第23話 一方、白雪ちゃんの災難

 さて、ウチは悪党やから、カンニングでもなんでもするんや。ウチの今回のカンニングは、当然、、”お泊り会”次はどんなえげつないもんが用意されとるかや、それが分かるのは担任が放課後に指示するくらいやからあらかじめ決まっとるハズや。

 そして、高等部の卒業制作っちゅー言葉。


 何処かにあるハズなんや。”お泊り会”のリストっちゅーのがな……今まで溜めた小遣いの大半を使って、ウチはこの前手に入れた銃の複製と弾丸の生産を開始しとる。飛躍的に生き残る事は可能や。

 目的なんてどうでもええねんけど、そらズルして勝てるならそれに越したことあらへんやろ?

 ウチは警備を落として、監視カメラの録画を止める。そして教員用職員室に忍び込んだ。


「そしてこれやぁ!」


 あの頭のイカれた女。さくらから買った。人間の手の皮で作った手袋。これでウチの指紋は採取されへん。家探しは盛大に早急にやな!

 雨亜と別れてからウチは一人でここに来た。ウチが取り付けた簡易監視カメラにもなんも写ってへん。即ちウチの独壇場や。

 次々に教員たちの引き出しを開けていくが異常なくらい綺麗で整った机群。


「なんや、ここ生活感感じへんな。モデルルームみたいや」


 教頭の席らしきそこでウチは一枚の紙を見つける。なんや、えらい質の悪そうな紙やな。 そこに書かれていた文字は意味不明やった。


『減刑子毒の取り扱いについて』


 これは面紙でしかない。本来は内容のある冊子かなんかが……


「あらぁ? こんな夜更けに、ネズミでも迷いこんだんでしょうかぁ~?」


 誰かきよった……うそやろっ。赤外線にもなんも反応してへん。ウチの持つスマホサイズのリモコンモニターには何も……何も……誰や、この際や殺るか?


「よいしょっ!よいしょ!」


 この深夜に職員室を片づけとるのは……たしか小鳥の教室の担任、ゆかり先生やな。なんやこの臭い。血が腐ったみたいな……


(やばい! 見つかった!)


 完全にゆかり先生と目があった。離れてはいるが、ウチをゆかり先生はみとる。なんやねんあの口。ガキの下手な化粧みたいに真っ赤に染めて……こいつ、さっきまで何喰ってたんや?


「気のせいですねぇ。良い子の皆さんがこんな所に忍び込むわけはないのですから」 


 気づかれてない? それとも見逃してくれたんか?

 カツカツカツとヒールの音を響かせて、ゆかり先生は去っていく。外からか鍵をかけられたけど、ウチは念入りにここの鍵も作っとる。中から普通に出て、外から同じように鍵閉めすれば……なんも収穫なかったけど、まぁええわ。まだチャンスはある。

 ガチャ。

 ウチが扉をあけたそこには……


「貴女は4組の、多々良さんねぇ」


 ゆかりが……幽鬼みたいな表情で立っとった。やばい、やばい。やばい。殺すか? いや、無理や。コイツの殺気半端やない。


「何を、していたのですか? ここは良い子のみんなは入ってはならない場所ですよ?」

「……いやぁ、なんか腹減ってもうてさ。食い物ないかな~って」


 ウチの強がりに対して、ゆかり先生はニッコリと笑う。


「そうでしたか! 先ほどまで、先生もお夜食食べてたんですよぉ! どうですご一緒に」

「え、遠慮しとくわ。ウチ、もう眠いし」

「そんな事いわずに、あっ! 見ますか? ごちそうですよぅ!」


 ゆかり先生がウチに見せた画像。それは……ウチの性奴隷。優、紬、千恵が無残に喰い散らかされた姿やった。


「あの子達、多々良ちゃーん、多々良さまーって最期まで泣きわめていたわよ? どう? お腹へってきた? どう? 私ね? またお腹がすいちゃったの。多々良ちゃんの綺麗なお目目を食べれたら、少しは我慢できるかもしれないの、だからはい」


 ゆかり先生はウチにフォークを渡した。これで、自分の目玉をえぐれと? ふざけんなや! このクソがぁ!


