留年を回避するために社会的に死ぬデスゲームに参加するハメになった

達見ゆう

第1話 第一日目・全てはここから始まった

「ふわぁ、眠い」


 補習まで遅刻は駄目だと両親に叩き起こされ、荷物を抱えながら春輝は登校していた。補習という楽しくない目的、眠さもあって足取りは重い。


 今年の桜は史上最速とか言って、卒業式の日に咲き、春休み初日なのにもう散り始めている。新学期には葉桜になっているだろう。


 進級できていればだが。


 春輝はこの出井素デイス学園は第二志望の高校だったためか、あまりやる気を出さず勉強しなかったから赤点が続き、ついに救済措置的な四泊五日の補習参加が決まった。


 参加して一定の条件を満たすことで進級できるらしいが、満たせないと学校に居られなくなるらしい。自主退学に追い込まれるということか。

 泊まり込む時点でスパルタ補習なのだろう。自分で蒔いた種とは言え「ついてねえな」という感想しか出てこない。


 足が重いが、遅刻したらまずい。春輝は速度を上げて集合時間の十分前に学校へ着いた。

 校門は閉まっていたが、表に立っていた体育の野田先生に告げると開けて通してくれた。入校リストに名前を書くとナンバーが貼られたスマートウォッチを渡された。


「これは補習期間中は必ず身に着けろと言うことだ。操作方法はこの機種名で検索すると出てくる。ま、そんなに難しくない」


 野田先生は慣れた口調で説明しているところ、かなり生徒が集まっているのだろう。よく見ると先生のがっしりした腕にもスマートウォッチが装着されていた。


「補習に体育もありましたっけ?」


 春輝が思わず口にすると先生も困った顔になった。


「実は俺にも支給された。補習自体には体育は無いが、泊まり込みだから警備要員か合間にレクレーションでもするのではないか? 俺がいなくても出来ると思うのだが、よくわからん」


 不可解ではあるが、本人もわからないのではどうしようもない。立ち話を切り上げ、指定された教室に入った。


 同じように集まった生徒はざっと見て十数人くらい。二年が六人いるが、本来ならいない三年生が一人いる。靴の色から三年生とわかるからだ。

 多分、卒業しそびれた者だろう。しかし、補習で卒業できるはずはない。


「私立だから力技で卒業扱いにするのか? でも、進路はどうなってるんだ?」


 春輝が思わず独り言をつぶやいだら、三年生らしき女生徒が答えた。


「私、進路なんて決まってないわよ。もう留年確実だから、二学期くらいには中退を考えてたし、その後は適当にバイトするつもりだった。

 あ、私は二木というの。よろしくね。

 この補習をクリアしたら付属大学に進学させてくれるって言うから参加したの。皆には留年しそうだったとバレるけど、高校中退のフリーターよりはいいもの」


 そういうことか。ならば理屈は通る。


 そうして同学年の一年がいないか見渡すと赤点仲間の拓真を見つけた。他にも和奏と勇斗、慈音がいる。四人は春輝を見つけると手を振って挨拶してきた。


「よお、春輝。お前も補習参加か。ま、予想ついてたが」


 相変わらず拓真は毒舌というか、ストレートな物言いをする。あまりにも真っ正直だから憎めないが。


「ああ、ご期待に応えて参加さ。でも、スマートウォッチ支給って変わってるな。門にいた野田も着けて参加だと言ってたけど理由がわからないらしい。泊まり込み補習だから脱走防止要員かもしれんが、なんか変だよな」


 春樹は疑問を口にするが拓真は気にしていない様子だった。


「俺はなんだっていいさ。進級できるならさ。今回のでさすがに親に泣かれてさ。罪悪感もあるから真面目に勉強するよ。しかし、脱走ってそんなスパルタ教育してないだろ、ここ」


「うちもそう思う。進学校って訳でもないし」


 和奏はいつもマイペースだ。今回も進級がかかった補習なのに危機感ゼロの口調で話している。


「わからないわよ」


 さっきの三年生、二木が加わってきた。


「あ、私は二木。本当は卒業生だけど、単位が足りなくて卒業できないから参加したの。

 私は進学が目的だから、高校はいいけどさ。この学校、レベルアップというか偏差値を上げて進学校へシフトチェンジ狙ってるらしいわよ。噂では再来年くらいにうちの系列の芸武げいぶ高校と統合するらしいから。あっちは進学校だし」


「つまり、それに備えてスパルタ補習して偏差値を少しでも上げるのか、うへえ」


 春輝がボヤくと拓真が納得した表情で頷いた。


「ならば寮に泊まり込み、外出禁止も頷けるな。

 でも、それならスマートウォッチはおかしくないか? スマホ禁止ならともかくさ」


「それもそうだよな。健康管理かな?」


 六人でああでもないこうでもないと推測しているとチャイムが鳴った。春休みでもこれは鳴るらしい。


「とりあえず、席に着いておこうか。どこで評価されるかわからないからな」


 春輝がそう言って席に戻るとそれぞれの仮の席に戻っていった。


 最初は寮での過ごし方やルールの説明だろうか? ならば学年をまとめて一つの教室にしているのもわかる。


 スマートウォッチの支給は意味が分からないが、オリエンテーションで說明があるだろう。


 先程のチャイムから五分して本鈴が鳴り、スピーカーから音声が流れてきた。


 その内容は春輝達の予想をいろいろと超えるものであった。


 現在の生存者数 生徒十ニ名。

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