第21話 お待たせ、水着温泉回 ①針山

 病院での手厚い看病とリハビリのおかげで私も多々良もさくらも雨亞もカロンも完全な状態で退院というか、また服役生活のような学園に戻るわけだけど・・・・・・


「ほんと、貴女はしょうがない駄犬ね。フラン」

「小鳥しゃまぁ・・・・・・くださぁい・・・・・・フランにおしおきぃ」

「ダメよ。この臭いなんとかなさい。まるで獣の檻じゃない。私が入院している間、毎日ここでマスかいていたんでしょう? ほんと、馬鹿な子」


 私は、今だ私のベットでイキ狂っているフランの耳もとで「あとで愛し合いましょう。フラン、いつものお姉様」と一言魔法の言葉をかけると、フランはピンと立ち上がり優しい表情を向ける。


「じゃあちょっとお姉ちゃん、お掃除するから待っててね」


 私の平穏は戻ってきた。退院してきた生徒は原則として1週間は”お泊まり会”の参加はないらしい。その間に今後の対策ね。正直、この前の水族館はカロンがいなければ詰みだった。毒物系はカロンが得意だろうから、今度カロンの教室を訪ねてみればいいでしょう。

 そして、私はしまったと思った。退院四日目の放課後。私を含むクラスメイトの五人が”お泊まり会”の参加者として選ばれたのだ。


「小鳥・・・・・・」


 私の自称親友、かりん。べたべたと距離の近い彼女が心細そうに私を見るので、私は彼女の頭を撫でる。


「大丈夫よ。なんとかなるわ」


 今回のお題にもよるのだけれど・・・・・・いつもどおりハロタンのようなガスに包まれ意識が遠のいていく。目覚めた先・・・・・・


「これはまた・・・・・・」


 そこは更衣室だった。総勢二十人がそこで目覚め、そこにはご丁寧に名前の縫い付けられたダサい水着が用意されている。

 そして当然の如く流れる声を変えた音声。


『ぴーんぽーんぱーんぽーん! 良い子のみんな! 今日は良い子のみんなにご褒美! 題して、水着回あ~んど温泉回の”お泊まり会”地獄巡りを愉しんでもらいまーす!』


 ファック! どうせろくな事はないんだろうけど、私達がそれに逆らう事ができるわけもなく、皆水着に着替える。水着の上からヒップバックをつけるとその中にファンシーな縦笛入れといくつか役に立つかは分らない物を入れる。


「やーん! 小鳥ちゃん、ちょっとこの水着小さくない?」


 かりん、わりと育ってるじゃない。いいわよね? 少し味見しても


「水に濡れると伸びるからよ。ほらぁ手伝ってあげるから頑張りなさい」


 後ろからかりんの胸を揉みしだく。


「やぁ・・・・・・小鳥ちゃん、そこ違うぅ」

「そう? それともここかしら?」


 かりん。アリサとかりんは中学になったらどちらかとルームメイトになってフランの代わりをしてもらわないといけないわね。かりんの下半身が私に弄ばれウェットになってきた頃に、二度目の放送が流れた。


『良い子のみんなぁ~、お着替えは終わったみたいだねぇ! 今回は大ボーナス! 五つの地獄を巡ってお小遣いザクザクだよっ! それも、最初にドリンクチャンスがあるから、地獄回避も出来てとーっても楽しい、新基準の”お泊まり会”の実験だから、全員で沢山のお小遣いもらっちゃお!』


 以上、最高に殺したくなる放送でした。とでも言えばいいのかしら? 機械音と共に開かれる扉。ここで物怖じすれば死ぬ。私のあの頃の略奪者としての感がそう言っているもの。


「いくわよかりん」

「で、でも小鳥ちゃん」

「誰かが行かなきゃいけないでしょ?」


 私がかりんをつれて外に出る。最悪この時点で死を覚悟するような事があればかりんを殺せば良い。そして問題なければここにいるメスガキ達の半数以上は私に信頼を寄せる。二十人もいれば、私は二十回は死を回避できるわけだから一つの地獄とやらに対して、4人以下の犠牲者で済めばいいわけ。安心できる。

