第10話 引き寄せて惹き寄せて


 ヨムの村ではチィが吹き飛ばした家々を一箇所に纏めている最中である。

 人族の身体能力の十倍は有ろうミケの意気衝天な働きにより、この日だけで半分以上もの片付けが済んだ。

 日が落ちても尚働き続けるミケの元に、村の少女ナクが訪れた。


「ミケさん、大丈夫? これ、私が作ったお夜食なの。よかったら食べてね。それと、家の納屋なら使ってもいいってお母さんが言ってたよ! 後で来てね!!」

「あぁ、ありがとう。遠慮なく…………」


 手渡された夜食、強烈な視線をミケは感じていた。その視線の根源を辿ると、瓦礫の影から身体を隠しきれていないチィが見えた。

 真っ直ぐな彼女だからこそ、全てを隠すことが出来ずこうして姿が見えてしまっているのだろうと思うと、ミケは笑ってしまった。


「チィ、そんな所で何をしている?」

「か、片づけ!! と……ミケを……」


 口元で何か呟くチィを不思議気に思い近づくミケ。ナクは手を振りながら家路へと戻っていった。


「どうした? 村の者が饗してくれたのだろう?」

「そうだけど……あんなに人から持て囃されるなんて初めてだし……理由が分からないの。お星様お星様って呼んでくれるんだけど……ミケ、何か知ってる?」


 その問いに、ほんの少し目を見開くミケ。

 下がる尻尾を見て、チィは首を横に振った。


「よーし、片付けるよ!! もっと……もっと強くならなくちゃいけないもん」

「ふふっ。今のところチィよりも強い者は見たことが無いが?」

「……ううん、全然だよ。この力だって星に貰っただけだし、使いこなせないからこんなことになっちゃった。ミケみたいに……格好良くて強くて……頼りになるような人になりたいの。あなたがいなかったら私とんでもないことになってる筈だから」


【もうなってるんじゃない?】

「わ、分かってますから!! だからこうして片付けてるんでしょ? もうなるべく右手は使わない。この左手だけだって、誰かの役に立てる筈だもの」

【キミの長所でもあり短所でもあるその極端な考え方を改めた方がいんじゃないの?】

「そ、そうかな?」

【そうやってすぐ真に受けるからこの村壊しちゃったんでしょ?】

「わ、わざと右手使えって言ったの!!?」 


 見えぬ星の子と騒ぐチィを見て安堵するミケ。

 チィの本当の強さはその能力では無いと思いながら彼女の頭を撫で、疑問をぶつけた。


「それで、先程は何故隠れていたんだ?」

「…………笑わない?」

「あぁ、約束する」


 そのどこか奥ゆかしいチィの姿に高揚するミケ。獣族の元を辿るとかつては夜行性だったと考えれば……そんな理由を考えながらも、ミケはチィの言葉を待った。


「ミケが他の子と話してたり仲良くしてて……ミケが笑うとね、胸が痛くなるの。それで……なんだか恥ずかしくて……ごめん、変だよね」


 当然ミケもその理由が分かる筈も無く、一瞬戸惑ってしまう。ただチィの姿を見ていると、今しなければいけないことがボンヤリと浮かんでいた。


「チィは……どうして欲しい?」


 獣族の持つ最大限の愛情表現。己の尻尾をチィの手のひらに巻きつけると、チィは少しだけ強くそれを握り両の手をミケの前へ広げた。

 引き寄せられるように惹き寄せられ、ミケは優しくも力強くチィを抱きしめた。

 腕の中で幸甚な顔をしながら顔を擦り寄せているチィを見て、ミケもまた同じような顔をしてその小さな身体を感じていた。


「次からは気をつけよう。すまなかった」

「ミケは悪くないよ? 私が……」

「ならばチィも悪くない。こうして隣で笑ってくれることが私にとって最良なのだ」

「ふふっ、私も同じなの。なんだか嬉しいね」


 その言葉と微笑みに、全身が火照りだすミケ。

 そんなミケを心配するチィを見ると、感じたことのない衝動にかられ……訳も分からずに、夜が明けるまでチィを抱きしめていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る