第5話 魔女の訴え
「私が言うのもなんだが……君も変わっているねぇ。ハートレイク家といえば王家とのつながりも深いのだが――まあ、ここでその話を持ちだすのは野暮というものか」
魔女ミアンはニヤニヤしながらイブリットを見つめる。
バカにしているわけではなく、純粋な興味関心から言っているのだろう――イブリットはそう捉えた。
早速、ミアンに古代魔法の件を伝えると、それまでニコニコしていた彼女の表情から笑みが消えた。
「古代魔法……威力抜群だが、長ったらしい詠唱が必要ということで現代ではレトロ魔法などと呼ばれるだけにとどまらず、ナンセンスの塊だとバカにされる……あの古代魔法……」
それはうめき声のように聞こえた。
先ほどまでとはまるで別人のような変わりように、イブリットとタニアはギョッと目を丸くする。
もしかしたら、古代魔法が嫌いなのかもしれない。
そう直感したイブリットはそれとなく尋ねてみることに。
「あ、あの、ミアンさんは古代魔法に何かよくない思い出が――」
「逆だよ!」
言い終える前に、ミアンは叫んだ。
「古代魔法は芸術だ!」
「げ、芸術……」
呆気に取られて顔を見合わせるイブリットとタニア。ミアンはそんなふたりの反応など意に介さず、さらに熱くなっていく。
「大体、最近の魔法使いはなっていない! いや、アレらと私を同じ魔法使いという括りで呼ばれたくはない! 古代魔法とは……もっと敬われるべきなのだぁ!」
どうやら、ミアンは古代魔法がレトロ魔法と呼ばれ、バカにされている今の風潮に不満を持っているらしい。
「じゃ、じゃあ、ミアンさんは古代魔法を――」
「愛していると言って過言ではないね」
ドヤ顔で言い切るミアン。
そんな彼女が、イブリットには誰よりも頼もしく映った。
「ミアンさんは……古代魔法が使えるんですか?」
「ひと通りは、ね。まあ、まだ魔導書に書かれた詠唱の解読が終わっていないものもあるから完璧とは言い難いのだが」
最後の方は小声になっているので、自信はないのだろう。
ただ、イブリットが覚えようとしていた古代魔法が使えるということは、それを教えてもらえるかもしれない。そう思った瞬間、イブリットはミアンへと詰め寄った。
「私にも古代魔法を教えてください!」
「い、いいのかい?」
「私は生まれつき魔力量が少なくて……だから、詠唱を唱えることで消費する魔力量が抑えられるレトロ魔法なら使えるかもって!」
「確かにその通りだ。それに――このご時世にレトロ魔法と呼ばれる古い魔法を覚えようという心意気が気に入ったよ」
ミアンは笑いながらイブリットの肩をポンポンと叩く。
さらに、彼女にはイブリットへ古代魔法を勧めたい理由があった。
「もともと、君には古代魔法を覚えるように提案するつもりだったからちょうどいいよ」
「そうなんですか?」
「うむ。君自身が理解している通り、君は魔力量が平均値よりもかなり少ない。――だが、魔力の質はこれまで私が見てきたどの魔法使いのものより綺麗だったよ」
「ほ、本当ですか!?」
魔法に詳しいミアンから褒められてテンションの上がるイブリット。
こうして、魔女ミアンに弟子入りしたイブリットの魔法の修行は、いよいよ本格的に始まろうとしていた。
※次回から不定期12:00投稿予定!
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