第11話 今はまだ、でもいつか
朝日が昇り、ヨムの村は邪(+チィ)襲撃から一夜が開けた。
寝ずに働き続けたミケ。そんな彼女の尻尾に巻かれ赤子のように背負われながら熟睡しているチィ。
どんな衝撃があろうともすやすやと眠るチィを見て、幾度も笑うミケ。
そんな二人のもとに、村の少女ナクが朝食を持ってきた。
「ミケさん、おはよう。お星様は……ふふっ、すごい。そんな所で眠ってるんだ」
「あぁ、余程疲れたのだろう。その呼び方は村の大人から聞いたのか?」
「うん。お星様にお願い事をしてきなさいって。私とそんなに年は離れてなさそうなのに……凄い人なんだね、お星様は」
その純粋な瞳と言葉に、ミケは歯を食いしばった。
獣族に伝わるおとぎ話と人族に伝わるそれはまるで違うものなのだと痛感し、チィを縛る尻尾の力を思わず強めてしまった。
「んぅ……ミケおはよ……ミケのここふわふわで気持ちいいね……」
「おはよう。降りるか?」
「ううん、もう少しこうしてたい」
「そうか、では私も少し休むとしよう」
二人のやりとりを見て、ナクは首を傾げながら尋ねた。
「二人は付き合ってるの?」
その言葉に同時に首を傾げる二人。
そんな三人が首を傾げる異様な光景に、星は笑っている。勿論その様な概念が無い星も意味は分かっていない。
「付き合うってなに?」
「分からんな……ナク、付き合うとはなんだ?」
「えっ!? 知らないの!? 好きな人同士が恋人関係になることだけど……」
その言葉により、更に頭の上にはてな文字が増えた二人。恋愛という概念は獣族には有らず、チィに至っては星が子供を運んでくると思っている程の純粋無垢な始末。
それとなく察したナクは、からかうように世話を焼き始めた。
「ミケさんとお星様、向かい合ってみて?」
「こうか?」
「ふふっ。ミケ、頬に炭が付いてるよ」
「じゃあ唇同士を付けてみて?」
何の躊躇も無く顔を近づけるチィに対して、咄嗟に手の平でそれを塞ぐミケ。
チィの唇を見た途端鼓動は速く力を増していき、得体の知れないその感覚に危機感を覚えたからである。
「ミケ……どうしたの?」
「いや……その……私は獣族だから……こういった習慣が無いというか…………ナク、これはなんの意味があるんだ?」
「ふふっ、これは時間がかかりそうだね」
◇ ◇ ◇ ◇
粗方片付いた建物の残骸。
村から旅立つチィとミケを囲むように、村人達が集まっている。
チィが空けた大穴は湖になり、鳥が何処からか運んできたのか魚が音を立てて跳ねていた。
村人は皆チィに手を合わせ何か小言を呟いている。この状況、どれ程鈍感な者でもあっても勘付かずにはいられないであろう。
「……星に選ばれた人は、皆んなの願いを叶える力があるのかな…………? 私、どうすれば……」
「…………チィの好きにすればいい。但し、如何なる時も己の事を第一に考えて欲しい。誰が為では無く、己の為に」
「……ふふっ、うん!」
爛漫に微笑みながら、祈りを捧げるように両の手を握り合わせるチィ。
湖の周りが星の光に照らされた瞬間、チィはその場に倒れ込んだ。
「……そうか、そういう事だったのか…………」
ミケはチィを優しく抱き抱え、村に背を向け歩み始めた。
「お星様!? 大丈夫ですか!!?」
「心配ない、恐らく星の力を使い過ぎた為だ。村のことは済まなかったが、これで其方達の願いも届きこの村は栄えるだろう。ナク、世話になったな。ありがとう」
その言葉とは裏腹に、ミケは背中から圧倒的な重圧を放っていた。
誰も彼も尻窄みする中、ナクだけは手を振りながら「ありがとう」と感謝の言葉を叫んでいた。
◇ ◇ ◇ ◇
「…………あれ、私……」
「気がついたか。どこか具合が悪い所は無いか?」
「うん、大丈夫。急に身体が重たくなってね……それで……」
言葉達を遮るように、力強くチィを抱きしめるミケ。訳も分からず……ただ、その心内を思い強く抱き返すチィ。ミケの身体は、小さく震えていた。
「ミケ……怖かったの?」
「……大丈夫だ。ただ…………もう少しこのままでいさせて欲しい」
「ふふっ、大丈夫だよ。私はずっとここにいるから…………ねぇミケ、顔を上げて?」
「ん? …………っ!!!?」
優しく唇同士を触れさせるチィ。
その意味も本意も、今はまだ胸の奥。
ただ、唇が離れる時の名残惜しさに焦がれ、ミケは強く強くチィを抱きしめていた。
◇ ◇ ◇ ◇
「そういえばナク、お星様にお願い事したかい?」
「うん、お父さんもしたの?」
「あぁ、勿論だ。ナクはどんなお願いをしたんだ?」
「……ふふっ、あの二人がずっと仲良くいられますようにって」
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