆が黙った。死なないが社会的に死ぬとはどういうことだ。周りを見渡しても首を傾げている。
『負けたり失格するとプレイヤーの黒歴史がネットで晒されるよ。もちろん留年さ』
その言葉に教室内に戦慄が走った。
『誰でも恥ずかしい過去や黒歴史があるだろう? それが全世界に晒される。小っ恥ずかしくて悶え死ぬか鋼のメンタルで胸を張って生きられるかは君たちしだい』
ざわめきの種類が恐怖から疑問へと明らかに変わった。これが映画などだと誰か逆らって真っ先に殺されるやつが出るものだ。とりあえず春樹は放送が終わるまでは大人しくしていようとしたその時。
「黒歴史ぃ?! やってらんねーよ! もう留年していいよ! 俺はリタイヤする!」
思ったそばからベタベタな行動を取るやつが現れた。誰だと思って振り向くと知らない二年生だ。如何にも不良な髪型と不良お約束の改造した制服を着ている。イキっているというのはこういうことか。
そいつは支給されたスマートウォッチを乱暴に外した、その時。
「はい、ニ年二組の
その時、一斉にスマートウォッチの音声読み上げ機能が発動した。
『七月七日 雨
今日は七夕だが、雨だ。織姫と彦星は雨や曇りだと会えないという。
せっかくの年に一度の逢瀬が来年に繰り越される。可哀想な悲劇のヒロイン。彼らはそんなにひどいことをしたのだろうか。
そして、俺の織姫はどこにいるのだろう。この学園の中だろうか、早くめぐり逢いたい……俺の織姫』
日記のようだがポエムだ。いかつい不良スタイルとは全くイメージが違う。
当の山田君とやらは顔を真っ赤にして音声をかき消そうとわめき始めた。
「ち、違う! これは俺の書いたものではない! この俺がこんな小っ恥ずかしい日記書くかよ!」
毎日日記を付ける時点で変に真面目だが、と春輝が思う中、読み上げは続く。
『今日は高校の入学式。昔は桜の花が迎えてくれたが今はスギの花粉が俺たちを祝っているようで呪っている。桜の精の美しさに嫉妬したスギの精が俺の入学式に割り込んだのか。精霊にもモテるなんて俺って罪なやつだ』
クラスメイトらしき男子がつぶやく。
「そういえば、入学式は桜は終わってたし、スギ花粉ひどかったし、山田はスギ花粉症だったな」
「止めろ、止めろぉぉ!!」
どうやら山田亜飛夢君はポエマーのようだ。先ほどまでの怖さは黒歴史を知った今は滑稽にしか見えない。
『これは君の日記の一部。しかもポエム投稿サイトにもアップしてるね。ペンネームはアトミックボーイって、ポエマーな割に科学的だね。あー、最初のころは科学的っぽいポエムがあるね。
例えば
『俺の心臓は科学の力によって機械化している。
実は俺は事故にあったが秘密の手術で一部がアンドロイドなのだ
特別な機能もあるが、来るべき時までは使えない
来るべき時、それは人類を滅ぼさんとする闇のアンドロイドが……』』
「あ、ホントに検索するとアトミックボーイ出てくる。ぷ、ププッ」
同じ二年の男子がスマホをいじりながら、笑いを堪えている。
「う、うわあああん! 止めろっ!」
アトミックボーイこと山田君は両手で真っ赤な顔を塞ぐようにして泣いて出ていってしまった。
「アイツ、あんな格好なのにあんなポエム書く奴だったのか……ブフッ」
さっきの男子が、笑いをこらえながらつぶやく。
『いい手本になったね。こうやって勝手にスマートウォッチを外すなどルール違反、或いは他人にスマートウォッチを奪われると黒歴史が晒される。まあ、今回のはすでにネットにあげていたから、全世界に晒されてたのをリアルの皆に正体暴いただけになるのかな』
先程の男子も真顔に戻る。そうだ、失格するとああやって黒歴史が晒されるのだ。
現在の生存者数 生徒十一名、教師六名。
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