第8話 女の子だらけの調理実習

「お姉さま、本日は休みじゃなかったのかしら?」

「小鳥さ・・・・・・」

お姉さま」


 私がそう言うと、フランチェスカは建前上のフランチェスカお姉さま、いやさらに警戒している表情でこう言った。


「小鳥ちゃん、お姉ちゃんの言う事をしっかりと聞いてね」

「当然じゃない!」


 私達以外にも集められている少女達は五組。私達の首には首輪が取り付けられており、それは外れない。さて、これは何か、フランチェスカや他の少女達に取り付けされている物を見るに多分、首が吹っ飛ぶ程度には威力のある爆弾か何かなんだろう。そういえば、昔その辺にいるテロリスを捕まえて爆弾を体中に貼り付けさせて、的当ての玩具にした事を何故か思い出す。

 私達がいる場所は何処かの調理室。


「家庭科室ではないわね。こんなところ、あの学園にあったかしら?」


 これは間違いなく”お泊り会”だろう。休み前にはゆかり先生は何も言っていないから、二日間はないと緩みきっていた。私の考えが予想通りならこれはルームメイトがチームという事なんじゃないだろうか?

 知っている顔がいくつか見える。

 それは多々良白雪とその姉役の少女。この状況だというのに、白雪の姉役は白雪の髪を触り整えている。

 呑気なものね。

 そしてあの全校生徒から人気の高い雨亜だったか? あのお人よしで”お泊り会”を生き残れるのか? 中等部はルームメイトが唯一クラスメイトや同い年になる学年だと聞いている。一緒にいる少女は雨亜の腕に自分の手を絡めて彼女面。

 実に反吐がでるな。


 そして……高等部ナンバー1の人気美少女。フェリシア・ニルギルス。そしてその妹役として同室している初等部の王子役あかり。そういえば、まだあの時の仕返しをしていなかったか……どうせならフェリシアにベットで謝罪をしてもらいたいものだ。

 あと一組はこれまた公然の面前を気にせずにいちゃつく高等部の姉と初等部の妹。

 どちらも私の記憶にない事から、興味の範囲外なんだろう。


”あーてすてす! マイクのテスト! 本日はお日柄もよくというマイクテストだけど、これは英語のマイクテストを直訳したらしいよ! そんな事より、抜き打ちお泊り会。はーじまーるよー! 今日は調理実習”


 最初から嫌な予感しかしないわね。

 ドラッグカクテルでも飲まされるのか、それともスカプレイ……まぁそれはフランチェスカにやらせればいいか……逆に人食程度はここでは平気で行われているだろうし……生前私はそれで飢えをしのいだ事もある。十戒どころか、百戒くらいは私は破っているから何が来ても怖れる事はない。


”ルーレットで食材をひいて、姉妹のどちらかが調理、そしてそれを食べれば今日は完了だよ。もし、食べられなかったら作った方と食べた方。どちらも首輪が吹っ飛ぶからね! 簡単だねぇ! もし、姉や妹がアクシデントで食べられなかった場合。他の班の人に食べてもらう事ができるけど、もし吐き出してしまったり、食べられなかった場合調理した側だけが首ちょんぱだから、安心だねぇ!”じゃあ時計回りに調理開始だよ”


 まともな物を食べさせるつもりないくせに。


「お姉さま、ルーレットお願いします」


 ヤバいものなら私が調理してフランに食べさせればいいだけだから何がきても安心ね。ルーレットを回すフラン。そしてルーレットが止まり、何かがころんと落ちる。そのカプセルを開けると鍵が出てきた。調理場に併設したロッカーを開ける鍵。皆の視線を集める中、フランがロッカーを開けると……


「これは!」


 バター、ホットケーキミックス、卵、ミルク。信じられない事にパンケーキのセットだった。それを私に見せるフラン。確かに本物のよう。小麦粉や牛乳、バターにクスリはまじっていない。なら作るのは面倒なので私が食べればいい。


「お姉さまのパンケーキ、とーっても美味しくて私、大好きなのっ!」


 さぁ、はやく作れ、そしてこの茶番から離席する。フランはいつも通り上手にパンケーキを焼くと私の元にもってくる。


「熱いうちに召し上がれ」


 うまっ! フランと同席している事で食欲と性欲が満たされる事だけは本当にありがたい。私は周囲の羨望の視線を感じながらパンケーキを食べ終わる。


「ごちそうさまでした」

「はい、小鳥ちゃん。お粗末様でした」


 私の口を噴きながら、フランは自分の下の口をウェットにさせている。ほんと、最高の素質と素材ね。


「次は、私達ね。白雪ちゃん回してみる?」

「うん、ウチまわしてみたい!」


 多々良が回したカプセルから出てきた鍵を持って多々良はロッカーを開ける。


「うっ! なにこの臭い……」


 悪臭。多々良は目の前でそれを見ても驚く事もなく、それを調理場まで持ってくる。元々野菜、肉、魚だったんだろうか? 腐っている。異様な悪臭を放つそれを見て、多々良の姉役が近づいてからこう言った。


「白雪ちゃん、どんな物でも私が食べるから、お料理してくれるかな?」


姉役の愛なんだろう。多々良は女子高生以上の女の子に興味がない。が、嫌いというわけでもないのかもしれない。自分が生存する為にどうやってこれらの腐った食材を調理するのか……大量の塩をそれら食材に振りかけると圧縮袋の中で念入りにもみこむ。そしてその水分を抜いて行く。さらに塩よりも水気を奪う砂糖による脱水。

