第17話 大きな一歩
ラッシュブルック商会による領地の調査が進む中、イブリットは一度屋敷へ戻ってきた商会代表であるスチュワートとお茶会を開いていた。
そこで、イブリットがこの領地にやってきた経緯をスチュワート代表は知ることになる。
「なるほど……逆境を跳ねのけてレトロ魔法を身につけたのですね」
「えぇ、まあ」
穏やかな口調に柔らかな物腰――それでいながら、どこか威圧感のある話し方をするスチュワート代表にイブリットは押されていた。しかし、ここで怯んではいけないと踏みとどまって話を続ける。
「スチュワート代表は、レトロ魔法をどこまでご存じなんですか?」
「一般的な知識どまりですよ。――ただ、正直なところ、魔導書に残されていたような効果は大袈裟な表現だと思っていましたが……どうやら、真実だったようですな」
現在はレジーヌたち商会の関係者が領地を調査しているが、少しの間でも見て回った感想を代表はイブリットに伝える。
そこには、思いもよらない事実があった。
「実を言うと、この地は前々から密かに目をつけていたのです」
「えっ? そうだったんですか?」
「はい。――噂では、この辺りに良質な魔鉱石のある鉱脈があるという」
「魔鉱石の鉱脈……」
それは思わぬ知らせだった。
さらに、スチュワート代表は続ける。
「レジーヌからこの領地が生まれ変わったと聞いた時、これは大きなビジネスチャンスだと思いましたよ」
鋭い眼光に射抜かれて、イブリットの体が震える。
これが、世界を相手に戦ってきた、百戦錬磨の商人の顔――怖いという感情よりも、どこか頼りになるとか、そういう安心感があった。
「その魔鉱石ですが……もし安定して採掘できる環境を用意できると言ったら――どうしますか?」
「っ! ……可能なのかい?」
さらに目つきが鋭利になるスチュワート代表。
それに対してイブリットは、
「分かりません」
屈託のない笑顔でそう答える。
「ただ、やれるように努力はします。絶対にやれるって保証もないですけど……でも、私が覚えている古代の地属性魔法にはもっともっと可能性があって――」
「はははっ!」
興奮気味に話し続けるイブリットを前に、スチュワートは思わず噴きだしてしまう。
「いや、すいません。商人として、そのような不確定要素に肩入れするのは避けたいところではありますが……不思ですねぇ……あなたならば、それをやってのけるだろうという自信が湧いてくる」
「じゃ、じゃあ!」
「ラッシュブルック商会はあなたの領地開拓を支援します。担当にはこれまで通りにレジーヌをつけますので、何かありましたら彼女を通してご連絡ください」
「は、はい! ありがとうございます!」
調査の途中ではあるが、ラッシュブルック商会から支援の約束を受け、イブリットはたまらず近くにいたタニアとハイタッチを交わす。
「そんなに喜んでもらえてこちらも嬉しいですよ」
「いや、その……お恥ずかしい……」
照れ笑いを浮かべるイブリット――その視線が見据える先には、この広大な領地の豊かな未来が映っている。
こうして、彼女の領地運営は大きな一歩を踏みだそうとしていた。
※文字数到達のため、次回で1度区切りにしたいと思います。
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