第5話 新たな住民はお姫様?

 俺は異世界に降り立つ、心の覚悟は決まった。

 データ入力の会社に辞表を突き出し、無職となった俺こと流川アダン。

 これから異世界と現実世界を行き来して金を儲けたいが、本当の目的は異世界でのんびりとスローライフを送る事。

 

 しばらくは村づくりに専念するので忙しそうだ。

 入口の神殿の周りを見るとまだまだ建物が少ない。

 あるのはゴブリンの簡易住宅が10軒とスライジさんの家が1軒あるだけだった。


 足元を見れば、犬のジローがいた。

 彼は俺がやってくるのを律儀に見守ってくれていたようだ。

 そういえば、現実世界の動物の餌を彼等に上げてみよう、きっと喜んでくれるだろう。


 次に持ってくるリストに記入しておく。


「ゴブリン達が畑仕事をがんばっています。ですけど作物の種を植えたほうがいいかと思います」


「そうだった。持ってくるだけ持ってきて植えてなかったな」


 俺はてきぱきと畑のポイントに行くと、作物の種を植えた。

 最初はジャガイモだけで様子を見ようと思った。

 色々と種は持ってきたけど、ジャガイモが一番安全だろうと考える。


 他の作物だと色々と面倒くさそうだし、作物の知識はインターネット検索によるものだったからだ。


 ゴブリン10体に追加の団子を配るとおいしそうに食べていた。

 犬のジローと猫のキャットが物欲しそうにしていたので上げる事に。


 俺はその後リュックサックを背負ってスライジさんの家の錬金部屋へと向かった。

 スライジさんはスライムの体を使ってありとあらゆる道具を造ってしまう。

 スライムの体を冷やすと入れ物になって、それをちょん切ったり、見ている方としては恐ろしい光景なのだが。


「ああ、来てくれましたか、それが薬ですね?」


「はい、俺の世界では風邪薬とか胃薬とか整腸剤とかビタミン剤とかと呼ばれてますよ、あと、これも持ってきたんですが、肥料です」


「肥料ですか、それは、もしかして、作物の成長を促す? たい肥ではないんですね、えーと動物のフンみたいな」


「そういう物が入ってるのかもだけど、俺の世界ではこれで作物が急成長します」


「ほほーちょっと色々と検証してみたいですねーまず試しに胃薬を飲んでみます」


 スライジーさんはべとべとの姿のまま胃薬を飲み込んだ。

 すると驚くべき事が起きた。

 体の表面からスライム性質が無くなっていき、そこには絶世の美少女がいて、俺の心臓はどきんと脈打ち、次の瞬間にはスライムの体に戻っていた。


「なるほど、これは凄い、色々と配合すると、元の体に戻れるかもしれません、ぜひ、研究の材料に使わせてください、複合的に疫病に効く薬や色々なものが作れるかもしれません」


「はい、お願いします。ところでこの簡易住宅で研究は狭くありませんか? もっと大きい家を建ててもいいのですが」


「ぜひ、お願いします。時間があればいいですよ」


「そうしますね」


「大変だー人間が2人来たぞー」


 スライジーさんの簡易住宅の外からオウムのオージが叫んでいた。

 俺は慌てて外に出ると、村の入り口に向かった。

 そこにはぼろぼろになり果てた2人の男女がいた。

 1人はぼろぼろのドレスのような衣服を着用している女性だ。

 年齢は俺と同じくらいだが、見た目がお姫様みたいだった。

 隣には執事のようで、執事服がぼろぼろの白い髭を蓄えていた。


「面妖な、ゴブリンが畑仕事をしておるぞ、姫さま」


「し、信じられない、一体、ここは危険の大地、禁じられた大地とも呼ばれ、各地では呼び名が違うわ」


「すみません」


 すると執事らしき人が抜刀した。

 それは見るからに剣そのもの、そんなものでひと突きにされたら、さすがの俺も死ぬだろう。


「ちょっと待ってください、俺は何もしませんから」


「どうか、このお方を守ってくださらぬか、国は滅びども、姫としての血筋は、がはがは」


「じい、大丈夫ですか」


「どうしたんです? 俺にとって君達が高貴な存在だろうと関係ありません、はやくそこのお爺さんを」


「じいはルブフと呼ばれている。私はリュテル」


「とにかく早くこちらへ」

 

