第7話 僕はどこに連れていかれる?

「泡にまみれて死んでいった二匹の狼の

 死体は溶けて地面の栄養となり

 私たちはそんな意地汚い動物たちの上で

 成り立っている植物なんだ」


と、お父さんが教えてくれた。




いいや、違う。


いない。


お父さんなんていない。


お父さんなんて。







僕が殺した。




知らないんだ、みんなが思い描いている父親、母親を

僕は知らない。


僕の家庭は異常だったらしい。

それを知ったのだってつい最近で、

それまでは少し変わった家族くらいな認識だった。


僕はもう取り返しのつかないことをしている。


いやもっと大変なことをしそうで怖い。







僕は、今の僕は、どっちだ?


今まで良い子の仮面をかぶって生きてきた自分か


その仮面を剥いで牙をむき出しにしてる自分か。


咳が止まらない、嗚咽も。


臭すぎる。


嫌だったんだずっと。


このタバコ臭い部屋が、そしてその臭いをかき消す芳香剤の匂いまでも。


こんな家、早くぶっ壊れればよかった。


そうすれば、僕がこんな姿にならなくて済んだ。


こいつのせいで、


こいつのせいで、


僕の人生はおかしくなってしまった。


正しい愛情をくれなかったから。


僕はズレてしまった。


目が悪くなったらみんなはどうする?


メガネをかけたりコンタクトをつけたりするだろうね。





じゃあ人格が歪んでしまったら


どう矯正したらいいいんだろうね。


愛情なんて


目に見えても見えなくても


それを受け取る器がなきゃ


地面に落ちて


誰かの栄養になるだけ。


僕は今までどうやって生きてきたんだろう。


何で涙が出ないんだろう。


何で笑顔が上手くできないんだろう。


何で一人になるんだろう。




暗い部屋で一人、僕はこの狼を


不幸なまま殺して


誰の栄養にもならぬようにと


そのまま部屋を後にした。







僕は、その後、知らない山に行って


知らない木の下について


そのまま首をつろうと思ったんだけど、


急に目の前がまぶしくなって、


僕は気を失った。




気が付いたら、ここにいる。


僕が話せるのはここまでです。



「そうか、ありがとう。また気になることが会ったら来るよ。」



そう言うと、知らない女の人は面談室から去って行った。


なんとなくだけど、僕は死刑にならないだろうと思った。


だって、あの女の人が来てから、僕は刑務所じゃないところへ行くと知ったからだ。


わからない、そこで殺されるかもしれない。


でももう僕は怖くない。


本当に怖いのはあの時の自分だ。


もうあんな自分を出さずに済むのなら


どんな罰でも矯正でも受けよう。



そういえば、あの女の人、決まって僕のことを


「少年」と呼ぶんだ。


僕はあの女の人よりも年上なのに。


あの人も変わっているんだろうな。


可哀そうに。

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ちんちんになっていこう。 ゲボ魔人 @tyuudoku123

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