第16話 領地調査
紳士から大陸屈指の大商会をまとめるトップの顔つきへ変わったスチュワート。
彼は三十人近い人員を動員して領地の調査に乗りだしたいと提案してきた。これについてはむしろ望むところとイブリットは考えている。
仮に、この領地がスチュワート代表のお眼鏡にかなわなかったとしても、全容が明らかとなれば次に打つ手を練られる。どちらに転んでも、イブリットにはプラスと働くのだ。
先遣隊は到着してからすぐに調査へと乗りだしていったが、商会代表のスチュワート率いる調査団は準備を整えてから出発するとのことだったので、しばらく時間がかかるらしい。その間、荒野を一夜で大草原へと変えた理由についてイブリットに尋ねた。
「実は……この地を復活できた一番の要因は――レトロ魔法なんです」
「えっ? レトロ魔法?」
最初はまさかの言葉に驚いていたスチュワートだが、しばらくすると納得したように何度も頷き始めた。
「なるほど……確かに、このような荒唐無稽な現象を可能とするのはレトロ魔法を置いて他にありませんね」
自身の顎を撫でながらそう語るスチュワート代表。
「実を言うと、現代魔法よりも威力が強い古代の魔法というのは以前からずっと商業利用できないか関心があったんですよ」
これまで数多くの商談を成立させてきた経験を持つ彼の目から見ても、古代の時代に使われた詠唱つきの魔法というのは魅力があるものだったらしい。
ただ、それがいかに難しい条件であるかというのも理解していた。
何せ、詠唱つきの魔法が使われていたのは今から百年以上前のこと。詠唱が記された魔導書は残っているものの、それを翻訳して使おうとする魔法使いはいなかった。非効率かつ需要がなかったからだ。
しかし、スチュワート会長は戦闘ではなく商業的な利用価値を求めていた。なので今回、イブリットがその可能性を示したことで、彼は貴重な時間を割いてこの辺境領地まで足を運んだのだ。
「レジーヌが猛プッシュしていましたが……正直、こうして実際に目の当たりにするまであまり信じてはいませんでした」
「レ、レジーヌが?」
どうやら、レジーヌはただ知らせに戻っただけではなく、スチュワート代表にこの地を訪れてもらうよういろいろ情報を送っていたらしい。今回の訪問はそれが功を奏して実現したものであった。
「ありがとう、レジーヌ」
「私は商人として利用できそうだから進言しただけ」
明らかに照れ隠しと分かる誤魔化し方だった。
そうこうしているうちに、出発の準備が整う。
「では、私もこの目でレトロ魔法の真価を確認してまいりましょう」
「よろしくお願いします」
体調面を考慮して待機することになったイブリットは、領地の調査に乗りだしたスチュワート代表とレジーヌを見送ると、タニアとともに屋敷へ戻る。
「いい結果になってほしいですね」
「こればっかりはどうにもできないからねぇ……まあ、吉報を待ちましょう」
「はい」
ふたりは胸の高鳴りを押さえつつ、普段通りの生活を送った。
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