第28話 ドールハウス・その②

「多々良、服売ってるわよ」

「ほんまやぁ~、お人形さんの服らしくて雑やなぁ~」


 そう、私達が開いた部屋はお洒落なアパレルショップだった。そこには、多々良が好きそうな少女趣味の服を身に纏った雌ガキが無理矢理作らされたであろうひきつった笑顔で私達を出迎えた。


「イラッシャイマセ カワイイ オキャクサマ ステキナ オヨウフク ゼヒ シチャクシテ」


 アリサの前にやってくる店員役の少女の頭にはワイヤーのような物が当然繋がっている。身体は自分の自由に動かないのだろう。この少女も当然の如く、排泄物を漏らしている。それすら自分の意思で自由にならない・・・・・・胸クソ悪いわね。テロリストの性欲のはけ口として使われていた時でも、そのくらいの自由はあったわ。

 なら、これは何? 私はリコーダー入れの中に潜ませた鑢を使って彼女の頭につながっているワイヤーを切れるか試してみた。


 ギリギリ!


「いだぁああああああ! やめてぇえええええ!」


 耳や鼻から血を吹き出した。それに他の少女達は悲鳴を上げる。このワイヤーはどうやら脳に直接つながり、刺激を与えると恐ろしい激痛に見舞われるみたいね。そして、マナー違反を働いた私には・・・・・・


「小鳥ちゃん・・・・・・」


 このドールハウスの天井。真っ暗で何も見えないそこから、ワイヤーが生き物のように私に襲いかかる。身体をひねり、ワイヤーの直撃を回避。そして私は叫んだ。


「多々良ぁ! アリサをお願い」

「しゃーないなぁ、貸し一やでぇ、あと他のみんなも隠れな知らんでぇ」


 多々良、どさくさに紛れてアリサの身体に触れて興奮して、あとで苦言の一つでも・・・・・・まぁいいわ。アリサの純血さえ奪わなければ好きなだけしゃぶりなさい。

 さて、このワイヤーは私に誅を与えるまで止まりそうにない。

 もし、私じゃない誰かに直撃すれば・・・・・・どうなるのかしら?


 ギン! ギン!


 私の学校で手に入れられる程度の鑢の強度ではこのワイヤーをしのぎきるのは不可能かもしれないわね。削るはずの鑢が刃毀れを起こし始めてる。カンフー映画よろしくこのワイヤーを回避しきるのはもう一杯一杯ね。

 それじゃあ、だーれーにーしーよーおーかーな。


「きゃっ!」


 私はわざと躓き、大きくずっこけてみた。多々良に依頼しているからアリサは飛び込んでこない。でも・・・・・・私に憧れている雌ガキは沢山いるのよ。

 そしてこれを機に私のお気に入りになりたい子が必ず・・・・・・


 あっはっは! あーっはっは! ほんと、馬鹿ぁ! 馬鹿な雌ガキぃ! 気持ちいいくらいに馬鹿で命知らずねぇ!


「麻衣ちゃん!」


 私を起こして助けようとしてくれる雌ガキ、麻衣ちゃん。中の下、多々良なら犯し潰すくらいの事はするのかもしれないけれど、私には興味がない童顔の雌ガキ。

 高等部になってもこの類いの子はあまり変わらない。

 私の性欲のはけ口には永遠になりえない。


「大丈夫、小鳥ちゃん!」

「うん、ありがと」


 二人で隠れる。麻衣は私に優しい笑顔を見せる。私はそんな麻衣に頼り切った少し疲れた表情を作ってみせる。


「麻衣ちゃんの馬鹿! 危ないじゃない! どうするのよ!」


 これは、麻衣に聞かせているんじゃない。周囲の雌ガキに聞かせているのだ。私は麻衣を心配し怒っている。そう思わせればいい。これから起る事は私の仕業ではないと思わせるそういう伏線だ。


「あーしないと小鳥ちゃんが・・・・・・」

「馬鹿ね・・・・・・私より、私の大事な物がなくなったら私生きていけないわ」


 これは麻衣にしか聞かせない。麻衣は今、私という宝石を手に入れたと幸福感に包まれているだろう。


「私も小鳥ちゃんの事・・・・・・んっ」


 とりあえず口づけくらいはしてあげるわ。気持ちいいでしょ? 私に口内を犯される感覚は、命を払ってまで貰う程のご褒美ではないけれどね。


「麻衣ちゃん、お願いがあるの」

「何?」

「あのね?」

「うん・・・・・・」


 うっとりした表情、このまま犯してもらえるとでもこの頭の悪い雌ガキは思っているのかしら? 私は麻衣を突き飛ばした。

 ドン!


「とりあえず、身代わりになってね」

「えっ?」


 私に裏切られたとそう理解し、叫ぼうとした瞬間。

 ビンゴ! 