「死にさらせやぁ……あ?」


 銃を抜こうとしたウチの左手が変な方向に曲がる。続いて音がついてきた。バキって変なところから盛大に折れる骨。っぅうううう


「泣かないなんてえらいえらい! はい、身体中バキバキになるかぁ~、お目目をフォークで出すか、選ぼうか?」


 なんで……なんやこれ、ふざけ、ふざけんなやぁ……そんな目フォークで? ありえへんやろ……でもなんでウチはフォークを握ってるんやろな……そらアレや、こいつには逆立ちしても勝たれへん。こいつは、とびきりのろくでなしや。


「うあぁああああああ! 痛っでぇええ」


 グシュっと嫌な音と共にウチの左目は光を失う。ウチの眼球が刺さったフォークを差し出すとゆかり先生は「いただきまーす」と言ってうまそうにそれをしゃぶる。口の中でウチの眼球を弄びそして喉を鳴らすようにそれをごくんと飲み込む。


「保健室にいきましょ! 手当してあげる」


 あかん、あかん・・・・・・小鳥、雨亞・・・・・・こいつは・・・・・・あかん。

 ウチはなされるがままに包帯を巻かれ、腕を添え木され、錠剤を渡される。


「解熱剤よ。痛み止めにもなるけど、今日は多分辛いわねぇ」


 辛いどころちゃうわ。普通は死ぬはこんなん。そんな風に思っていたウチにゆかり先生は耳元でこうささやいた。


「眼球取り戻したい?」

「は? 何言うてんねん。あんたが今さっき喰ったやないか」

「できなくはないわよ。お小遣いが信じられない程あれば、お金はなんだってできるの、地獄の沙汰も金次第って言うでしょ?」


 嗚呼、聞いた事あるわ・・・・・・昔、ウチの国におる若いホームレスが仕事斡旋してもらえる言うてシティに連れて行かれて、両目と全臓器がない状態で捨てられた事件があったな。ギャングや戦争を生業にしてる連中は身体のパーツを失う事が多い。角膜移植やのーて眼球そのものを失う連中。現実に移植不可能と言われ取るけど・・・・・・ウチは知ってる。眼球移植が出来る事。そんでこないだ見たあれは・・・・・・


「お菓子工場か?」

「そう、お菓子工場ね。多々良ちゃん、先生は物わかりがいい子が大好きなのよ。先生の言うこと聞けるかしら?」


 はん、まっぴらごめんや。こんな頭イカれた女の手先になるなんて・・・・・・でもええわ。”お泊まり会”を生き抜く為ならウチはこの頭イカれた女の排泄物でも喜んで喰ったる。そして、いつかかならず殺して。手術して心臓動かして、また殺して、産れてきた事を後悔させたるわ。


「ええよ。先生、ウチいいこになるわぁ」

「そう! じゃあ、一つだけ、お利口さんの多々良ちゃんに先生なんでも答えてあげるわ。探していた事でも何でもいいわよ」


 さよか・・・・・・なら、ウチが聞きたい事は一つや。


「ゆかり先生、”お泊まり会”ってなんなん?」


 答えれるもんなら、答えてみぃ。ははっ・・・・・・やってもーたかもな。これウチ死ぬんちゃうか? 先ほどのまでの優しい顔で完全にフリーズしとる。


「そう、やっぱりそれが知りたいのね? いいわよ。先生、教えちゃおうかな」


 そう言って、ウチの耳元でゆかり先生は愛の言葉でも囁くように、”お泊まり会”について語った。


「は? 何言うてんねん・・・・・・」

「それが、事実よ。信じるも信じないも、ぜぇーんぶ貴女の自由」


 ちょっと待てや。

 頭がおいつかえへん。は? ”お泊まり会”ってそういうもんなんか? じゃあ、お小遣いって? ”お泊まり会”の正体は・・・・・・


「多々良ちゃんダメよ。考える事もダメ、悟られたら先生。多々良ちゃんを食用のお肉に変えないといけない。貴女はその事を知っていて知らないフリをなさい。それが多々良ちゃんの今回の職員室に不法侵入した罰よ。さぁ、帰っておやすみなさい」


