第26話 最後は温泉でサービス回

 最後の地獄、それは拍子抜けだった。それは……


「温泉?」


 ツーンとした臭いがしたような気がした。でも何かの勘違いかしら?

 そう、私達の前に広がるのは露天風呂。これが最後の地獄だと言うのか?

 9人。半分以上減ってしまったこの状況で何が起きてもおかしくはない。


”ぱんぱかぱーん! おめでとう! ここが最後の地獄めぐり、意識が無くなるまで楽しんで行ってね! 新しい、”お泊り会”は嬉しい事も沢山あるんだよ! あるんだね! ここまで残ったお友達は、明日の朝。お小遣いがたぁーっぷりあるから期待してね! じゃあ、次のお泊り会までばいばーい!”


 本当に人の神経を逆なでるのが上手いこの放送主。いつか見つけ出して、当然報いは受けてもらう。ここまで来てさすがの私でも分かる。

”お泊り会”は一種の競馬ね。興行主が何処にいるのかは分からないけれど、ほぼ間違いなく、なんらかの賭けの対象になってなければ、毎回翌朝のお小遣いの説明ができない。普段でも一般的な給料近い支払がなされているのに、今回は期待していいレベルだという。単純に死んだメスガキ達の分を分配しているだけかもしれないけれど……この学園がこれだけの金額を定期的に支払う理由はそうでしょう。


「気持ちいね小鳥」


 私の思考を強制停止するのはかりん。まだ小ぶりの胸を私に見せて誘惑してるつもり? もうあと何年かは必要ね。それよりも……


「そうね。穂乃花ちゃんもこっちで一緒にあったまりましょうよ」


 しゃぶりつくしたくなる身体をしているのはどちらかといえば穂乃花。見た目と態度に反してこの年で十分なケアをしているわね。なのに、少女。育てて、可愛がって可愛がって私の物にしましょう。


「あっ、ああ」

「どうしたの?」

「何かひょうしぬけしちゃってさ。次はどんな嫌な事があるのかなって思ってて」

「ふふっ、そうね私もそれは感じていたわ」


 ちゃぷちゃぷとお湯を楽しんでいる私達、どのタイミングでハロタンガスを流してくるのか知らないけど・・・・・・


「これ、この状況で眠らされたら死ぬんじゃないかしら?」


 私の当然の一言、お風呂で眠って死ぬなんてニュースよく流れるものね。慌てて温泉から出るメスガキ達。


「ふふっ、あはは! 嘘よ嘘。冗談よ! 今までの”お泊まり会”の傾向から、そんな楽な死に方はさせてくれないわ。寒いでしょ? みんな戻りなさい」


 水着を着て温泉に浸かるというのはどうなんでしょうね。私の左にはかりん、そして右にはメア、少し離れたところで、私を挑発するようなワガママボディの穂乃花。中々に絶景じゃない。少し戯れましょうか・・・・・・


「かりん・・・・・・」

「小鳥、ダメ。みんな見てる」


 かりんの腰に触れる私を見てメアは甲高い声を上げる。


「あぁ~ん! 小鳥ちゃ、メアもメアもぉ~!」

「メア、馬鹿な子。いいわ、今日は気分がいい。可愛がってあげる」


 二人を同時に相手してると、穂乃花が恥ずかしそうに俯き、他のメスガキ達は羨ましそうに私を見つめる。私に石を投げた子達も可愛がってあげようかと思ったその時・・・・・・

 事態は急変した。


「おぅうえええええ!」

「げぇええええ!」


 何が起きたのか、私にも分らない。だけど私は叫んだ。


「かりん、穂乃花、メア、温泉から上がりなさい!」


 不思議な事に、血の池を渡った私達はなんともない。穂乃花は慌てて、嘔吐を繰り返すメスガキ達を助けようとする。


「かりん、メア。穂乃花を抑えなさい!」


 私はそう言って穂乃花を押し倒して押さえつけた。


「離せ! チェリッシュ! はなせよぅ! みんな、死んじゃうじゃないかぁ!」

「穂乃花、落ち着きなさい! 何が起きてるのか、私にも分らないの! これが第五の地獄だと言うなら、今冷静にならないと全滅よ!」


 この子は、何処までまっすぐで、馬鹿なのかしら。温泉の中で血の混じった吐瀉物を吐きながら、絶命していくメスガキ達。


「えっ、ええっ! なんか、メアも気持ち悪くなってきた」


 嘔吐くメア。私も先ほどから少し頭痛い。何かしらこれ・・・・・・これも知ってる。なんだった? 思い出せ。思い出さないと死ぬ。


「あぁ! なぁ~んだ。そうか、みんな、少し気分悪いかもしれないけど、そのまま我慢なさい。死なないわ」


 あのツーンとした臭い。マスタードガス系の嘔吐剤じゃない。よく、拷問に使われたわね。沢山胃の中に物があればあるほど辛いのよね。


「あの子達が飲んだドリンクがなんなのか調べる術はないけれど、感覚を敏感にするセックスドラッグか何かじゃないかしら? 多分、このドリンクを飲んでいない私達でも気分が悪くなるのに、その感度が数百倍になれば、多分もう助からないわ」


