第10話 鬼さぁんこちら、巻餌のほぉへ!
「小鳥ちゃん、どないするん? 一目散にこっち来よるで」
「逃げるに決まってるじゃない。あんな怪物に私達が腕力で勝てるとでも思ってるの?」
「違いないな。じゃあ、いこか?」
「えぇ」
パニックに陥る少女達を尻目に私と多々良はホールから出て行く。それを見た少女達が慌ててついて行く。
「まって! 私も」
「私も!」
私も、私も連れて行って、そう口々に言う少女達。多々良は悔しそうな顔をしている事から、惜しいと思っているんだろう。ここにいる少女達の大半を味わう事もできずにあの怪物に捕食されるかもしれないのだ。
「あきらめる事も大事よ多々良」
「・・・・・・分かっとる。でも、ホンマ腹立つなぁ」
心からイライラしている多々良に声をかける少女がいた。
「多々良さん、私」
「あ? えっと・・・・・・誰やったっけ、雛やったっけ?」
「うん、雛。近藤雛」
その雛という少女は多々良といくらか話して打ち解けるようにこの状況で笑顔すらみせていた。多々良としても一人くらいはと思っているでしょうし、私は聞いてみる事にした。
「多々良、この子にするの?」
「せやな、可愛いし、美味しそうやしええやろ」
そう言って多々良は雛を自分に寄せるとその身体をやらしい手つきで触る。それにくすぐったそうに笑う雛。
「多々良さん、くすぐったいよぉ!」
「すぐよくなるって!」
そんな仲睦まじい二人を見て、ぞろぞろとついてくる少女達は多々良に聞く。
「こんな時に馬鹿じゃないの! みんなで協力して、あいつどうにかしないと、みんな食べられちゃうよ」
健康的な小麦色の肌の少女は、この状況で冷静さをなんとか保とうと多々良を叱咤した。それに多々良は嬉しそうに笑う。
「かわえぇ子やな。ええ考えや、冷静になる。せやな。じゃあウチ、冷静にあの化物の様子見に行くわ」
は? 多々良何言ってるのかしら・・・・・・単身であんな怪物の前に・・・・・・とか思えればいいんだけど、多々良は餌付けに行くのだろう。ライオンや虎の檻に人が入ると捕食される。が、餌を食べ終わり満腹のそれらはあまり興味を示さない。
「みんなで協力して誰一人として欠ける事なく、生き延びよ! だから、足に自信のある子、ウチと一緒に来て」
誰も手を上げる少女はいない。が、それに苦笑して多々良は「じゃあウチ一人で行くわ」と捨て台詞を吐いてその場から去ろうとする時、一人の少女が名乗りをあげた。
「私が一緒に行くよ! 多々良さん、一人で私達を守ろうとしてくれてるんだよ!」
馬鹿な子ね。すると、私も! 私もと手を上げる少女達。それに多々良は毅然とした態度から本心が漏れたように泣いたフリ、涙を見せる。
「みんな、ありがとう」
それから、多々良は足の速さなどを適当に聞いた上で、自分の眼鏡に叶わなかった少女を連れて部屋を出る。私に多々良の大事な道具の入った鞄を預けて
「絶対にウチ等が帰ってくるまで扉開けたらあかんで、あと小鳥ちゃん。アルミホイルで工作しといてや」
そう言った多々良は二十分後に、青い顔をして戻ってくる。
ここからは私の想像でしかないけれど、だいたいあの多々良の行動をしたらこうだったのだろう。
小鳥ちゃんには筒抜けやろうなぁ。ウチが何しにこんな危険な場所に来たのか・・・・・・
「ホールにはまだ何もおらへんな」
「・・・・・・多々良ちゃん、私怖い」
何ビビってんねん。鹿かて猛獣に喰われる際は喜んで死んでいくんや。しゃーないな。死の恐怖を書き換える。性の快感。
ウチは、このついてきた名前もしらへん少女の膨らみかけの胸に触れながらその唇を幼い求め方で吸った。
「多々良ちゃん?」
「ウチな? 一目見た時から、可愛いなぁって思ったん。名前教えてぇな」
「
「つかさかぁ、なぁ二人っきりやし、もう少しえぇ?」
ぴっちゃぴちゃと音を立てながら、ウェットになっていく良の下半身にウチは触れてから、匂った。生臭い、獣の臭いや。
「良ちゃん、ちょっと先進んでみよか?」
「えっ?」
「ウチも怖い。せやけど、良ちゃんと一緒なら、頑張れる」
「・・・・・・うん、私も」
アホやぁ! ほんまぁちょろぉ。じゃあ鬼さん見物にいこか。でも、ホールから向こうはほんまに何が待ってるから分からへん。扉の奥、気配あらへん。クリアや。
ガチャリと開いた先、そこは異様な臭いがただよってた。
「何、この臭い・・・・・・」
「さぁ、なんやろな」
くっさ、あの怪物。アホみたいにせんずりこきよったな。そこら中に散見される怪物の体液。昔、睡眠欲を人間から奪う実権をした。
すると食欲と性欲に全フリした人間はどうなったか、その二つの欲求だけで満たそうとして、いずれ自壊して死んでいったわけやけど、この邦彦君は、そうやないんやなぁ。
「なぁ? 邦彦くん」
どうやったらこんな風な風貌の人間ができあがるんかは分からへんけど、確実にプリオン病系の症状が出とる。
「う゛ぁあああああああ!」
「くるで、良ちゃん! 走って」
アル中みたいに震えとる。のに、なんやこの動きと速さ! 巨漢。異常に発達した脂肪と黒色表皮の症状が出ている邦彦君やけど、並の成人男性より速い。