 地獄巡りとやらの最初は・・・・・・普通ね。

 針山地獄。164フィート程の長さの平均台。その下は高さ80フィート程で、鋭い針がこちらを狙っている。良い感じの高さで、下手すれば死ねない。ほんと、この”お泊まり会”を考える奴の頭を覗いてみたいものだわ。


「小鳥ちゃん、あれは?」

「ん? あぁ、これがドリンクチャンスね」


”このドリンクを一気飲みできたら、針山地獄をクリアできるよ! 飲めた人はその場で待っていてね”


 そう書かれている。私は平均台をさわりに行く。普通の平均台だ。あんな謎のドリンクを飲むくらいならこれをそのまま渡った方がいいわね。


「かりん、平均台は得意?」

「得意っていうか、落ちないとは思うけど・・・・・・怖いよ」

「私の後ろをついてらっしゃい。いいわね」

「うん・・・・・・」


 ゆっくりと、ゆっくりと私達は渡る。それに続く者。渡れずにいる者。ドリンクを飲もうか考える者。この三パターンに分かれた。この地獄とやらはあと4つ続くからかもしれないけど、これは渡るが正解だ。恐ろしく滅茶苦茶簡単なルート。見た目の派手さに足がすくむかもしれないが、風もない室内の平均台。普通に進めば、ほら。


「とーちゃく!」

「わわっ、小鳥ちゃん」


 私は抱きかかえ、かりんのメスガキ特有の甘い香りをかぐ、私達に続いた他少女達もぞくぞくとクリアし、皆ハイタッチ。


「ったくやべーな。みんなぁ~! この平均台案外簡単だからそんな変な飲み物飲むんじゃねぇ!」


 あら? わりと可愛らしいメスガキね。この学園では珍しい不良少女? ピンクのエクステを入れた金髪少女。不良というよりギャルかしら? 案外優しい子みたいで、私と目が合った時も人懐っこい笑みをみせる。確かに、このメスガキの言うとおりね。

 私達も彼女に合わせて声を出す。立ち往生していた少女達はそれに発破をかけられて次々に平均台に挑む。成功・18人の少女達がクリアしているこの状況。


「貴女達! そんな物飲まないで、怖がらずに平均台を渡りなさい!」


 私の言葉を聞いて、人懐っこく笑うギャルメスガキは自己紹介する。


「私は吉田穂乃花よしだほのか、お前すっげー、良い奴じゃん」

「私は小鳥。小鳥・チェリッシュ・イレブンよ」

「へぇ、可愛いじゃん。よろしくな! チェリッシュ」


 そっちで呼ぶのね。まぁいいわ。今回、知り合いがいなさすぎて、生存ルートを確保するのを考えるのが手間だったけれど、この子と一緒に行動するのが現時点ではベストでしょうね。


「ういちゃん、みんな平均台進んでっていってるよ? いこう?」

「メア、私が高いところ苦手なのしってるでしょ? メアはついてきてくれるよね?」

「・・・・・・うん」


 そんな会話をしながら、二人は赤い液体の入ったドリンクに口をつけた。


「辛っ!」


 二人は当然にして嘔吐。もちろん、それはドリンクチャレンジの失敗を意味する。


”ドリンクチャレンジ、しっぱーーーい! 失敗した良い子の二人しかいないから、平均台の難易度をぱわー。あーーっぷ! 頑張って渡ろうね! ちなみに五分以内に平均台に向かわないと・・・・・・強制的に針山に落ちちゃうから気をつけてね!”


 上から平均台に向けて、グリスなのか、ローションなのかがたっぷりと注がれる。べたべたのその平均台を渡りきるなんて・・・・・・やるならゆっくりじゃなく、一発勝負で走りきらないと不可能でしょうね。そして、二人が立っている場所の傾斜が段々と上がっていく。足下からもローションが・・・・・・


「いこう、ういちゃん」

「そ、そうね」


 二人は手を繋いでおそるおそる平均台に乗る。そして一歩、二歩と進んだ時点であたりまえのように足を滑らせる。

「メアっ!」


 二人は手を繋ぐ。平均台の上で繋ぐ手が離されたら、二人とも針山に・・・・・・私の平均四人以下のクリアには支障が出ないし、もうこれは二人とも助からない。

 ローションでべたべたに濡れたメスガキ達。写真機でもあればこれを撮影して多々良に売りつける事が出来たかもしれないわね。

 この状況から生き残る事なんてもうできない。力尽きるまであと数分ってところかしら?