 アカン、脳をかき回されるみたいな痛みが走る。そらそうやろ、眼球潰したんや。痛い、熱が急激にあがる・・・・・・自分の部屋まで持つんかいな・・・・・・


「さぁ、食事とお風呂の続きでも愉しもうかしら」


 ゆかり先生がそう言って職員室の戸締まりをした時、一人の高等部の女子生徒がゆかり先生に話しかける。


「相変わらず、酷い事が好きね。ゆかり先生」

「あらっ! フェリシアさん。こんな時間に貴女も不良ですか?」

「そんなわけないでしょ? 私の作る。最高の卒業制作の為よ。ちゃんと合宿申請はしているわ」


 そう言ってフェリシアが証明書を見せるので、ゆかり先生は優しそうにフェリシアを見つめる。


「貴女達が小等部だった頃を思い出しますね。もうこんなに立派になって」

「最近の小等部の生徒はどうなんです?」


 フェリシアは、ビデオカメラで周囲を撮影したり、尺度を測りながらゆかり先生に質問する。ゆかり先生は少し考えると微笑んだ。


「年々、幼い子が多い気がしますねぇ。貴女達が小等部の時は本当に手がつけられない子ばかりで困りましたよ。初の”お泊まり会”で、クラスメイトの大半を殺しちゃうようなめっ! なフェリシアさん達でしたからね」


 それを言われてフェリシアは赤面する。


「やめてくださいよ先生! あれは小さい頃だったから、恥ずかしい」

「照れちゃって、まだまだ私の中ではフェリシアさんも可愛い女の子です」

「もう・・・・・・先生ったら、喉かわいちゃったわ。ゆーき、ゆーき。お茶」


 フェリシアがそう言うと、中等部のボーイッシュな生徒が、執事の服を着てフェリシアの為に紅茶を用意する。


「フェリシアお姉様、今宵のお茶は・・・・・・何か?」


 少女にしておくのは惜しいくらいの綺麗で凜々しい少女をじっと見て、フェリシアはゆーきと呼んだ少女の首元に触れる。


「何これ?」


 震えるフェリシア、触れられたところをゆーきと呼ばれた少女は手鏡で見る。それは誰かにつけられたキスマーク。


「違います! フェリシアお姉様、私はフェリシアお姉様以外の・・・・・・」

「汚い・・・・・・いや、汚い子は嫌い。嫌いよ。気持ち悪い」


 すぷっ。

 フェリシアはスコーンにバターを塗る為のナイフでゆーきの首を刺した。それにゆーきは助けを求める。


「ゆかりせんせぇ・・・・・・」

「あら、殺しちゃうんですか? フェリシアさん」

「当たり前じゃない、気持ち悪いもの。だって、人の使った歯磨きを先生は使いますか? あぁ、気持ち悪いはやく捨てて、次のにしないと」


 フェリシアがナイフを抜くと血が勢いよく飛び散る。それを汚らわしそうによけるフェリシアとゆーきの血液で顔を洗うゆかり先生。


「ちょうど良い食べ頃のお肉ですね。では、フェリシアさんゆーき君私が頂いていいですか? 食べきれないので塩で絞めて漬けでも作ろうと思うのですけれど」

「どうぞご勝手に」

「では、遠慮無く」


 ゆかり先生は、鉈をスカートの中から取り出すと、まだ息のあるゆーきの四肢をもぎ、首に鉈を当ててから言う。


「綺麗に血抜きをして、骨までぜーんぶいただきますから、安心してください」


 すぱーん! ゆーきの首を落とし、そこから滴る血を花の蜜でも飲むようにゆかり先生は舐め、すすり、たまにあえぐ。自分の胸をまさぐり、興奮した様子。フェリシアは呆れながらこう言った。


「先生はいつもかわらない食いしん坊なんだから」


 やれやれと優しくゆかりを見つめ、作業を進めるフェリシア。

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