第6話 アホな店長
「相田くんさ、と、年の差恋愛って成立するとおもうかい?」
「なんですか、藪から棒に」
「い、いやね?あくまで憶測なんだけどさ!」
「もしかして、お客さんですか?」
店長はアホだ。
自分の名前を未だにしっかりと書けないくらいにあほだ。
「えぇ~!なんでわかったの!!」
「店長が女性と知り合う状況なんてお客さんくらいしかいないでしょ。」
と言ってもうちはただのコンビニだ。
オーナーであり店長の郷田さんは、
上司に「君、店長になってみないかい?」と言われ、
威勢よく応えたところ、フランチャイズのオーナーにされ、
バイトの時より馬車馬のごとく働いている。
「ご名答!いや、さすが本の犬なだけあるね!」
「本の虫でしょ。で、お客さんから何か言われたんですか?」
「あのさ、よくワカバ買いに来るお姉さんいるでしょ?」
「あぁ、はい。」
「この前、いつもみたいにワカバ渡してお会計済んだんだけど、
帰り際に、俺にウィンクしたんだよ!」
「…それで?」
「いや!ウィンク!しかもお釣り渡すとき、俺の手に触りに来てた気がする!!!」
「ウィンクって…目でも乾いてたんじゃないんですか?ほら、ウチ冷房キツイし。」
「確かにそうだけど!でも100%じゃないよね!可能性はあるよね!」
「まぁ現場見てないですし、そりゃ断定はできませんけど…。」
店長は論破したかのように自信たっぷりな表情をしている。
「あれから彼女のことばかり気になってしまって…
もうアタックしちゃおうか悩んでるんだよね…。」
「結局、片思いってことですね。」
店長はアホだ。
その女性は見た目20代後半の石原さとみ似の美人さんだ。
そんな女性がまずタバコを吸うとしても、紙煙草じゃなく電子タバコだろうと。
ましてやワカバなんてジジイのタバコは吸わない。
すなわち、年上の彼氏なんかのおつかいがてらにコンビニに寄ってるんだろう。
だが、店長にそんな考えは出来るわけもなく。
「多分10歳以上は歳離れてるよね…
だから年の差恋愛って今でもあるのかなぁと。」
「10どころか20は離れてるでしょ。店長50超えてますよね?」
「細かい数字はいいの!」
プルルルル
店内に電話の呼び出し音が鳴り響く。
「あ!ちょっと出てくるね!」
事務所へと戻る店長の背中はもう丸みを帯び始めている。
「店長ってどうしてあそこまでアホになれるんだろうか。」
「あのー。」
「あ、すいません、お待たせしました…。」
なんと、例の彼女ではないか。
「あ、ワカバ一つお願いします。」
「はい。おひとつですね。」
まぁ、俺は関係ないし普通に接客するか。
「あと…郷田さんって今いますか?」
「え、郷田って…」
思わず、言葉を失ってしまった。
「郷田でしたら、今電話に出ておりますので、
少しお待ちいただければお呼びできますが…」
「よかった…!じゃあ店内で待ってますね!」
ニコニコとした笑顔でワカバを握りしめ、雑誌コーナーで待つ彼女。
信じられないが、これは流石にウィンクもあながち嘘じゃないかもしれない。
「どうしたの。相田くん。」
素っ頓狂な顔でアホの店長が戻ってきた。
「店長、噂の女性が来ましたよ。」
「え!まじで!もう行っちゃった!?」
「いや、待ってます。」
「え?」
「店長のこと待ってますんで、行ってきてください。」
「どういうこと?え?告白?早すぎない?」
「いや、僕も内容は聞いてないんでわかりませんけど、
とりあえず行ってください。」
喜びよりも動揺が勝っていたのか、店長は慌てて彼女の元へ駆け出していった。
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