第13話 生まれ変わった大地

 魔女ミアンをも驚かせたイブリットの魔法。

 それは普通の魔法とは異なる。

 詠唱をなくし、スピードが重視された現代魔法とは違い、長い詠唱をともなうことで少ない魔力消費のみで爆発的に威力が増すレトロ魔法と呼ばれる代物だった。


 もともと体が強くなかったイブリットは、体調と相談しながらこのレトロ魔法習得に時間をかけた。今は実家からの支援物資でなんとか生活できているが、形だけの領主ではなく、自立した生活ができるよう、このレトロ魔法で荒野をよみがえらせようと奮闘していたのだ。


 そして――とうとうその成果が現れた。


 見渡す限り土色だった領地は生まれ変わり、今や自然豊かな場所となっている。ミアンの住んでいたオアシスの水が行き渡るようになった影響で川もできた。水があれば、動植物も集まってくる。


 今、この地はまさに生まれ変わろうとしていた。


 だが、これはあくまでもステップアップの第一段階にすぎない。

 イブリットが見据えているのは、もっと先の未来だ。



 劇的な変化を遂げた領地のチェックに勤しむイブリットたちであったが、さすがに一日ですべてを見て回ることはできず、今日は川のほとりにテントを設営し、そこで夜を過ごすこととなった。


 イブリットの体調を心配するメイドのタニアはあまり乗り気ではなかったが、そのイブリット自身がノリノリだったこともあり、考えを改める。


「宿泊の準備は任せてくれたまえ」


 魔女ミアンがパチンと指を鳴らした瞬間、目の前に設営された状態のテントが出現する。


「魔法でこんなこともできるんですね……」

「まあね。こうした応用の幅の広さは、現代魔法において私が認める数少ない利点のひとつさ」


 スピードと手軽さと万能さを求めた現代魔法であれば、このような作業は造作もなくなる。

 しかし、それゆえに大幅なスケールダウンは避けられなかった。


 とはいえ、以前のような凶悪強大なモンスターが消え去った今の時代では、そういった魔法の方が必要とされているというのも事実である。だからこそ、レトロ魔法は衰退の一途をたどっているのだ。


 世間一般の見方はそうであっても、今のイブリットはまったく違う考えを持っていた。

 モンスター討伐のために生みだされた強力な古い魔法の数々――だが、これも使い方次第で現代の世に大きく貢献できる。

 今回、荒れ果てた大地を緑いっぱいによみがえらせたことで、イブリットは以前にも増して強く思うようになっていた。


「さあ、そろそろご飯ができますよ~」


 屋外で料理をするのは初めてだというタニアだが、知識自体はあったようでその場にある食材を使って夕食を仕上げる。


 料理が完成する頃にはすっかり辺りは暗くなっており、夜空にまたたく星々と焚火の光だけが辺りを照らしていた。


「綺麗な星空……」


 食事中、レジーヌがそんな言葉を口にする。

それに反応してイブリットが見上げると、そこにはどこまでも広がる満点の星空があった。


「凄い……こんなに綺麗なんて、今まで気づかなかったわ」

「いろいろと余裕がありませんでしたからねぇ」


 タニアの言う通りだと、イブリットは思った。

 けど、これからは違う。

 生まれ変わったこの領地でどのように暮らしていくのか――イブリットの領地運営はまだ始まったばかりだ。

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