 俺はルブフ執事とリュテル姫を連れてスライジさんの所に移動した。

 まずルブフさんは怒声を張り上げて、スライジさんに襲い掛かったが、あっという間にスライジさんの縛り付けにあい動けなくされる。


「くそ、罠じゃったか」


「何を言っていますか、あなた疫病にかかってますよ」


「スライム化け物がしゃべりおったわ」


「お爺さんあまり騒がないでください」


「犬までしゃべりおった、どうやらわしは死ぬようじゃ」


「じい、彼等は敵ではありませんわ」


「まぁ落ち着いて」


 俺がそう言う。一応ルブフさんから剣を取り上げておく。

 ルブフさんはスライムの触手に縛り付けられており、動けない。


「ぐぬぬ」


「まずこれを飲め、お前は運がいい、アダンが持ってきてくれた薬に疫病に効くものがある。後、自己紹介をしよう、ぼくは錬金術師でスライムと融合してしまったスライジだ。訳あってアダンさんに助けられた。さて君達の番だが?」


「嘘だろ、体が軽くなって、凄くみなぎるぞい」


 ルブフさんはスライムの触手から解放されると。

 ゆっくりと立ち上がり近くの椅子に座った。


「このルブフは、とある国が滅びた時に姫様と逃げてきた。ここは禁じられた大地、各地で呼び名は違う。ここは非常に危険な土地とされる。なぜそんな所で、ゴブリンが畑仕事をしているのか謎なのだが」


「じい、まずは自己紹介です」


「すみません、姫様」


「私はリュテルと言います。とある国が滅びた時、命からがら逃げてきましたわ」


「俺は流川アダン、異世界から着たものだ」


「なんじゃとおおお、勇者様か」


「それではないと思います。力はほぼほぼありませんから、ただ。あるとしたら」


「あるとしたら?」


「圧倒的な物の財力です。異世界の物をこちらにこちらの物を異世界に運べるという事です」


「な、なんと」


「疫病の薬もアダンが持ってきたものから作ったものだよ」


 スライジさんがそう付け足す。


「それはそうであったか、この恩は返させていただきたい、何か望みはありませぬか」


「行くところが無いなら、この村で一緒に村から街へ街から国を造りませんか」


「ほむほむ、よかろう、楽しそうではないか、姫様はどうします?」


「そんなの決まってます。村から街へ街から国を造りましょう」


 俺は彼等が何が出来るか分からなかった。

 だから尋ねる事しか出来なかったのだが。


「わしは畑仕事と商売が得意じゃ、子供の頃からよくやっていた」


「商売ですか、畑仕事は畑が増えて大変になったらお願いします。商売は近くに何か種族がいて商売出来ればいいのですが」


「ほむ、確か、森の奥地にはエルフ族が、山の奥地にはドワーフ族がいると聞いた。川の奥地にはリザードマン族がいるとも聞いたぞ」


「まずそこに冒険したいですが、そうですね、俺も少し武装しますか」


「ほむ、お主武装出来るのか、見たところ、ただのおっさんだが」


「まぁ気にしないでください、さて、リュテルさんは何が得意です?」


「私は畑仕事と料理が得意です」


「そうなのじゃ、姫の料理はぴか一なのじゃ」


「ならリュテルさんも畑仕事が忙しい時にお願いします。基本は料理を作ってくれると助かります」


「任せてください」


「まずは、ルブフさんとリュテルさんの家とスライジさんの大きな家が必用と、ちょっと色々とやる事あるので、それまで2人は見物しててください」


「うむ、助かる」

「ありがとうございます」


 その後、俺はチェーンソーでばっさばっさと木々を両断していく、スキル補正もあり尋常じゃないスピードでの伐採スピードとなる。

 組み立てる為の窪みなどを彫る作業もスキル補正により尋常じゃないスピードで片づける。

 運ぶ作業もスキル補正により超人かと思えるスピード。

 数時間後にはスライジさん用の大きな家が完成し、ルブフさんとリュテルさんの普通の家も完成する。


 ゴブリンの簡易住宅10軒とスライジさんの簡易住宅を取り壊して大きな家に改装し、ルブフ執事とリュテル姫の家を建てた。


 村が村らしく形となって生まれてくる。

 犬のジローと猫のキャニーは眩しい瞳でそれを見ていて、ルブフさんとリュテルさんはとても喜んでくれていた。


 次の課題は自分自身の武装と畑や村を囲う壁、最初は柵のようなものにしようと決める。次にジロー達の餌としてペットフードを持ち込みも考える。


 人が増えてきたので、外からの侵略にも考えないといけない。

 これはシミュレーションストラテジーゲームの基本中の基本。

 俺はそれがちゃんと出来てなくて、毎回ゲームオーバーを食らっていた。


 今回はそう言う訳にはいかない。

 村人の命を握っているのは自分自身なのだから。



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