「メア・・・・・・ごめんね。私があんなの飲もうなんて言ったから」


 ほんとにね。死ぬまでわがままを言って死ぬなんて、完全地獄行きかしら? つきあわされた側からすれば本当に最悪の極みね。でもメアって子も馬鹿ね。生きるか死ぬかという状況でその決断を他者に委ねたのだから。

 私の後ろでは頑張れー、頑張れーと声を合わせて叫ぶメスガキ達。

 何を頑張るのよ? これからの事を考えれば貴女達が頑張りなさい。


「ういちゃん・・・・・・メアね?」


 最後の言葉? 大好きだったとでも言うのかしら?


「なぁに、メア?」

「メア・・・・・・ほんと、うぃちゃんみたいな馬鹿な子をお世話する事で良い子ぶれたんだけど、さすがに最悪だったよ。だから、最後くらいメアの役にたってね?」


 ザク!

 メアはいつのまにか手に釵をくくりつけていた。それを平均台に突き刺してバランスを保つと、その釵を引き抜いて、あーそういう事ね。

 手を繋いでいるういというメスガキの手のひらを突き刺した。


「いたあぁあああああ! メア? メアぁあああ」

「よいしょっと・・・・・・ありがとういちゃん」


 平均台の上に舞い戻ってきたメア。


「痛い・・・・・・痛いけど・・・・・・そっか、それで助かるのね? メア、ありがと」

「は? 何言ってんの? ういちゃんはここでゲームオーバだよ。メアがこの釵ちゃん抜いたらばいばいだよ? それともメアに何か言いたいことある? あるよね?」


 手のひらを突き刺された激痛で泣きながらういはメアに謝罪を繰り返した。今までの自分の行いそれら全てにメアに命乞いをした。


「きゃははははは! ウザっ! ういちゃん、ウザいよっ! メアほんと気分悪かったんだからね。ウザいういちゃんの為に一杯我慢したんだから」

「もう、絶対迷惑かけないから助けて、助けてください!」

「いいよ! メアもいじわるしてごめんね。手引き上げてあげるね」

「メア・・・・・・ありがとう」


 メアは腰からもう一本釵を取り出すと、息を吸って吐くくらい自然な動きで、ういの手首を切った。


「えっ?」


 メアは釵に突き刺さった手のひらを落ち行くういに見せてこういった。


「キモっ、ほんとに助かるとか思ったんだ? あと、やっぱりこれもいーらない」


 嫌な音だった。

 ズンという鈍い音。そしてやはり即死できなかったんだろう。少女とは思えない、いや産れたばかりの赤子の泣き声のような、いややはり化物の慟哭のような叫びがしばらく続いた。


「うわぁ~ういちゃんきもーい! 死んでるのに、脊髄反射でぴくぴくしてるぅ~! 死んでもウザいとか、逆に尊敬しちゃうよ!」


 メアは信じられない身のこなしで、ローションで滑る平均台をものともせずに戻ってきた。


「皆さん、お時間頂いてごめんなさいです! さぁ、張り切って次ぎいきましょう!」


 メア、ダークホースね。私や多々良と同じような子かしら? とりあえず警戒しつつ、今は気にしない。

 次の扉を開いた先は雲梯。そして妙な臭いがする。吐き気を催す汚水の臭い。


”第一の地獄クリアおめでとうぅ! 良い子のみんな、次は糞尿地獄だよ! 雲梯から落ちても死なないけど、下には目には見えない食いしん坊。ピブリオバルフィニカスちゃんが沢山いるから気をつけてね! あと、落ちてしまった時の為に、沢山ワニさんに泳いでもらっているから、ワニさんの生態観察もできるようになってるよ! 今回もドリンクちゃーんす! 失敗したらもちろん罰ゲームつきだけど、この地獄は危ないよ! ”


 針山地獄には正直安堵してたけど、今回のこれは”お泊まり会”らしいわね。一応かりんに聞いておく。


「かりん、雲梯は得意?」

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