「おがぁああ、あばぁあああ!」
プリオン病の第二ステージにさしかかりつつある言語障害。されど、異常なまでの食欲。多分、この邦彦君は、ウチがメスガキを可愛がる時のあの声に病みつきになったんやろうな。ウチとの違いは、捕食するという事。犯される恐怖ではなく、食人により殺される恐怖で泣き叫ぶ声の虜になったんやろ。
ほんまに腹立つわ・・・・・・同じ食べるでもウチのは何回でもできるやろ! 汚い物おっ立てて、使いもせーへんそんなもんで・・・・・・
「おぉーにさぁーんこちら、手の鳴るほぉえ!」
ウチの声を聞いて、邦彦君はゆらりとウチ。そして良を見る。そして、邦彦君はウチみたいなダウナー系美少女やなくて、もっさい良に狙いを定めた。
「何! なんでぇ!」
「逃げるでぇ! 良ちゃん、ごめん。良ちゃん可愛いからなぁ」
可愛い。メスガキに使う最強の褒め言葉や。人間、自分の見た目をはっきりと認識してる奴はあんまりおらへん。自分の声をはっきり認識しとる奴がおらんのと一緒やな。それらは周囲の評価や。
ウチみたいな美少女が可愛いと、邦彦君の眼鏡にウチやのぉーて良が叶ったという事に優越感にこの状況で浸る良。
ほんまの事、教えたろか? ウチとさっきエロい事して下の口濡らしとるメスの臭いぷんぷんさせとるから、本能的に邦彦君の捕食対象になったんやぁ。
「こっちや! 化物っ!」
カッターナイフを投げつけてみる。突き刺さり、やや弱めの反応をしてる。痛覚が薄れとるんか、邦彦君はわけわからんうめき声あげて追ってくる。
「ホゲェアアアアア! フン、うんぅうんん!」
何が言いたいねん、このアホは、じゃあ時間稼ぎする為に少しだけ頑張ろか。ウチと良は来た道を走る。そこでウチはUターンや。
「えっ? 多々良ちゃん!」
「良ちゃん、ウチ。こいつのやっつけ方わかってん! 一緒に来てくれる?」
「・・・・・・うん!」
ほんま、アホや。
ウチ等は邦彦君の元に向かい。邦彦君がウチ等を捕まえようとした瞬間。邦彦君の股の間を抜けて、さらに奥に、邦彦君が出てきたあのスタート地点まで走る。
「おぼぉおおぼぉおおお!」
ついてくる邦彦君。邦彦君。ちゃんと喋れるんやん。人語やねいけどな。アホな良ちゃんにアホな邦彦君。お似合いや。
元々邦彦君が出てきたスタート地点、ここもくっさいなぁ。
「多々良ちゃん、どうやってやっつけるの?」
「まだや。もっとギリギリまで近づかせるんや!」
うぅううぅうと唸りながら、くっさい息と体臭漂わせながら、言葉通り獣がやってきた。
「ねぇ、くるよ! 多々良さん」
「せやな、良ちゃん」
「んっ」
ぺろぺろと良の唇を吸う。この状況で良を最高の食材にする為に邦彦君との距離は10メートル。8、6、来た!
ウチは良の膝を斜めにおもっいっきり踏み折った。
バキっと嫌な音と共に「いやぁあああああ!」という気持ちいい声。そしてウチは痛がる良を元々、邦彦君がおった檻の中に放り込む。
「なんで? 多々良さん・・・・・・」
「ごめんなぁ、良ちゃん。邦彦君の餌になったって、ウチ。他に可愛い女の子達守らなあかんから」
「・・・・・・ヤダ、いやぁっ! お願い多々良さん助けてぇ!」
「うっさいな。おいしく喰われぇや。ほな、ばいなら!」
ウチは飛び込んでくるような邦彦君をすり抜ける。邦彦君は、元々の檻の中に入っていく。多分、邦彦君はほんまに猛獣なんやろうな。熊でもなんでも、一度人間の味を知ったらもう戻られへん。
少女の味を知った邦彦君。良を生きたまま捕食する。邦彦君からすれば捕食するという事こそが最高の陵辱なんやろう。
「いやあぁああああああ、いだぁああああああ、やめでぇええええ!」
やばっ! なんなんこれ、そんなに気持ちええ声だすんや。録音機持ってきて録音しとけば良かったわぁ。良ちゃん食べ終わるまで、少なくとも1時間以上はかかるやろ。同じ事何回も繰り返せば”お泊まり会”は終わりや。
せやけどさぁ・・・・・・せやけど。
「一人で総食いは、ずるいよなぁ。邦彦君、食べる喜びは知ってても食べられる喜びと恐怖は知らんやろ」
今だ慟哭みたいに響く良の声。ええで、できる限り死なんと邦彦君愉しましたり、邦彦君にとって、今晩の食事は最後の晩餐やねんからな。
骨が折れる音、多分、このやばい音は無理矢理股裂いた音やな。これで死ねたらええんやろうけど、死ねへんかったら地獄やな。
ウチはゆっくりと皆が待つ場所に戻っていく。
何か使えるもんはと思ったけど、なんもないな。ヨモギ煙草を咥えながら。少し深呼吸。
ウチ、今興奮して多分。笑っとるわ。
ちょっと、悲しそうな顔。恐怖に慄く顔をして・・・・・・みんなの不安を煽るウチを演出して・・・・・・
「あけて、ウチや! あいつは化け物や! はよぅ、ここあけてぇ!」
良がウチを守って化けもんに捕まった事。小鳥に抱きついて泣くウチ。さぁ、第二ラウンドの開始やで、餌はまだまだあるんや。もう一人くらい巻餌にするか、それとも本命をぶち込むか、小鳥と相談やな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます