第15話 ラッシュブルック商会

 荒れ果てた領地の大幅な緑化に成功し、いよいよ本格的に領地運営へと乗りだそうとするイブリット。

 そんな彼女の助けになればと、商人であるレジーヌは自分が所属する商会のトップであるスチュワートを紹介すると提案した。


 スチュワート・ラッシュブルック。

 一代で大陸でも屈指の大商会に育て上げたヤリ手の大商人。貧民街の出身ということもあってか、身寄りのない子どもたちを引き取って育てる施設を国と協力して運営する人格者としても有名である。何を隠そう、レジーヌもその施設の出身だった。


 その一方で、商人としては仕事に一切の妥協を許さぬ厳しい人物でも知られている。

 とはいえ、その厳しさはあくまでも自身に向けられるものであり、高圧的な態度で部下を罵ったり、違法な商品の売買に手をつけたりなどはしていない。


 あくまでも正攻法で大成した人物だ。

 そのため、王家からの信頼も厚く、顧客の中には有力な貴族も少なくはない。


 そんなラッシュブルック商会とやりとりができれば、これ以上の強みはない――が、妥協を許さない彼が、緑化に成功したとはいえ、まだ手つかずの状態であるこの領地を見て協力を申し出てくれるのか、それはまったく不透明なものだった。


「なんだか……凄く緊張してきたわ……」

「だ、大丈夫ですか、お嬢様」


 胸を押さえながら、青ざめた表情のイブリット。

 だが、心配して寄り添うタニアへは笑顔を見せる。


「ここが踏ん張りどころだから……なんとかしてみせるわ」

「お嬢様……」


 体の面ではまだ弱さがうかがえるものの、メンタル的なところでは以前よりもずっと強くなっている。

 幼い頃からイブリットを見てきたタニアにはそれがよく分かった。


 約束の時間が迫ると、領地の近くに馬に乗って移動する大勢の人の姿が確認できた。


「来た……」


 それまで誰も寄りつかなかったこの地にあれだけの人数がやってくる――それはつまり、イブリットタチの存在を知る者に他ならなかった。

 そう。

 ラッシュブルック商会の者たちだ。


 しばらくして、イブリットたちの屋敷前に到着した一団。

 その中にはレジーヌもいた。

 そして、ひと際厳つい顔つきで全身から強力なオーラを発しているのが、


「初めまして。ラッシュブルック商会代表のスチュワート・ラッシュブルックです」


 噂のスチュワート代表だった。


「ど、どうも、イブリット・ハートレイクです」

「ハートレイク家のご令嬢ですね? 話はレジーヌから聞いております」


 歴戦の猛者のごとき気配とは裏腹に、スチュワート代表の物腰は柔らかく、丁寧な物言いにイブリットはホッと胸を撫でおろす。辺境領主とはいえ、イブリットは一応貴族であるということもあるのだろうが、もともとレジーヌから優しい人とは聞いていた。しかし、顔が怖すぎてその情報が頭から抜け落ちていたのだ。


「利用不可能とされていたこの地を一夜にしてこれほどまでに変えてしまうとは……驚きましたね。ハートレイク家といえば武術に秀でた一族として名を馳せていますが、魔法の才もあるようですな」

「い、いえ、そんな……」

「では――改めていろいろとチェックさせていただきましょう」


 スチュワート代表の眼光が鋭く光った。

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