 限界ギリギリまで腐敗した食材の脱水を行う。多々良、そしてそれを油で揚げた。素揚げ、その間に多々良は沸かした水に塩や胡椒、調味料の類を入れていく。揚がりきった腐った食材を細かくさらに刻み、調味料で味付けした水の中にそれらを入れる。水気が完全になくなりきるまで炒める。出来る限り、限界レベルまで腐敗で生まれた毒素を殺す。元の十分の一以下に凝縮され、さらにスナック菓子のようになったそれを塩や湖沼で味付けしたスープの中に浸す。それを持っていくと多々良は言った。


「お姉さま」


 恐る恐るスプーンですくってそれを食べる多々良の部屋の姉役。無言で食べ進め、あの腐った食材たちを食べきった。


「白雪ちゃんが作ってくれたからかな? とってもおいしかったよ」


 それを聞いて多々良は泣いたフリをして姉役に抱き着いた。まぁ、事実泣いているのかもしれない、そりゃ自分が生き残れたわけだ。

 だが、今回あまりにもぬるすぎる。

 次はどんな食材が出てくるのやら、やや呆れながらに見ていると高等部人気ナンバー1のフェリシアは優雅にルーレットを回す。そして出てきた鍵でロッカーを開ける。出てきた食材を見てフェリシアは言った。


「あかり、調理して頂戴」

「はい、お姉さま!」


 それは私のよく知る食材だった。戦闘糧食。所謂レーション。そしてあれは何度か食べた事がある。シンガポール軍のレーションだ。味は、可もなく不可もなくと言ったところだったか? それをたださらに盛るだけ、フェリシアはナプキンを首につけるとゆっくりとそれを食べる。

 私だけじゃないだろう。これ料理じゃないとツッコミたい奴。ただ食材をそのまま食べているだけだ。時折、水を飲むフェリシア、本当にいい女だ。私の物にしたい。あかりはフェリシアの所有物といったところか? そしてそのフェリシアの視線の先……私じゃない……。雨亜を見つめている。

 成程、このフェリシア、極度の美少年好きなんだろう。この女学校には男はいない。だから、その代用品を見繕っているという事。レーションを全て食べきるとフェリシアは立ち上がる。


「明日は紅茶を用意しなさいあかり。こんなまずい物を私に食べさせて」

「はい、お姉さま」


 まともに食べられる私やフェリシアの班は大当たりと言ったところだろう。何故なら、雨亜の班がロッカーから取り出した物。それは虫かごの中に入った何匹もカサカサと蠢くコカローチーだった。あんなもの食べるくらいなら死ぬな。


「私が食べる、素揚げにでもしてくれ」


 雨亜はそう言ういうと目を瞑って椅子に座ってまっていた。悲鳴を上げながらも恐る恐る油の中にコカローチーを入れて揚げる雨亜のルームメイト。それをさらに持って雨亜の元に向かう。その様子にもう戻している少女もいるが……雨亜は箸で一匹ずつコカローリーをつまむと、そういう作業のようにそれらを食べ進めていく。


「あんがい美味い」


 マジか、こいつとは身体の関係を持つのをよそう。バリバリ、むしゃむしゃとしばらく咀嚼を続け、雨亜は何事もなかったかのようにコカローチーを食べ終え、こう言った。


「御馳走様でした」


 と……涼しい顔で席を立つ雨亜、いずれにしてもここまで四組。全員食べ終わった。五人目。最後の二人は姉役がルーレットを回す。そして出てくる鍵を持ってロッカーをあげた。


 おぎゃあああ!


 そんな泣き声が響く。これはこれは、面白すぎだろ! 最後の食材はコインロッカーベビーだそうだ。ここまでイカれているとなればもう尊敬に値する。コカローチを食べきった雨亜からすれば、赤子を食べる事くらい容易いだろうか?


「お姉さま、これ赤ちゃんだですよ……これは食べ物じゃない」


 お姉さまと言われた女子高生は幽鬼のような目で包丁を持つ。これは多分ダメなやつだな。


「食べないと、死んじゃうから、あーや。頑張って食べれるよね?」


 優しく言うが、今から人食をしろと言うのだ。それも赤子を喰えと、これほどまでに面白いショーもないだろう。まぁ私や白雪。もしかすると雨亞なら平気でこの赤子を捌いて食べるだろうが・・・・・・確かに普通の精神を持っていればきついだろうな。


「いや、お姉さま。こんな事して生きるくらいなら、あや、お姉さまと」


 パン



 お姉さまとやらはあやと名乗った少女の頬を打った。そして血走った目でこういった。



「なら、私が食べるから、あやが調理なさい。私はここまで生き残ってきたのよ! 高等部にまで上り詰めたの! あと、あと少しで卒業できるんだから、やりなさい!」



 あやは拒絶する。



「いや、私は食べない。殺したくない!」



 そしてお姉さまは言う事を聞かないあやの首を持っていた包丁で切り裂いた。何かを言おうとしたあやだが、ひゅーひゅーと空気の通る音と共にゆっくり絶命していく。

 お姉さまとやらはそのまま、ロッカーに入っていた食材。赤子に出刃包丁を突き立てる。一瞬泣くような動作をみせたが、すぐに動かなくなるその食材。それをさらに切り分けこちらを見るお姉さまとやら。この異常な状況に胃の中の物を戻すのは雨亜のルームメイトと白雪のお姉さま。

 人間である身体が分かる血だらけの活造りを持ってお姉さまとやらはわらった。



「お願い、誰か食べて……じゃないと、私」



 首輪の点滅。ルームメイト以外に食事をさせられるのは、不測の事態が起きた時だけだ。このお姉様とやらは自ら自分のルームメイトを殺害した。それは不足の事態じゃない。

 そして警告音を響かせながら殺した赤子を乗せた皿を持ったまま、お姉さまとやらは直立していた。

 思いのほか地味な破裂音と共に首だけを失い。

 マネキンのように狂気の料理を持った首なしのお姉さまを見てフェリシアは恍惚の表情を見せていた。

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