第6話 始まる魔法修行

 魔女ミアンのもとで修業を始めてから一週間。

 一応、実家には手紙でそのことを伝えておいたが、ノーリアクション。

イブリットにとって、両親は自分について無関心なのだなと認識する結果となった。



 その日も、イブリットは朝から屋敷を抜けだしてミアンのもとを訪れていた。

 彼女が教わるのは古代の魔法。

 今ではレトロ魔法と呼ばれる代物。

 効率化が求められるようになった現代では無用の長物と化している――が、屋敷にあった本をさらに読み込んでいくうちに、イブリットはそんな時代遅れの魔法にどんどん魅了されていった。


 さらに、そのことをミアンに話すと、乗り気でさまざまな書物を貸し出してくれた。中には王立図書館に所蔵されていてもおかしくない逸品もあるらしい。


 早速その本に目を通したイブリットは驚嘆する。

内容は実際にレトロ魔法を扱う者たちが激しい戦いを繰り広げた戦史であった。それ自体は屋敷にもあったのだが、ミアンが貸してくれた本は当時の記録が屋敷にある本よりも事細かに記されており、純粋に読み物としても楽しめる。


 実際のところ、イブリットがレトロ魔法を身につけるにはまだまだ程遠い実力だが、師匠であるミアンは「成長速度は常人を遥かに凌駕している」と評価してくれており、そう遠くないうちにレトロ魔法習得へ取りかかれるだろうと言ってくれた。


「さあ、今日は何を教えてくれるかな」


 病弱で、外へ出るのが億劫だったイブリットだが、魔法の修行を始めてから体調は回復傾向にあった。元気になっていく彼女の姿を見て、専属メイドのタニアも毎日嬉しそうに家事へ勤しんでいる。

今日も、そんなタニアの作ったお弁当を手にし、イブリットはミアンの家を訪ねる。

すると、そこには先客が。


「あら、今日も配達? ――レジーヌ」

「見たら分かるっすよね? うちは商人で、それが仕事なんだから」


 ぶっきらぼうに答えたのはレジーヌという褐色肌の少女。

 赤いショートカットヘアーに、トレードマークとなっているカチューシャが良く似合っている。少しだけ吊り上がった目には美しい翡翠色の瞳が輝いていた。


 彼女は王都にあるラッシュブルック商会所属の商人で、今は魔女ミアン専属の商人となっている。年齢はイブリットと同じという若さだが、ミアン曰く、「将来性豊か」とのこと。


 当初、辺境の地へ飛ばされてきたとはいっても貴族であるイブリットに対して、立場の違いから距離を取り、最低限の会話は交わさないという素っ気ない対応であった。


 しかし、イブリットとしてはせっかく年齢の近い子と知り合ったのだから普通の友人として接したいと考え、ミアンの屋敷周辺のように公的な場所でないところでの会話はタメ口にしてほしいとお願いした。


 最初、この提案にレジーヌは乗り気ではなく、しょうがなくやっている感を出していたのだが、後々、彼女もまた年の近いイブリットと知り合えて、しかも友人になれたことを喜んでいたとミアンがこっそり教えてくれた。


「で、うちに何か用があったんじゃないの?」

「そうだ! ミアンさんがどこにいるか、場所を教えてくれない?」

「それなら裏庭にいるっすよ」

「ありがとう!」


 お礼を言って、イブリットは小走りに目的の場所へ近づいていく。

すると、徐々に空気が変わっているのに気づいた。


 ピリピリと痺れるような気配が伝わってくる。

 それは、師匠であるミアンが魔力を錬成している証だった。

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