 ドビュ! っとそんな音と共に麻衣の頭から血が噴き出す。あのワイヤーが突き刺さったのだ。そしてワイヤーによって自由を奪われるまもない時間。麻衣は私に対する恨み辛みや、自我のある内に助けを求めたり、私の不利益な事を言う前に行う事。


「いやあぁあああああ! 麻衣ちゃあああん! なんでよぉ! なんで、犠牲になんてえええ!」


 とにかく大声で喚く、麻衣の言葉を打ち消すように、ブロードウェイの女優顔負けの演技で叫ぶ。

 叫ぶ。

 叫びちらかす。麻衣だけは私が叫んでいる事の意味合い。

 証拠隠滅を理解する。絶望的な表情の後に目からは光りが消え・・・・・・


「イラッシャイマセ カワイイ オキャクサマ」


 もう一人の雌ガキは・・・・・・あら生きてるわね。二人の雌ガキの店員は私達にダサい服の試着を勧めてくる。


「みんな、言われた通りに着ましょう・・・・・・麻衣ちゃんは・・・・・・身を挺して私を守ってくれたの・・・・・・麻衣ちゃんを助ける為には、まずこのドールハウスのクリアよ」


 助かるわけなんてないけれど、そう言ってやれば、雌ガキ達はやる気を取り戻す。ほんとに馬鹿で助かる。


「あん、あぁん! やめてぇ、小鳥ちゃんが、見てる・・・・・・やだぁ白雪ちゃん」


 多々良らぁあああ! あのクソゲスビッチがぁ!


「多々良、何やってるのかしら?」

「何って、アリサちゃんの介抱やんか! めっちゃ気持ちよさそうやで、ほらぁ」


 多々良の指にはねっとりとした糸を引くようなアリサの体液。それを見た瞬間、私は多々良にこう言った。


「貴女を殺すわ多々良」


 私は鑢を掴む。それに多々良は余裕の笑みで私にこう言った。


「まだ、処女奪ってへんやん。そんな怖い顔しいなや! 怖くて、怖くて、ウチも殺りたくなるやんか!」


 多々良は銃を抜いた。多々良も銃を持っている。これで私と多々良のパワーバランスは著しく変わった。

 でも。

 バン!

 ぐしゅ!


 私は多々良の後ろにいるワイヤーに繋がれた雌ガキを、多々良は私の後ろにいるワイヤーに繋がれた雌ガキの頭を撃ち抜く。

 試着といいながら、店員の真似事をした操り人形はここにいる雌ガキを壊しにきた。

 多分、頭のリミッターが外されたこの操り人形。力加減ができないのだろう。首をねじ切られた雌ガキと、肩を握りつぶされて声も上げられず泡を吹いて倒れる雌ガキ。

 ようやくこのイカれた”お泊まり会”が”お泊まり会”らしくなってきたじゃない。


「助かったわ多々良」

「ウチもや小鳥ちゃん、でもほんの少し、ウチを殺す事考えたやろ?」

「それは貴女もでしょ多々良」

「そんな事ないって、友情の印にこれやるやん!」


 ぽいと多々良は私に自作らしい銃を渡した。ほんとに、何を考えているのかしら? 多々良は、間違いなく片目を失った日を境に態度が変わっている。一体、貴女に何があったのかしら?

 銃という圧倒的な支配力を持った武器を私に譲るという事で友好と信頼を勝ち取りたいんだと思うけど、雑。

 前までの多々良はもっと思慮深く、キツネのようにねちねちとしつこかった。それが今は一つの信仰心の元に動いている愚かなテロリストのよう。


「マカロフよりも質の悪い銃ね。自作かしら?」

「そうや。ナダとでも名付けておくわ」


 ナダ・・・・・・何処の言葉か全く分らないけど、まぁいいわ。


「どうでもいいけど、ここの住人を殺した事で天上の誰かはお怒りみたいね。みんな! 扉に向かって走って! この部屋から逃げるわよ!」


 私のかけ声と共に走り出す雌ガキ達。頭上から大量にワイヤーが降り注ぐ。

 ズガンズガンズガン!

 多々良は大きなハンドガン。あれも自作? 推定45から50口径の銃を撃ってワイヤーをはじく。多々良は銃の量産に成功したわけね。なら少し任せたわよ。


「みんなどきなさい!」


 ダンダンダンダン!

 多々良に渡されたハンドガンを乱射しながら、私は鍵の閉まった扉を思いっきり蹴り飛ばした。


「開いた。行きなさい!」


 多々良は一人の少女を守りながら頭上に銃を撃っている? なわけないわよね。


「ありがとうな! 人間の盾になってくれて」

「えっ? 多々良さ・・・・・・」


 目を覆いたくなる。頭に大量のワイヤーが刺さった雌ガキ。脳を無理矢理色んな方面に犯されて、にやけ顔のまま雌ガキは絶命した。


「うっはー! このワイヤー、絶対欲しいな!」


 私も多々良と同意見だけれど、このワイヤー、本当になに? 医療器具? 人間の支配が出来るなら、この”お泊まり会”意味をなさなくないかしら?

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