第12話 成果
一ヵ月の間、自分の可能性を信じて鍛錬に励んだイブリット。
その成果を確認するためにも、目を開けなけなければいけないのだが――ダメったらという不安があって動けないでいた。
そんなイブリットに、師匠であるミアンが声をかける。
「目を開けてごらん」
「ミ、ミアンさん……」
優しい声に導かれてゆっくりと目を開けると――信じられない光景が広がっていた。
ついさっきまでほとんどが土色で覆われていた領地。
それが、魔法を使ってから見違えるほど変わっていた。
視界一面が鮮やかな草花で埋め尽くされている。大きな緑のカーペットに赤や黄色や青の花が咲き乱れ、太い幹の木々があちらこちらに見受けられた。
「こ、これって……」
「君の努力の賜物だよ」
「私が……」
目の前で確かに起きている現実を理解できずにいたイブリットであったが、急に襲ってきたふたつの衝撃でようやく我に返る。その衝撃の正体は――歓喜のあまり彼女に抱きついたタニアとレジーヌであった。
「やりましたよぉ! イブリットお嬢様ぁ!」
「やった! やった!」
まるで自分のことのように喜ぶふたりに、最初は戸惑っていたイブリットだが、次第につられて笑顔が出るようになった。
笑い声が口から漏れ出た瞬間、ようやく自分がずっと達成しようと努力し続けたことが実現できたと実感が湧いてきた。
「さてさて、浮かれているところ悪いが……その成果をきちんとみんなでチェックしていこうじゃないか」
大騒ぎのイブリットたちをたしなめるようにミアンが言う。
テンションが上がりすぎてすっかり失念していたが、こうなった以上、調べなくてはいけないことが山ほどある。
まずはこの自然がどこまで広がっているのか。
そして現状を永続的にキープできるのか。
真っ先に浮かんできたのはこのふたつ。
確かに、思い描いていた自然豊かな大地となった――が、これが見せかけだけで中身は荒れ地のままという可能性もある。
イブリットはそれを確認するため、実際に周囲を歩いて回ってみることにした。もちろん、ミアン、タニア、レジーヌの三人も一緒に。
最初に口をついた――
「凄い……」
シンプルでありながらこれ以上ないほど的確に周辺の様子を表した言葉だった。
花や草木は紛れもなく本物であり、これらを育む大地には潤いを感じる。ミアンの住んでいるオアシスの影響もあるようだが、そうであってもほんの一瞬でここまでの規模を緑化させるのは並大抵のことではない。
これにはイブリットも出来すぎではないかと思い始めていたのだが、
「ほぉ……素晴らしい。想像以上だ」
師匠のミアンは本人よりも驚いていた。
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