第14話 2周目の真実
俺は里菜のお陰でまた一つ人生最良の時間を増やせた。俺達はそのまま薩摩半島を西の方へぐるりと回り込み、
日本三大砂丘の吹上浜にてようやく地上に降りると、海を眺めながら遅い昼食を取った。
流石に何も用意してなかったので、コンビニのサンドイッチになってしまったけど人生で一番美味いサンドイッチだと思った。
「うんっ?」
LINEの着信通知、孝則からだ。
「おっ、
「し、心配かけたな……」
「ほ、本当にごめんなさい。2人にかけた私の力は、明日帰ったら必ず解きます」
ビデオ通話越しの2人がとても申し訳なさそうな顔を向けてきた。
「良いんだ、何とかなったのだから」
「そっちも2人なんだねっ。あっ、顔が赤いよ……うししっ」
「んっ、そういや今、明日って言ったか?」
里菜に突っ込まれる程に顔を染めた2人が、明日って言葉に過敏に反応し、暫く黙り込む。逢沢さんはスマホからフレームアウトする。
「そ、そう…なんだ。ま、また暫く紀子と会えなくなるだろ。だ、だから……そ、その……なんだ、今夜は何処かに泊まって来ようかと…」
孝則の言葉が至極歯切れが悪くて、俺と里菜は声を出して笑う。
「アハハッ、いいんじゃない!」
「友紀、了解した。さらなる接触行動に期待する!」
里菜が笑いかけ、俺は敬礼して2人を煽る。
「だ、だから…今夜はそっちも……ねっ。私の
逢沢さんの声だけが聞こえてきてそのまま切られた。俺と里菜は顔を見合わす。此方も真っ赤になってしまった。
「ふ、2人っきりの……」
「ほ、ホテルの夜……」
ちょっと考えてみれば当然その流れになるのだが、向こう側の幸せだけ、ちょっと上から見て、いい気になって気がつかなかった。
「ゆ、友紀。そ、そろそろ帰ろっか?」
「だ…だな」
ここで里菜のスマホからLINEの通知音が鳴る。
「ルシアお姉さまからだ、なんだろ……え…?」
里菜が慌てた顔で返信している。
「そ、そんな……」
「ど、どうした?」
「あ、ううんっ、何でもないの。さあ行きましょう」
何かあった様にしか見えない態度だ。しかし俺に言うべき事なら、そのうち教えてくれるだろうと思い追求はしなかった。
俺達は再び空の人になって、鹿児島市へ帰るのだった。
◇
2日目の夜がやってきた。本当に様々な事があったけどまだ2日、だけど実施あと1日しか残されてない。
俺達はホテルの豪勢なディナーを終えた。2人して露天の温泉に行き、鹿児島市と桜島の眺望を楽しんだ。
やはり俺の方が先に風呂を出たらしい。浴衣姿で里菜が出てくるのを待った。
「お待たせしました」
「大丈夫、それ程待ってはいないよ」
湯上りで火照っている彼女。ホテルの浴衣なので大した絵柄じゃないが、里菜の美しさだけで俺の心も火照ってしまう。
一方里菜の方は何かぎこちない。エレベーターに乗って部屋に向かうまで終始無言だった。
「うわぁ…」
俺は部屋から見える景色に歓喜したフリをする。実は景色なんて見ていない。どうしても2人だけの夜が気になる。
「ゆ、友紀…ちょっといい?」
「ん、なんだい?」
里菜がベッドに座りながら此方を見ている。俺は息を飲んでからその隣に座った。
ただ、いわゆる良い雰囲気という感じではなさそうだ。
「ほ、本当は想い出の夜にしたいけど、今話さなきゃいけないと思うから」
「……」
「昼間のお姉さまからのLINE。1つは”貴方達のお遊びは旦那の力で揉み消したから大丈夫”」
「そ、そうか。すまない」
「問題は次なの。私が転生の秘術で本来すべきだった事はルシア姉さま達が何とかしてきた…」
そこから里菜の話は長かった。要約するとリイナが転生したかったのは2周目である1988年のイタリアで、サイガンとアヤメという2人の少年少女の別れを何とかする事だった。
話の元を辿ると1周目の1988年。サイガンとアヤメは別れ、さらに5年後、絶望の内でアヤメは自殺した。
アヤメを失った事を知ったサイガンは、その憤りの意志を秘めた人工知能…いや、正確には人工知性プログラム『AYAME』を創り出した。
それをコロナウイルスの遺伝子すら流用したナノマシンに載せ、人から人へ渡り歩かせ、それこそウイルスの速さで進化させた。
自らはナノマシンが完全な自由意志を持つとされた2092年迄コールドスリープする。
目を開くとナノマシン達は、宿主である人間の意識との共存を望み、新たな人類の誕生を予見出来る程に進化していた事実をサイガンは知る。
同時にその時点でのナノマシンを人型アンドロイドに投入し、初の意志を持った人造人間『マーダ』を生み出す。
しかしマーダは自身のAYAMEが未だ進化の途中、即ち不完全である事を知ると暴走し、自ら暗黒神を名乗った。
それまでの歴史を破壊して西暦1910年位の世界と、サイガンが好きな異世界を手本に自分の望む世界を創造した。
そして350年後に究極進化したナノマシンを持つ最初の人間『ローダ』とその仲間達に戦いを挑み、ローダそのものの乗っ取りを謀った。
サイガンこそ失われたが、1周目の人達は勇敢に戦い抜き、マーダを倒した後は、同じ世界が周回する様に、これまで培った技術をあえて封印し、約70年の時を待った。
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