第18話 未来へ

 スチュワート代表から支援の約束を取り付けたその日の夜。

 タニアが腕によりをかけて作った豪勢な料理の数々を食しながら、イブリット、ミアン、そして今回のパーティーのきっかけとなったスチュワート代表や調査から帰還したレジーヌたち商会関係者たちも参加している。


 小さくてまだ修繕途中の屋敷では収まりきらなかったので、半分以上は外で宴会騒ぎをしている。


 大人しくしているようスチュワート代表が注意をするも、イブリット自身が好きに騒いでくださいと許可をだしたらこの大騒ぎである。

 最初からここで宴会を開くつもりだったのか、商会が用意した二十代以上ある場所のうち三つには酒と食料が山ほど積み込まれていた。スチュワート代表曰く、これは差し入れのつもりで持ってきたらしいが、イブリットはタニアに命じてそれらを材料に料理を作らせ、さらに全員へと振る舞った。


「おぉ……これはおいしい」

「ありがとうございます!」


 どうやら、タニアの料理はスチュワート代表の舌に合ったようだ。

 さらに驚いた事実がひとつ。

 実はスチュワート代表と魔女ミアンは古くからの付き合いで面識があったという。代表がイブリットに目をかけたのも、滅多に弟子を取らないことで知られる魔女ミアンが気に入ったという事実もあった。


 宴会は盛り上がりを見せる中、イブリットは少し休憩を入れようと喧騒から離れる。


「ふぅ……」


 息を吐き、夜空を見上げる。

 すべてはここから始まる。

 今はまだ、スタートラインに立ったばかりだ。

 そこへ、


「ひと段落して安堵していると思ったら……まだまだ上を目指している目つきをしているね」


 師匠の魔女ミアンがやってくる。


「ミアンさん……」

「ふふふ、正直言って驚かされたよ。あれだけの短期間でここまでの成果を出すなんてね」


 イブリットは改めて師匠ミアンから自然を取り戻したレトロ魔法を褒められる。

 熟練の魔法使いでも習得困難とされる古代の魔法の数々――イブリットはそれをたゆまぬ努力で蓄えた知識と生まれ持った魔法使いとしてのセンスでマスターに成功した。


「これもミアンさんのおかげですよ」

「君の頑張りの賜物さ」

「そうですよ!」

「そうそう」


 ふたりの会話に割り込んできたのはタニアであった。

 さらにその背後からレジーヌも顔を出す。


「あ、あなたたちも来たの!?」

「私たちだけじゃないですよ?」


 タニアの言葉にハッとなって周りを見回してみる――と、いつの間にか宴会に参加していた全員がイブリットたちを取り囲むように集まっていた。


「イブリット様! これからは俺たちもこき使ってください!」

「あなたの頑張りに感銘を受けました! なんでもやりますぜ!」


 イブリットの境遇を知った商会のマッチョマンたちはそう申し出る。正直なところ、女性ばかりで力仕事に関しては人手不足だったのでありがたい。


「さて、イブリット様――ここでひとつ決意表明をされてはいかがかな?」

「け、決意表明ですか?」


 スチュワート代表が言うと、全員の視線がイブリットへと注がれる。

 さすがにこのまま放っておくわけにもいかず、何を話そうか悩んだが――この場合はアレしかない。

 そう結論をだしたイブリットは、深呼吸をしてからみんなへ向けて叫ぶ。



「今より――領地運営を開始する!」


 

 直後、弾けるような歓声が沸き上がる。

 レトロ魔法で生みだしたこの地をさらにレトロ魔法で高めていく。

 それは決して容易なことではないのだろうが、それでもイブリットは歩みを止めない。

 いつか、この領地に領民が増え、みんなが幸せに暮らしていけるよう――彼女はレトロ魔法使いの領主として生きていく。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

病弱令嬢の領地運営計画 ~見捨てられたレトロ魔法で荒野をよみがえらせます~ 鈴木竜一 @ddd777

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