第12話 願い叶え世が終わる


「ねぇミケ、なんでそんなに距離を取るの?」

「気にするな。一過性の気分的なものだ」


 ヨムの村を出て二日。チィの顔を見ると動悸が治まらないミケは、大足で三歩分離れて行動していた。


「……あ、そうだ!! ミケ、私にお願いしてみたら? 気分をよくしてくださいって。そしたら星の力で叶うんじゃ……」

「…………」


 星の話題になると俯いてしまうミケ。そうなると分かっていた筈なのに、何度も同じ話題を振ってしまうチィ。

 皆が喜ぶ素敵な力だとチィは思っていたが……どんなに大勢の人が喜ぼうとも、眼前の友が笑ってくれなければ意味がないと強く思うチィ。

 しかし思う。笑わせることなど、星の力とは関係ないと。


「ミケ、見てみて! 変な顔ー♪」


 両の瞳を中央に寄せ鼻の穴を指で広げ、舌を出すチィ。それを見て眉間に皺を寄せひたすらに怪しむミケ。


「人族はそういった類の顔が面白いのか?」

「えっ!!? お、面白い……よ? よね?」

【基準が分からないけど、多分変だよ。滑稽だと思うからこの状況は面白いけど】


 顔を真っ赤にし、恥ずかしさから小刻みに震えるチィ。それでも止めずに続ける姿に、ミケの口から息が漏れた。

 

「ふふっ、面白いと言うよりかは……愛らしいな」

 

 花を愛でるような瞳でチィに微笑むミケ。

 離れていた距離は自然と傍に納まった。 


「ねぇミケ、ホシノヒトって最後死んじゃうの?」 

「…………どうしてそう思う?」

「ふふっ、ミケの顔を見れば分かるよ」

「では何故……そうも笑っていられるんだ?」

「だって、おばあちゃんになっても隣にいてくれるんでしょ? ミケが嘘つく筈ないから。ミケがいてくれれば私……大丈夫だから」


 チィはミケの手を握り、駆け足で前へ進み出した。七色に輝く毛先が、ミケの瞳を煌めかせる。

 

「ヨムの村でね、願いの声が沢山聞こえて……叶えてあげたいなって思ったら、キラキラした何かと引き換えにドロドロした濁った何かが迫ってきて……いつの間にか気を失っちゃってたの。叶え過ぎちゃうと……あれに飲み込まれちゃうんだよね?」

「……ホシノヒト、願い叶え世が終わる。私達に伝わる言葉だ。ホシノヒトは可能な限り皆の願いを叶えていったそうだが……そういった者こそが、ホシノヒトになれるのだろう。その力もチィも、何も悪いことはない。邪な気持ちこそが……身も心も染めていく。私だって邪な血が……」


 その言葉を最後まで言わせないように、チィはミケの口を己の口で塞いだ。理由も意味も分からないが、ミケにはこれが効くのだと直感で理解していたからだ。

 再び強い動悸がミケを襲う。ただ不快な思いなど微塵もせず、えも言われぬ多幸感に包まれていた。


「私の友達のこと悪く言わないで。あなたより素敵な人、私知らないから」

「…………すまない。その……顔が近いのだが……」

「嫌?」

「そういう訳では無いが……胸が苦しいんだ」

「ふふっ、私も。でもこうしてると落ち着くの。不思議だよね」


 ホシノヒト、願い叶え世が終わる。

 カナイシモノ、ヨコシマと成り地が終わる。

   

 その続きが言い出せないミケは、無邪気に笑うチィの手を強く握り返す事しか出来なかった。

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