第11話 やれるだけのすべてを
イブリットが魔女ミアンに弟子入りをして一ヵ月が経った。
最初に魔法を使った時の感想として、まだまだ実力不足だと痛感したイブリットは、その日からずっと基礎鍛錬を繰り返していた。
実践的な鍛錬に移行しないのは、彼女の体調を考慮してのことだった。
もともと病弱で、静養が必要なイブリットにとって魔法を使用することはかなり負担となっている。なので、一日に鍛錬ができる時間も限られていた。
そのため、いつも鍛錬が終わる頃は疲労困憊という感じで、時には発熱する時もあった。それでもあきらめず、魔法の扱い方だけでなく、知識を身につけるために勉強も欠かさず行ってきた。
タニアはそんなイブリットを心配したが、鍛錬を止めることはしなかった。
『体は弱いけど心は強く!』
領地へ移ってから、イブリットはこれが口癖になっていた。その証拠に、ヘロヘロになりながらも弱音を吐いたことは一度もない。
ようやく自分が生きる道を見つけたのだ。
ここでへこたれては、今までも同じ生活に戻ってしまう。それだけは絶対に嫌だと強く思うイブリットにとって、その気持ちが原動力になっていた。
強い心とたゆまぬ努力。
日々これを繰り返していくうちに、少しずつではあるものの変化が見られるようになった。
まず、鍛錬の成果が表れ、扱える魔法の幅が広がった。
荒地をよみがえらせるのが第一の目標であるため、基本的には地属性魔法を中心にマスターしていった。
最初は花を増やす程度しかできなかったが、その頃に比べるとだいぶ上手く魔力を扱えるようになったので、自信を持つようになっていた。
そしてこの日――とうとうこれまでのすべてを発揮する日がやってくる。
「さて……どこまでやれるのか……試してみるわ」
「頑張ってください!」
「あまり気負わずに」
荒野にたたずむイブリットの屋敷。
そこには、これから使用する魔法の成果を見ようと、タニアとレジーヌが駆けつけていた。
当然、師匠であるミアンもいる。
「レジーヌが言ったように、落ち着いていくんだ」
「はい!」
パチン、と頬を叩いて気合をいれたイブリットは、いつものように深呼吸をしてから目を閉じた。これが魔法を使う前のルーティーンになっている。
「よし……」
息を吐き終えてから、短く決意を口にした。
これまでの努力のすべてを解き放つように――イブリットは詠唱を始める。
すると、みるみる彼女の全身を魔力が覆っていく。
最初の頃に比べるとその勢いは段違いで、まるで別人が魔法を使っているのではないかと錯覚するほどであった。
「おぉ……」
「凄い……」
見違えるほどの魔力に驚くタニアとレジーヌ。
一方、これくらいはやれて当たり前だとでも言わんばかりに腕を組み、少し笑みを浮かべながらジッとイブリットを見つめるミアン。
さまざまな思いが飛び交う中、イブリットは詠唱を唱え終え、自分に出せる限界まで魔力を解き放った。
その結果は――
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