第3話 オアシスへ

 何もない荒野にやってきて二日目を迎えた。

 朝は思いのほか涼しかったので、暑がりのイブリットにとってはありがたい限りだ。

 

 この日、イブリットとタニアは周辺の様子を見て回ることにした。

 草木一本生えていない荒野であり、領民の姿もない。

 こんな場所で領地運営など正気の沙汰ではないと思いつつ、父への反発心からなんとかして繁栄をさせたいと野望を抱くイブリットは、その取りかかりとしてレトロ魔法と呼ばれる古い魔法を覚えることにした。


魔法の修行と勉強をしつつ、領地の視察へ赴いたのだが、周囲の様子は想像通りひどいものであった。


 そんな中、イブリットはあるものを発見する。


「あれは……」


 何もないと思われていた荒野にポツンと現れた草木。

 不自然なくらい一ヵ所へ集中しているのだが、イブリットはそれがどうにも気になって仕方がなかった。


「なぜあの場所にだけ植物が?」

「さあ……行って確かめてみましょう!」


 考えるよりも先に体が動くタイプのタニアは、近づいて詳細な情報を得ようとイブリットへ提案する。むろん、彼女もそれがもっとも手っ取り早く情報を得られる手段であると承知しているが、正体不明の場所へホイホイと近づくのには抵抗があった。


 何かがあるかもしれない。

 言い知れぬ予感めいたものに動きが封じられるイブリット。


 だが、これからここで暮らしていかなければならないと考えると、何も分からない場所が存在しているというのは気持ちが悪い。


 なので、腹をくくってその場所に近づき、調べてみることにした。

 タニアとともに接近していくと、そこはどうやらオアシスのようで、かなり大きな湖が存在していた。


「わあぁ……凄い!」


 まさか、荒れ果てた大地が広がっているだけだと思っていたのに、楽園のような場所があるなんて――驚くイブリットはしばらくその湖を見つめていたのだが、


「あら? あれは何でしょうか」


 オアシスに何かを発見したタニアが指さす先には、どう見ても屋敷と思われる建造物があった。


「屋敷? なぜあんなところに?」

「そもそもここには領民なんていないはずなのに!」


 タニアの言う通り、事前の情報では誰もいないことになっているのだが、どう見てもあれは人が住むために建てられた屋敷だ。


「……行ってみましょう」

「い、行くんですか!?」

「そうしなくちゃ気持ちが悪いでしょ?」

「それはそうですけど……」


 踏ん切りのつかないタニアを引っ張りつつ、イブリットは屋敷へと近づく。

 その屋敷はあまり古い感じこそしないものの、人が住んでいる気配が見られなかった。さすがに気になって、ドアへと手をかける。

 すると、


「あれ? 開いてる?」


 鍵はかけられていなかった。

 不用心だなぁと思いつつ、イブリットはタニアへ「入ってもいいかな?」と目配せをする。

 それに気づいたタニアは満面の笑みを浮かべながらビシッと親指を立てる。

 了承してくれたようだが、何かあってはまずいということで、念のためドアを開ける係はタニアへとバトンタッチ。


 ゆっくりと開けられたドアの先には――


「や、やぁ……珍しいお客さんだねぇ……」


 今にも死にそうな顔色をした赤いロングヘア―の女性が床に寝転がっていた。来客に気づいて顔をあげるが、その目にはクマができており、瞳もどんよりと曇っている。彼女は大きめのローブを羽織っているが、明らかにサイズが合っておらす、手元は完全に袖の中へと隠れてしまっていた。


 その姿はまるで――亡霊のようだった。


「「きゃあっ!?」」


 その様子を見たイブリットとタニアは思わず叫んで抱き合うのだった。

  






※次は21:00に投稿予定!

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