 私のその回答と共に、意識が薄れていく。ようやくこの異常に長く感じる”お泊まり会”が終わったのだ・・・・・・


「・・・・・・何?」


 薄れゆく意識の中で温泉で絶命したメスガキ達を回収していく何か・・・・・・よく見えない。あぁ、もう我慢できない。あぁ、でもこれだけは分ったわ。

 誰かが、絶命したメスガキ達を死姦してる。面白そうに雑に扱って・・・・・・・ほんと、クールで最高のクレイジーな世界ね。


 私が目覚めたのは暦が正しければ四日後。私が登校するや否や、教室に訪ねにきたアリサは泣いて私にしがみつく。


「アリサ、みんなが見てるわ。さぁ、涙をふいて、笑ってごらんなさい!」


 駄犬のフランが何度も自慰行為に使っている私のハンカチで涙を拭く様子は新しい扉を開きそうなプレイね。

 私の事を目の敵にしているローラはこれまた私が登校してきた事を悔しそうにしている。そして、かりん。


「小鳥、おっはよぉ! かーらーのぉ! 元気じゅうでーん!」


 アリサにみせつけるように私に抱きつくかりん。それにアリサは負けじと私をひっぱる。そんな姿を尊い物としてみるクラスのメスガキ達。

 私のいつもの日常が戻ってきたわけね。とりあえず多々良に今回の事は報告してあげましょう。お昼休憩の時に私は屋上へと向かう。

 そこには多々良かさくら、あるいは二人がいるんじゃないかとそう思っていた。そして、想像通り、多々良がフェンスにもたれて焼きそばパンをかじっていた。


「小鳥ちゃ~ん! 今回もなんとか生き残れたみたいやなぁ~。いやぁ、良かった良かった!」


 黒い眼帯をしている多々良。


「何それ、痛いファッションかしら?」

「これか~? みたいか? じゃあ、見せたろか、じゃーん!」


 多々良は眼帯を外してみせた。そこは空洞。多々良は私が”お泊まり会”に参加している間に、独眼に変わっていた。


「多々良、それはどういう事かしら? もしかして。貴女も”お泊まり会”?」

「う~ん、まぁそんなところやな」

「何か、新しい事が分ったの?」


 多々良は思わせぶりな間の後に、ポテトチップスを袋から出してさくさくと食べ始める。ポテトチップスに焼きそばパン。


「味音痴のイギリス人じゃあるまいし」

「いや、ウチ。昔はイギリスの出やってんで。ユーロ圏から出る出ーへん言うて揉めに揉めて、結局どうなるんか結末見る前にウチは今ここにおるけどな」

「道理で性癖が狂ってると思ってたわ」


 多々良が差し出すポテトチップスの袋から二枚ポテトチップスを取り出して食べる。この死ぬ程ジャンクな食べ物。たまに食べると美味しいのよね。


「多々良、これ飲むかしら?」


 私が見せたタッパーを見て、多々良は目の色を変える。そうこれは私がこの学園で取り寄せできる物。ジャパニーズライス。ミネラルウォーター、ドライイースト、米麹、そしてヨーグルトで作った。


「どぶろくやん! なんやねんこれ・・・・・・もしかして」

「私のお手製よ。目の痛みをだます程度にはなるでしょ」


 お玉を渡すと多々良はそれを美味しそうに飲む。そして目を瞑る。


「かぁああああ、きつい! そしてしみるわぁああ」

「でしょ? 今回のこれは初めてだったけど、随分うまく行ったわ」


 私もお玉ですくって飲む。うん、癖がつよく美味しいわ。これならコリアンのマッコリも作れるんじゃないかしら?

 アジア人なんてみんな黄色い猿だと思ってたけど、こと酒造りに関しては進歩した民族だと思うのよね。

 麦酒かサトウキビやトウモロコシの酒しか飲まない米国人もこればかりは脱帽よ。


「しっかし、小鳥ちゃん。このガキの身体で飲む酒。よく回って最高の気分やな」

「ふふっ、そうね。暴飲はできないけれど、これはこれで中々どうして悪くないわね。でも、たまに恋しくならない? キンキンに冷蔵庫で冷やした物をシャワーの後に出して、プシュっと」


 涎を垂らす多々良。本当に品のない子ね。でも、多々良も分るようね。


「わかるわぁ。ウチ、メスガキ犯し壊した後は、ロング缶で一杯やるんがいつものライフワークやってん。言われたらもう、頭の中そればっかりやぁ~」


 そうね・・・・・・

 私達は屋上で空に向かって叫ぶ。


「「ビール飲みたい!」」

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