第9話 ルシアが守りたかったもの
里菜の背後に突如現れた金髪の美女。割と知的な行動をする里菜を笑いながら軽くあしらう。
ボブカットの金髪はサラサラで、里菜の銀髪との対称も合わさり実に艶やかだ。
髪の色と大きな緑色の瞳はどうやらナチュラルらしい。昔のリイナと同じくイタリアの方なのだろか。
真っ白なスーツに身体のラインが存分に分かる膝丈のスカート。外したサングラスを額に載せる。そして白のテンガロンハット。
まるでハリウッド映画か、アニメから飛び出した様な出で立ち。
里菜は"お姉さま"と言ったのだから歳上なのだろう。正直似てはいないが。
大人の女性の危うい魅力に溢れていた。
「それにしてもリイナ。貴女日本人に転生したんでしょ? その割に昔の面影が濃いんじゃない?」
「おっ、お姉さま……声が大きい」
シレッととんでもない事を口走るので、里菜は相手の唇に人差し指を慌てて添える。
その適度に膨らんだ唇に紫のルージュが際立つ。
「り、里菜ちゃん……そのとんでもなくセクシーな女性は誰なんだっ?」
「あ……ごめんなさい。あまりに突然過ぎて紹介してなかったね」
「ルシア・ロットレンよ。ヨロシクねっ!」
此方にウインクを寄越してくる。ハートが飛んで来た様な錯覚に陥ってしまった。
「あ、何となく分かるだろうけど·……」
「そ、リイナのお姉ちゃんをやらせてもらってまーすっ」
「もぅっ! お姉さまったら全部持っていかないで下さいっ!」
里菜がルシアさんの肩をポカポカと叩く。
「か、可愛さと美しさの融合。た、例えるなら色気で押してくる歌姫と、あどけなさで売ってくる歌姫がいたあの話みたいな?」
「おぃ、
孝則の例えは実に当たって……いや、今はそうじゃ……。んっ、ルシア?
俺この人の事知ってる気がしてきたぞ。
そうだ、思い出した。鹿児島湾の上で里菜と心を通わせたあの時に出てきたリイナと一緒に戦った仲間の一人だ。だから転生なんて言葉が彼女の口から出てきたんだ。
「そうね、話さなきゃいけない事がウンザリする程あるんだけど、今は貴方達に起こった重大事が先のようね」
「あ、は、はい……。そうですね。結果から言いますと俺……じゃないな。園田友紀と此奴……仮屋園孝則の世間的な立場が入れ替わったようなんです」
「へぇー……」
俺と孝則は自分達に起こった出来事をルシアさんに説明した。ルシアさんは両目を閉じて頷きすらしないのだが、聞いてくれてはいるらしい。
「それだけじゃないんですっ! 私の友達、逢沢紀子が突然姿を消したんですっ!」
「なるほど……」
里菜の必死な形相と悲痛な声にルシアさんは目を開いて何かを悟ったらしい。
「さて…まあ君達に起きた事と、リイナのお友達がいなくなった事は、繋がっていると考えるのが妥当でしょうね」
ルシアさんは大して顔色変えずに頬杖をつきながらそう告げた。
「え……」
「それってつまり……」
「んっ!? 俺はさっぱり分かんねえぞ?」
俺はルシアさんの次の言葉に大体の察しがついた。里菜も同様らしい。孝則は腕を組んで頭を捻っている。
「逢沢紀子……彼女が何らかの能力で園田君と仮屋園君の立場を逆転させた」
「いや、待って下さいっ! 確かに孝則とあの子とは知人ですが……」
「そうですっ、まさか鹿児島で会えるなんて思ってもみなかった筈……」
そうなのだ。仮に逢沢さんがこの状況を模索したとしても、此処で出会うもう一人が昔の彼、孝則だなんて知る由が……。
「あ……まさか1周目の記憶……」
「なるほど、園田君は中々に知恵が回る様ね」
「な、何の事ですかっ?」
「お、俺にも解る様に説明してくれよーっ」
俺は右手で頭を抱えつつ必死に考えてみた。それを見たルシアさんがニヤリッと笑う。
「た、孝則。お前が一番解ってる筈だ。お、俺、園田友紀は恐らく孝則の言う1周目では、亡くなってしまった鈴木里菜には会えない……サッカー人生すらも多分平凡で終わるんだろうな」
里菜が俺の言葉に声も出なくなる。孝則はハッと息を飲んだ。
「逢沢さんは、新しい里菜と出会い、俺の目の様にその能力を開花させると共に、そんな1周目の記憶を思い出し、俺と孝則を入れ替える事を考えたのだろう」
「大体正解ね。リイナ、貴女も元々の鈴木里菜の末路を知らない訳がない。だって貴女は私と同じ様に2周目の原因を作った張本人の1人なのだから」
「は、はい、そうです…」
里菜が実に苦しそうな顔色で、言葉を無理矢理捻りだす様に応える。ルシアさんと里菜が2周目の張本人!?
俺がリイナの心の中でみたあの戦いがそうだって言うのか!?
「もっと言わせて貰うとまずリイナ。逢沢って子と2人で此処を訪れるきっかけを振ったのはどちらかしら?」
「え……鹿児島行きを言い出したのは私ですが、元を辿れば一緒にプールに行こうって誘って来たのは彼女でした」
「でしょうね。中々慌ただしい誘いだったんじゃなくて?」
「はい。突然深夜に連絡して来たんです」
「ハァーっ、やっぱりねぇー。それって恐らくそのタイミングで彼女の脳裏に模索した選択肢が浮かんだのでしょうね」
「そ、そうかっ! だ、だからあんなに慌てて……」
里菜がルシアさんの推測に愕然としている。確かに言われてみれば俺にLINEが届いたのは深夜だった。
「あともう一つ……その能力を発現させるには、恐らく君達2人に同時に触れる必要があるでしょうね。でなきゃわざわざ
「「あーっ!」」
俺と孝則は顔を見合わせて思わず叫ぶ。天文館で飲んでた時に背中を叩いて挨拶をしてくれたアレに違いない。
「因みに一応の確認……。園田君、貴方の目の能力とやらは未だ健在?」
「え……あ、ちょ、ちょっと待って下さい……」
俺は意識を目に集中する。しかし何故、この人は俺の力を初見ながらに知っているのだろう。
「み、見えます。今、このテーブルを真上から見ています」
「予想通りね。ま、意識まで入れ替わっていない様だから当たり前か。逢沢紀子の能力。触れたの者同士の人生、それも周囲から見た人生ね。それを入れ替えてしまう能力。これ地味な様でとんでもない事よーっ」
とんでもない事……そう言っている割にルシアさんの顔は冷めている様に思えた。
― 気に入らないわっ! こんなのっ! そう思うでしょう? 貴方も……。
え……い、今、ルシアさんの心の声が聞こえた気がした。ただ彼女の言う貴方は俺の事ではなかった気がした。
ルシアさんの冷めているフリは自分を落ち着かせる為のものなのか? スーツの襟を正して一呼吸置いてから再び語り始めた。
「さあ一番肝心なこの原因……。犯人探しじゃないのよっ。逢沢紀子が何故こんな行為に及んだのか? 貴方には解っている……いえ、解らないなんて絶対に言わせないよっ!」
「えっ………」
ルシアさんは強い口調と共に、孝則を指差した。指された当人はまるでそのまま脳天を撃ち抜かれたの如く、その目を仰天させた。
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