第177話 ママはすごい?


「ねぇ、ママ」

「なぁに? リン」

「なんで、たいようさんがでると、あったかくなるの?」

「それは、たいようさんが、あったかいからだよ」

「じゃあ、なんでよるになると、すずしくなるの?」

「それは、あったかいたいようさんが、いなくなっちゃうからだよ」

「ふーん」


 ママはいつも、あたしのしつもんにこたえてくれる。

 ときどき「わかんない」っていわれることもあるけど、だいたいぜんぶこたえてくれる。

 だからあたしは、ママはすごいっておもってる。


「ねぇ、ママ」

「んー?」

「なんでにんげんは、にんげんなの?」

「……ん?」

「なんで、にんげんは、にほんあしであるくの? なんで、にんげんは『こんにちは』っていうの? なんで、にんげんは、ごはんをたべるの? どうして、にんげんは、おりょうりできるの?」


 たくさんきいたら、ママが、かたまっちゃった。

 おくちをだらん、ってはんぶんひらいたまま、かたまっちゃった。

 あれは、あたしがやったら、ママが『まぬけなかおしてるよ』っていって、ププッてわらったりするかおだ。

 なるほど、たしかに、まぬけかもしれない。


「そ、そんなにたくさんきかれても!」

「じゃあ、どれでもいい」

「どれでもいい?」

「なんでもいい」

「……えっと、しつもんなんだったっけ?」


 ぷう!

 ママ、いつからかたまってたの!?


 そのあと、あたしは、さっきしたしつもんを、もういっかいしようとした。

 だけど、おもいだせなかった。

 むぅ。あたしはまだまだ、すごくない。


「まぁ、ほら」

「なに? ママ」

「こんなもんだよ」

「どんなもん?」

「いちどにたくさんのことをきけないし、なんでもしってるわけじゃない。すごーくゆうしゅうなひとだったらさ、いちどにたくさんきいて、ぜんぶにかんぺきにこたえちゃうのかもしれないけどさ」

「ママ、すごくない?」

「え? すごいとおもってたの?」


 あたしは、こくん、ってうなずいた。

 そうしたら、ママは、くしゃっとわらって、


「ママはべつに、すごくなんかないよ」っていった。それから、


「ママはかわいくて、うつくしくて、おりょうりがじょうずで、おそうじもじょうずで、それで、それで――」


 ママのはなしをきいていたら、ママはすごくて、すごくない、すごくふつうの、いいひとのようなきがした。



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