第23話 お揃いの
その後、私は少し予定を変えて、先に服飾店へと向かった。
ここは前に私とレベッカのお揃いの服を作ってもらったところだ。
店内に入ると、前に公爵家に来てくれた商人の方がいて、私のことにすぐに気づいて人当たりの良い笑みを浮かべて近づいてきた。
おそらくこのお店の店長なのだろう。
「これはこれは、ベルンハルド公爵夫人。ようこそいらっしゃいました」
「ええ、前は私の服とレベッカの服をありがとう。とても素晴らしかったわ」
「こちらこそありがとうございました。気に入っていただけて光栄です」
そんな会話をしていると、店長が私の隣にいるアランを見る。
「失礼ですが、そちらは執事の方でしょうか?」
執事? ベルンハルド公爵家当主のアランのことを知らないのかしら?
あっ、そうか、認識を阻害する魔道具の眼鏡をしているからわからないのね。
「えっと……」
アランの正体をバラしていいかわからず、チラッと見て彼と視線を合わせる。
彼は一つ頷いて、眼鏡を外した。
瞬間、店長が目を見開いて頭を下げた。
「べ、ベルンハルド公爵様でしたか! ご無礼を働き申し訳ありません!」
「いい、問題ない。騒ぎにしないようにしてくれ」
「か、かしこまりました。こちらへどうぞ」
店長は軽く一礼をしてから、私達をお店の奥の部屋に連れて行ってくれる。
最初は店の中を軽く見ようと思ったけど、さっきの店長の声で周りの客から注目を浴びているし、奥の部屋に行った方がよさそうね。
奥の部屋に案内され、ソファにアランと横並びに座り、前のソファに店長が座る。
「その、ベルンハルド公爵夫妻、本日はどのような服をお探しで?」
店長がそう聞いてきたので、私が喋り始める。
「今日は三着ほど注文したいの。デザインはまだ決めていなくて、数着ほど見せてもらえるかしら?」
「はい、かしこまりました。ではデザインが描いてある冊子がありますので、そちらを準備いたします」
「ええ、ありがとう」
すぐに店長に冊子を持ってきてもらい、デザインを見ていく。
当然だが、ほとんど女性用のドレスのデザインなどが多い。
「男性用の服のデザインも見せてもらえるかしら?」
「はい、かしこまりました」
店長は全く驚きもせずに冊子を持ってきてくれるが、隣で静かにしていたアランが話かけてくる。
「なぜ男性用を? あまり服については詳しくないが、ソフィーアは男性用の服も着るのか?」
「いえ、さすがに私も着ませんよ」
「ではなぜだ?」
アランは不思議そうに首を傾げる。
「前に私とレベッカがお揃いの服を買った時に、アランも欲しいと言っていたじゃないですか。だから今日、新しく三人の服を注文しようとしたのです」
私が笑みを浮かべて言うと、アランが目を見開いた。
本当はアランが今日ついてくるとは思わなかったので、内緒にしておいてプレゼントしてあげようとしたのだけど。
一緒に買い物に来たので、二人でデザインを選ぼうと思ったのだ。
アランは驚いたようだが、すぐに目を細めて嬉しそうに笑った。
「そうか、ありがとう、ソフィーア」
その笑みは私が予知夢で見た優しい笑みに、今までで一番似ていた。
うっ、今のは不意打ちの笑顔で、胸が高鳴ってしまう。
少しレベッカとも重なって、とても愛らしく感じてしまうわね。
「とてもいい考えだと老います、公爵夫人。うちの店に任せていただければ、ご家族三人の服をしっかり作らせていただきます」
「っ……家族、か」
アランが店長の言葉に反応し、その言葉を復唱した。
周りから見れば、家族と思われているようね。
まあ相手は私とアランが愛のない契約結婚をしているとは知らないから、当然だろうけど。
「ええ、では頼むわ。私とレベッカのサイズは前回と同じだけど、アランは……」
「私は自分のサイズを覚えている。口頭でいいか?」
「はい、ありがとうございます」
アランが店長に自身の服のサイズを伝えて、私とアランは服のデザインを見ていく。
私とレベッカは女性、アランは男性だから、全員が着られる服は限られる。
「アランはどれがいいですか?」
「ふむ、全部買ってもいいんだぞ?」
「ふふっ、ダメですよ。選ぶのが楽しいんですから」
私はアランに冊子を見ながら、「これいいですね。三人でも着られます」と指しながら話す。
「……ああ、そうだな」
アランは少し口角を上げて笑みを浮かべながら、肯定してくれる。
彼も「これなんかどうだ」と指して提案した。
「いいと思います。デザインはこちらの方が好みですか?」
「派手な装飾はあまり好きではないからな」
「ふふっ、アランらしいです」
私達はそんな会話をしながら、冊子の中から選んでいく。
やはり買い物は悩むのも楽しい、それにアランと話しながらだというのがより楽しさが増している気がする。
彼もそう思ってくれているといいんだけど。
「ではこれでよろしいですか?」
「ええ、それでお願いするわ」
アランと選び、一つの服のデザインを決めた。
男性と女性が着られるような上着で、装飾は控えめなものとなっている。
社交界では着られないけど、普段使い用の上着という感じだ。
「ありがとうございます。急いで作らせていただきますので、数日ほどお待ちください」
「ええ、よろしく」
店長が他の店員と喋りに行って、すぐにこちらに戻ってきた。
「ご夫妻が選んだ上着ですが、お二人にほぼぴったりのサイズがすでにありますが、ご試着なりますか? デザインや色などは少し違いますが」
「そうね、雰囲気もわかると思うし、お願いするわ」
「かしこまりました」
そして選んだデザインの上着を持ってきてもらい、着て鏡で確認をする。
うん、いいわね。
個人的にも落ち着いていて好きなデザインだ。
あとは色やサイズを微調整してもらえれば完璧だろう。
「アラン、どうですか?」
私が振り返って、アランが着ている姿を確認する。
うん、とても似合っているわね。
まあアランなら何を着ても似合うだろうけど。
「ああ、とても似合っているな」
「えっ?」
「ん?」
似合っている? えっ、自分の姿を見て?
アランって自分でそんなことを言うかしら?
「どういうことですか?」
「ソフィーアが似合っていて綺麗だ、という話ではないのか?」
「えっ、あ……」
私の「どうですか?」という言葉は、アラン自身の着心地などを聞いたつもりなのだが、アランは違う意味で捉えていた。
……普通に褒められていたようなので、照れてしまう。
「あ、ありがとうございます。その、アランもとても似合っていますよ」
「ああ、ありがとう」
なんだか周りにいる店長や店員に穏やかな視線で見られていて、少し恥ずかしいわね。
その後、私とアランは店長に見送られて店を出た。
ここでは特に荷物を持って出たわけではないので、周りにいるであろうネオが荷物を取りには来ない。
「いいのを選べてよかったですね」
「ああ、そうだな」
私とレベッカ、それにアランのお揃いの服を買えてとても満足だ。
届くのがとても楽しみね。
アランには内緒にできなかったから、レベッカには内緒にしようかしら?
そんなことを考えながら歩き出そうとしたが……。
「ソフィーア、手を」
「あ、はい」
またエスコートをしてくださるのね。
そう思って手を差し出した。
「ソフィーア、約束を覚えてくれていてありがとう」
何のことか一瞬わからなかったが、お揃いの服のことについてだとわかった。
「約束したのですから、もちろん覚えていますよ」
「ああ、だがとても嬉しかった。ありがとう」
アランはそう言って微笑み、私の手を取って……手の甲に唇を落とした。
何が起こったのか一瞬わからず固まってしまったが、彼の唇の感触や熱があとから伝わってきて、一気に顔が赤くなっていく。
「え、えっ……!」
手の甲と彼の顔を交互に見て慌てふためいてしまう。
私の様子を見てか、彼はまたクスッと笑った。
「ふっ、大丈夫か? 顔が真っ赤だが」
「っ、だ、誰のせいですか……!」
「私のせいか? まあ、そうだろうな」
楽しそうに笑うアラン、私は恥ずかしくなって視線を逸らした。
まさか彼がこんなことをしてくるとは思わなかったので、本当に驚いた。
今まで一番胸が高鳴ってしまっている。
「ソフィ―ア、嫌だったか?」
「い、いえ、嫌では、なかったですが……」
「そうか、それならよかった」
穏やかに笑ったアランは私の手を取り、街中を歩いていく。
「次はどこへ行くのだ?」
「え、えっと、あちらです」
「逆だったか。ではソフィーアが落ち着くまで適当に歩こうか」
「は、はい……」
その後、しばらくアランに手を引かれて街を歩いたが……なかなか顔から熱が引かず、彼の顔も見られなかった。
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